密偵ーフェンデル少尉ー
「セレン隊長、今日もハンナ嬢の身の回りには異常ありませんでした。無事お仕事を終えそのまま勤務先の二階へ上がられたご様子です。」
「そうか、ありがとう。」
「あの隊長、いつ迄見守りをお続けになられるご予定ですか?失礼ながらハンナ嬢も適齢期に入られましたし、そろそろお迎えに行かれては・・・」
天使の騎士団隊長セレンに報告・進言しているのは彼が個人的に軍から引き抜いたフェンデル少尉である。セレン個人の側近として秘書兼隊長婚約者の見守り役を・・・そう主に一日ハンナの様子に異常がないか、つまりは悪い虫がつかないよう毎日監視するのが彼の役目である。
「ハンナは、私が顔を出さなくても平気でいるのだろう?」
「はあ、今日は流石に幼馴染の店の娘に他へサッサと嫁入りすればいいと言われておりましたよ。」
「・・・くそ、リラの奴めそんな事を。」
「いやだってね、隊長。もう二年顔を合わせてないそうじゃないですか、俺だって自分の妹なり知り合いの娘が家同士の取決めとはいえそんな扱いされてたら他所に嫁に出したくもなりますよ。」
「・・・」
「あれ?どうしたんですか?」
「お前はいいよな、毎日ハンナの顔が見られて。私は仕事に縛られなかなか外にも出られん。」
社交界でも人気の高いセレンがまさかこんな事で悩み深い溜息をついているなど誰が思うだろうか。セレンの仕事は確かに忙しかった。それは皇妃アルメリアの日頃の所業のとばっちりでもある。
エンダリス皇帝リステアが4年前ねある日、離宮の側の森に狩りに出たところ湖の近くに佇んでいたのが当時推定14歳の現皇妃アルメリアである。彼女は記憶を失い気が付けばそこに居たという、そんな名前も歳も身分すら解らない少女に皇帝は一目で恋に落ちた。そして、少女を離宮に引き取り名を与え一通りの教養を付けさせ3年後に正式に皇妃として迎え入れた。湖が与えた天使のような美しさから彼女の騎士団は天使の騎士団と言われるようになったのだ。
しかし、この皇妃なかなか好奇心旺盛で自由奔放。目を離すとすぐに侍女姿に変装し街中に出ようとしたり城の中に居ても気づけば厨房でお菓子を焼いていたりと、とにかく目が離せないのである。
そんな皇妃にベタ甘な皇帝は厳重に見張るよう四六時中近衛兵を交代で貼り付けることにした、皇妃も公務だけはキチンとこなすのだ。なので皇妃の愛らしい悪戯や冒険は寛容に見られている、まあ流石に一部の人間しか好奇心の塊の皇妃を知る者はいないが。
つまり、天使の騎士団と聞こえはいいが要するに皇妃のお目付役である。彼女が何かしでかせばこっそりと尻拭いをする、それがセレンの現在の主な仕事で世間の評判とは違い何かと気苦労が絶えないのであった。