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ドリームワールド  作者: あげぱん
見習い編
2/19

第1話 日常

 今日は始業式だ。

 今年で高校二年生になった僕、一之瀬翔は新しい教室でぼーっとしていた。

 昨日見た夢は、不思議な夢だった。

 ドリームワールド、だったか。

 夢中のMMORPG、VRMMORPG、確かに面白そうではある。

 しかし今考えると、それもただの夢だったのかもしれない。

 第一、自分の体を動かすようにって――

 そこで僕は思考を停止させる。

 手元に影がおちたからだ。

 振り返ると、そこには男女二人が立っていた。

「おいっす、翔」

「おはよう、翔くん」

 僕の友達の、玖波優弥(くばゆうや)平井咲(ひらいさき)だ。


 優弥は、金髪でいつも元気で明るく、ムードメーカー的存在だ。

 黒い学ランを着ると金髪がより目立つが、強面と言うよりは優形で、そこそこの端正な顔立ちをしているので、不良と間違われたことはないらしい。

 僕とは、小学校からの付き合いで、親友とも呼べる仲である。


 咲は、細くて穏やかな眉とは対照的に、ぱっちりと大きい瞳の持ち主の可愛らしい女の子だ。

 首までの少し長めの栗色のショートカットにはいつも違った飾りをつけている。

 今日は、始業式に合わせて来たのか、ピンク色の小さな桜だった。

 胸に青いリボンのついた冬用の黒のセーラー服もばっちり似合っている。

 彼女とは、高一の時に隣の席になり、親しくなった。その時に優弥も席に遊びに来ていたので、成り行き上仲良くなっていた。


「おはよう、二人とも。もしかして、同じクラス?」

「ああ、そのもしかしてだ」

「今年度もよろしくね!」

 クラスが変わって上手くやっていけるだろうかと心配していたが、仲のいいこの二人が同じクラスだととても心強い。

 この二人がいるなら、クラスで孤立することもないだろうから、無理して新たな友達を作る必要はなさそうだ。

「こちらこそ!」

 僕は、笑顔でそう返す。

「そんで、お前は何ぼーっとしてたんだよ?」

 優弥に顔を覗き込まれる。

「いや、なんでもないよ……」

 何かあったにはあったのだが、あいにく他言無用らしいので、言うことはできないのだ。

 許してくれ、優弥。

「まあ、なんかあったら相談してくれよな。困った時はお互い様だからな」

 誇らしげに胸を叩く、優弥。

 しかし、どうにも頼りなさそうだ。

「ああ、お互い様な」

「それで相談なんだが、宿題見せてくれないか?」

 さっきの誇らしげな態度から一転、今度はごまをする優弥。彼はこういう滑稽なやつなのだ。

「いいだろ? 困った時はお互い様ってさっき言ったじゃないか」

 優弥は最初からこれが目的だったらしい。

「まったく、しょうがないなあ……」

 そう言って僕は宿題を渡す。

「あんがとさん」

 そう言うと、優弥は自分の席に着き黙々とそれを移し始めた。

「あんな風に言われたら、断れないね」

 咲が苦笑気味に言う。

「そうだね。ずる賢いって言うか、なんと言うか……」

 僕もつられて苦笑した。


 * * *


 キーンコーンカーンコーン。帰りのチャイムが鳴る。

「それでは起立、礼」

「さようなら」

 生徒たちは挨拶し、各々に解散し始める。

 あたりはすぐに喧騒に包まれた。

「おーい、翔。部活行こうぜー」

 優弥がかばんを持ってやってくる。

 僕と優弥は同じ剣道部である。

「うん」

 一つ返事で返し、席を立つ。

「あ、二人ともまた明日。じゃーね」

 咲が僕たちに手を振る。

 彼女は吹奏楽部だ。

「また明日ね」

「じゃーな、咲ちゃん」

 僕と優弥がそう返すと、咲は教室を出て行った。

「そんじゃ、俺たちも行くか」

 僕たちも、教室を後にした。


 * * *


 剣道部の活動場所である武道場へ行くと、その玄関に一人の女子が立っていた。

「こんにちは、島津先輩」

「綾波先輩、こんちわー」

 島津綾波(しまずあやは)先輩だった。


 島津先輩は、剣道部に所属する三年生、つまり僕たちの先輩にあたる。

 焦げ茶色の腰まで伸びる長い髪は、剣道では邪魔になるためポニーテールにしている。

 背が高くつり目がちだが、目鼻の整った綺麗な顔立ちをしていて、面で隠れてしまうのがもったいないくらいの美人だ。


「優弥……。学年が変わっても成長が見られないな……」

 島津先輩が握り締めた拳を震わせている。

 理由は分からないが、彼女は名前呼ばれることを毛嫌いしていた。

 優弥はそれを知っていて、わざと彼女を名前で呼ぶのだった。

 しかし、それは嫌がらせではなく、彼なりのコミュニケーションなのだろう。

 それが、一年間優弥と島津先輩のやり取りを見て、僕が思ったことだった。

 島津先輩もそれに対して怒りはするが、それは動物がする甘噛みのようなもので、本気で噛み付いてくる事はないのだ。

「学年が変わったって、成長するとは限りませんから」

「そうだな。精神年齢が三歳で止まってるもんな、お前の場合」

「いやいや、三歳は言いすぎっすよ、綾波先輩」

「いや、これでも大目に見積もってやったつもりだが」

「じゃあ、本当は何歳だと思ってたんっすか……」

「聞きたいか……?」

「いや、遠慮しておきます……」

 そんなこんなで、優弥と島津先輩の茶番(コント)は日常茶飯事だった。

「なら、さっさと練習!」

 島津先輩の唐突の一喝に、優弥だけでなく僕もびくりと肩を震わせる。

「はい!」

 そろって返事をし、僕たちは練習を始めた。


 * * *


 家に帰る頃には、空は茜色に染まっていた。

「ただいまー」

 そう言って家に入ると、パタパタと足音を立てながら誰かが玄関にやってくる。

「おかえりー」

 妹の一之瀬舞花(いちのせまいか)だった。


 今年で中学三年生になった舞花は、不在の両親の代わりに家事全般をしてくれる頼れる妹だ。

 さらに成績優秀で、中学校では生徒会長を務めている。

 髪色は僕と同じく青みがかった黒色で、髪型はボブのため、ただでさえ丸い顔がより丸く見える。

 顔つきもまだあどけなさが残り、丸顔も相まって幼く見える。

 ちなみに、僕は彼女のことは舞と呼んでいる。


「もうちょっとでご飯できるからね」

 舞はそういうと、キッチンへ戻っていった。

 僕は二階に上がり、着替えをする。

 再び僕が一階に戻ると、美味しそうな夕飯がダイニングテーブルに並んでいた。

 今日の献立は肉じゃがのようだ。

「いただきます」

 僕たちは椅子に座ると、そろって手を合わせた。

「それにしても、入学式から大変そうだね、舞は」

 中学でも今日入学式があり、生徒会長である舞は朝早く家を出て行った。

「入学式だから大変なんだよ。でも、これが終わったから後は大きな行事も残ってないけどね」


 舞の通う中学校は、生徒会が前期後期に分かれる。

 前期は五月から十月、後期は十一月から四月までが任期である。

 彼女は後期生徒会長なので、任期は四月まで。

 四月の主な行事は入学式や始業式だが、逆に言えばそれくらいしかない。


「引き続きやろうとは思わないの?」

 僕が尋ねると、舞は考える。

「うーん……。立候補するつもりではいるけど、今度は当選するか分からないからなあ……」

 不安気味に俯く、舞。

「大丈夫だよ。一回生徒会長やってれば、その文信頼と実績があるんだから」

 僕はそんな彼女を勇気付ける。

 彼女が生徒会長をやってくれれば、兄として誇らしい。

「そうだね。それに今考えたってしょうがないか。立候補する事になったら、演説の練習には付き合ってね、お兄ちゃん」

 彼女は顔を上げてにっこり微笑む。

「うん。いくらでも付き合ってあげるよ」

 僕はそう返事をし、じゃがいもを一口食べた。

「熱っ!」

 僕は猫舌なのだ。


 * * *


 僕は鏡で髪を整え、それから布団に潜り、考えていた。

 ドリームワールドのことだ。

 朝は、信じていないような素振りを見せていたが、やりたい気持ちももちろんあった。

 というより、懐疑心よりも好奇心のほうが上回っている。

 髪を直したのもドリームワールドがあると信じているからだ。

 後で変えられると言われても、気になるものは気になる。

 本音を言うと服も変えたいが、なかったらということを考えると恥ずかしいので、パジャマのままだった。

 ドリームワールドがあるかないか。

 考えていても、答えは一向に出ないだろう。

 寝てしまったほうが早い。

 寝て、ドリームワールドに行けなければ、明日優弥たちに話して笑い話にでもすればいい。

 行けたら行けたで、ドリームワールドがあったということの証明になる。

 僕は、逸る気持ちを抑えゆっくりと目を閉じた。

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