手を取る二人〜働き者で只者ではない婚約者〜
なんだ⁈なんで泣いているっ‼︎
「ハンナ、一体何事が起きている?」
駆け寄ったセレンに涙を拭われながら、ハンナは二年振りの婚約者を見つめた。セレンの方もすっかり娘らしくなっているハンナを改めて見て驚きと自分への怒りが湧いてきた。
「すまん、ハンナ。仕事など放って会いに行けばよかった・・・二年も放ったらかしにされて辛かっただろう、本当に悪かった。」
「いえ、いいえセレン。あなたは私を心配してちゃんと見張りを付けていてくれていたでしょう?だから私あなたを信じて待てたの。」
「・・・え・・・ば、ばれてたのか。」
なんとか取り繕おうと慌てるセレンにハンナは微笑んで言った。
「はい、いずれ騎士の妻となるからには身の周りに注意していましたから。向こうの方はご存知ないと思いますけど。・・・でも、無駄な努力だったでしょうか・・・セレンはなぜ私がリラの店も辞めさせられ、領地から父が呼び出されたのかご存じないのですか?」
「わからん、リラの所は辞めさせられた?父上は誰に呼び戻されたのだ⁉︎」
ハンナは一呼吸おいて告げた。
「皇室からの呼び出しとしか私も聞いておりません。」
皇室⁉︎は?皇帝が何の用事で傾いた子爵と娘に呼び出しを⁈そこでやはりハンナと同じく爵位剥奪や領地没収など考えた、そして肝心の話しを問いかける。
「ハンナ・・・まさかとは思うが婚約破棄などの話しは出ていないか?その、領地の方の何処ぞの家に縁談だとか。」
「いいえ、伯爵様も父もそれだけはないと言ってくれました。あの・・・セレンはそういった話しは?」
「まさか!私はハンナだけだ・・あ、」
言ってから顔を赤らめ片手で顔を覆い隠す歳上の婚約者につい可愛いと思ってしまった。
「あ〜、ハンナ?その、君はどうなんだろう二年も仕事を言い訳に顔も見せなかった不義理な男だ、呆れて嫌になってないか?」
フルフルと横に頭を振り真っ直ぐに見つめてハッキリと答えた。
「天使の騎士団長は大変なお仕事なのでしょう?実は先日、リラの店に皇妃様と思われるお方がお忍びでいらしてました。私は絵姿でしか拝見したことがございませんが、皇妃様はその様に度々お忍びでお城を抜けられるのですか?お供は侍女と見られる方お一人でしたが。」
セレンはハンナの洞察力に脱帽しながら尋ねた。
「待て、その侍女らしき者の髪と目の色は?」
「ブルネットの髪に青い瞳、背丈は私と同じくらい。皇妃様と見られる方は鬘でしたが瞳は濃い碧色でした。」
「・・・これは、内密にしてくれるか?間違いなくその二人は皇妃様と侍女だ。これだから、始末書やらで休みもロクにないんだ。」
「私、その時になにか粗相をしたのでしょうか?」
ハンナは店での様子を話した、セレンは難しい顔になる。
「ハンナ、多分皇室からの話しは侍女として召し上げたいという内容だ。くっそ、そんな事になったらますます婚期が延びる。」
「ええ⁉︎なぜ侍女に‼︎」
「あの方の行動は大体読める、どうせ店でのハンナの対応が気に入りしかも私の婚約者と知り同じ職場にすれば一件落着と考えたんだろうがそうは行くか!急ですまないが聞いてくれるかハンナ。」
「はい?」
「爵位もないもしかしたら不敬罪で飛ばされるかもしれんが、もう限界だ。ハンナベルタ、私と今から結婚をして欲しい。」
「はい・・・ええ⁉︎い、今からですか⁈」
「そうだ、いつ迄もあの跳ねっ返りの皇妃殿のいいようにはさせん。今から父上達の所に行き報告をし、すぐに教会に行こう。」
あまりの唐突な行動に面喰らったが、ハンナはセレンに全てを任せた。二人は手を取り客間を後にし自分達の親に結婚の許可を得に急いだ。