表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不器用な騎士と働き者の婚約者  作者: にしのかなで
8/15

二人の出会い

セレン・ヴァン・エルメリヒは伯爵家の三男として生まれた。彼が10歳になる年に父親の友人ファンテル子爵家にハンナベルタが誕生する。古くからの旧友であった父親同士が彼女を生まれてすぐにセレンの未来の花嫁にと取り決められ、セレン本人も産まれたばかりのハンナの愛らしい笑顔や仕草にこの子を一生大切にしようと誓った。


歳の差がありセレンはなかなかハンナと会う機会が少なくなったが、それでも騎士団に入隊してからも暇を見てはハンナに会いに訪れていた。初めは小さな妹の様に感じていたが社交界デビューのエスコート役になった時、少女が花開いて行く瞬間を見た。正確にはこの時彼は本格的にハンナを意識したのだと思う。


しかし、それからすぐに皇帝が皇妃を迎えその近衛隊隊長となりそこからはアルメリアの素行の後始末に追われ気がつけば二年、大事な婚約者に会えなくなることになる。しかし、大事な婚約者に悪い虫がつかない様に密偵を貼り付けることで心の平穏をなんとか保っていた。


さて、ハンナの方は物心つく前から兄の様に可愛がってくれるセレンが大好きだった。まだ実家が行き詰まる前にはお互いの家を行き来しその度に「セレン、セレン」と、後をついて回りその様子は微笑ましく両家に見守られていたが、母が亡くなりそれにより父が憔悴し段々と家の内情が傾いて行く中彼女は母親譲りの器用さと、最後まで残ってくれた乳母の指南で料理、裁縫など家事全般において一通りの事を身に付けお陰で父が領地に引っ込んだ後もリラの店に働く場を提供してもらえた。


社交界デビューはドレスも自分で作り伯爵家からの援助もありなんとか体裁は繕えたが、その時にも既に久々の再会のセレンがあまりに立派で自分を不釣合いに引け目を感じてしまったが、セレンはそれまで以上に彼女を一人の女性として扱ってくれた。


それまでも伯爵家を通して城内侍女への推薦の話があったが、傾いた名ばかりの爵位で城内に上がるよりも好きな仕事を気負わずやれるリラの店を例えお給金が少ないとしても選んだのだ。そして、彼女は仕事を楽しみながら働いた。


実はこの選択に一番ショックを受けたのはセレンだった、侍女として城に来れば顔を合わす機会も増えると思っていたのにと肩を落とし暫くは彼の部下は厳しい訓練を強いられた。


その可愛い愛するハンナベルタが何があったのかリラの店を辞め、自分の屋敷に引き取られているという。まさか、子爵と共に領地に行き何処かの小金持ちとの縁談でもあるのか⁈考えながら彼は愛馬を走らせた。


そして、屋敷についた時に客間の一つから若い女性のすすり泣く声が聞こえてきた。一瞬思案したが思い切ってノックをする。


「はい、どうぞ・・・」


弱々しいがその声は確かに彼が一番愛する婚約者の声だ。緊張しながらドアを開ける。


「ハンナ?」


驚いて振り返った少女のあどけなさの残る瞳は赤くなり、色白の頬には涙の後があった。


「・・・セ、レン?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ