皇妃アルメリア時々街娘メリア
そんな厳重な監視の中でも、アルメリアは上手く騎士団を巻いては城を抜け出す。今日は街娘の変装で市街を歩く、流石に本人も皇妃という自分の立場は理解しているらしく城を抜け出す時はいつも侍女兼護衛のサーラを連れて歩く。
当然サーラも一応反対をする、しかし以前近衛に連絡する隙に逃げられた苦い経験から二度と離れないと誓った。説得が失敗すれば、侍女から護衛にシフトするのだ、そのために日夜アルメリアが公務の間は鍛錬を積んでいるという年頃なのに哀しい乙女であった。
(これはもう、お嫁に行くなんて無理だわ。)
サーラの心中を知ってか知らずかアルメリアは軽い足取りで街を歩く。彼女もただ退屈しのぎに抜け出すわけではない、立場を脱ぎ捨ててこそ手に入る情報があるのだ。工事の必要な箇所、水路汚染、親を亡くし行き場のない子どもたちの現状・・・そういった事もちゃんと見ている。
が、今日のアルメリアには目的があった。以前から行きたかった雑貨屋に今日こそ行くのだ!そこで作家の一点物のクマの縫いぐるみを手に入れるのが目的だった。そう、それは当然ハンナの働く店で作家とはハンナの事である。
「メリア、歩くのが速すぎます。」
皇妃の立場を脱いだ彼女はメリアと名乗っていた。
「え〜っ、だって急がないと売り切れちゃうよ。」
「クマでなくても良いでしょう。」
「はぁ〜あ、サーラ。アレはね、ただの縫いぐるみと違うのよ?お願いすればその場で作家さんが名前を刺繍してくれるのよ、アレをテアにプレゼントするの。もちろん、お揃いでね。」
付かず離れずの距離のサーラににっこり微笑み自慢気に言う。
「知ってた⁈その作家さんてセレンの幼馴染なんだってっ!もぉ、紹介してくれればいいのにさ。」
「メリア?」
「ん?」
「その方はただの幼馴染ではなくて彼の許嫁ですよ。」
アルメリアは一瞬ぽかんとした顔をした。
「じゃ、早く結婚すればいいのにぃ〜。そしたら、お城に招いて色々習ったり作って貰えたりするじゃん。」
貴女が大人しく城内に居れば、彼等もとっくに結婚してますよー。と、サーラは心で呟いた。
「んんっ⁉︎確かセレンて何年か婚約者に顔も見せてないとか聞いたわよ、私。」
ええ、貴女の素行のせいですね、てかどこで仕入れたんですかその情報。
「セレンてさー、確かに顔はイイけど真面目過ぎるんじゃないかなぁ?たまにはさ、私の事を忘れて彼女に顔見せに行かなきゃ振られちゃうよ?」
いえ、それ無理ですから、貴女がこんなフラフラしてるうちは絶対無理。可哀想にセレン隊長・・・婚約破棄になりませんように。