結婚狂騒曲
小君味の好い馬の足音を聞きながら馬車に乗っているのは皇妃アルメリアの侍女サーラである、彼女が皇帝夫妻の命によりハンナを皇妃付き侍女にと説得役になったのだ。
(なんで私が・・・)
溜息をつきながらあと少しでエルメリヒ伯爵邸という所で一台の馬車とすれ違う。カーテンで中が見えなかったがあれは・・・伯爵家の紋様?
「・・・なんだか嫌な予感がしてきたわ。」
すれ違った馬車の中には慌てて着替えたハンナとセレンが居た。二人は街の小さな教会に向かっている。ハンナの叔父が司祭を務める二人には馴染みのある教会だ。
あの後セレンはハンナの手を引き両家の親に急遽結婚の許可を得るために皇室からの使者の用件の予想を説明した、本当に二人の予想通りだとすれば確かに結婚を急いだ方がいい。それに両家とも二人の婚姻を待ち望んでおり気を揉んでいたのだが、あの真面目で堅物悪く言えば要領が悪く不器用なセレンが珍しく慌てている様子を見て両家は異存なく二人を見送った。
ただ子爵には心配がある、セレンは子爵家に入り婿し爵位を継ぐ予定だがもしかすると爵位も領地も剥奪される話しかもしれない。
「子爵殿、それでも私はハンナベルタ嬢を妻としたいのです。」
頼もしい彼の言葉に父は娘を祝福し、伯爵夫人は以前から用意していた白いドレスを侍女を急かしてハンナに着せた。
「やっとあなたにお母様って呼んでもらえるわ。」
にっこり笑うと伯爵の用意した馬車に乗せ教会に送り出された。
入れ替わりに伯爵邸に到着したサーラは伯爵から二人は先程結婚式を挙げるために教会に向かったと説明を受ける。あらまぁ、あのセレン様がそこ迄なさるとは・・・城を急いで出る姿は見たがこの行動は想定外だった。
「それで、この度の御用件と言うのは・・・」
「はい。まずファンテル子爵にご相談なのですが、皇妃さまがこの度そちらのお嬢様ハンナベルタ様を側付きの侍女にと申しております。」
「しかし、うちの娘をなぜ?我が家はご存知の通り傾いた子爵家にございます。城内で皇妃様にお会いする機会もないはずのあの子を皇妃様はどちらで見られたのでしょう?」
これにはサーラもにっこり微笑み
「ハンナベルタ様は皇妃付き侍女、兵士を問わず天使の騎士団長の大切なご婚約者様として有名ですわ。今回、その話しを詳しく皇妃様がお聞きになられ爵位のある身分ながら質素堅実に働かれているご様子や皇妃様御自身が信頼を置かれていますセレン隊長から非常に大切に想われているにもかかわらず、なかなかお会いする機会もないと知りそれでは側付きに上がって頂いて一日も早くご婚礼に結びつく様計らえないかと思われた様です。また、ハンナベルタ様の様な方には御自身の話し相手になっていただければとも仰っておりました。」
「いや、しかし皇妃様ともあろう方ならば末端貴族の娘よりも上位貴族の御令嬢などが相応しいのでは・・・?」
子爵の言う事はもっともだ。しかし、アルメリアもあれで苦労しているのだった。サーラが言った最後の言葉はサーラ自身の願いでもあった。