結婚式
一方その頃セレンに手を引かれハンナはドレスの裾を踏まない様気をつけながら馬車から降り立った。目の前では小さな教会の扉が開かれている。ハンナは裾を汚さない様歩きセレンは聖堂に入る。中には先触れで話しを聞き準備していた司祭が柔かに二人を迎える。三人の他に誰もいない聖堂の下、司祭が紡ぐ言葉に二人は答え誓いのキスをした。
ー汝らこれから先富める時も貧しき時も、健やかな時も患う時も手を取り合い助け合い死が二人を別つ迄共に愛し生きる事を誓いますか?ー
若い二人の婚姻を知らせる鐘が鳴り響き、ハンナはセレンの顔を見上げると
「よろしくお願いします、旦那様。」
と、はにかみながら言った。セレンは頷きハンナを抱きかかえ馬車に乗り込み来た道を帰る。
「はぁ〜、やっと結婚できた・・・。」
「はい。」
「急ですまなかったな、ハンナ。」
「いいえとんでもございません。とても嬉しゅうございます。」
微笑む花嫁は輝かんばかりに美しい。セレンはハンナの頬に口づけを何度も落とし、苦労をかけるかも知れないが必ず幸せにすると囁いた。
「あの・・・セレン?帰ったら皇室からの使者様がいらっしゃるのでは・・・」
「ああ、忘れていた。誰が来ているかは大体検討が付くが、私から上手く話す。心配はいらないよ。」
幸福な二人を乗せた馬車は伯爵家へと真っ直ぐ帰って行った。
伯爵家の玄関に着くと意外にもサーラが出迎えてくれた。
「この度は皇室よりハンナベルタ様にご用件があり使者として参りましたが、まずはお祝いを言わせてくださいませ。セレン様、ハンナベルタ様本日はご結婚おめでとうございます、心より祝福申し上げます。」
「ありがとうございます。急な事でお待たせしてしまい申し訳ありませんでした、それで私にご用件とは?」
「はい、ハンナベルタ様には皇妃様が是非側付きの侍女にと申しておりましたがこの度のご結婚でお立場も変わりましたし、一度帰ってまたご連絡を差し上げます。セレン様、ご新居はどちらに?」
「あ、いやまだ決まっていないのだが当面は我が家の使っていない離れを仮住まいにしようと思う。事前に報告もなくすまなかったな、サーラ。」
「いいえ、あの隊長がよくここまで事をお進めになられたこと、感服しております。今日はお仕事には戻られますか?」
「ああ、フェンデルに仕事を押し付けて来てあるからな。皇妃様にもご報告をせねばならん。」
「左様でございますね。では、私は先に城に戻っておりますので後程お会いいたしましょう。ハンナベルタ様、花嫁姿とてもお美しゅうございます。セレン隊長はお忙しい方ですが真面目な実直な方です、どうかお幸せに。」
「ありがとうございます。あの!先日私の勤め先においでて下さった方ですよね?私が前掛けを差し上げたのが皇妃様。あの時は失礼ながらと思いましたが、お忍びの様でしたので他のお客様と同じ扱いをしてしまいご無礼いたしましたこと、お詫び申していただけますか?」
「・・・気づいておられたのですか?」
「はい。絵姿でしか拝見したことがございませんでしたが。あの時ご所望でした品ですが只今2体製作しております。出来上がりましたらセ・・し、主人を通してお渡ししたいのですが。」
働き者とは聞いていたが、ここまで目敏く見抜けるとは・・・。驚きつつもハンナの申し出に微笑んで了承した。やはり、この方が皇妃様の側に居てくださればあの方の寂しさも埋められるかもしれない。