ハンナベルタ・ヴァン・ファンテル子爵令嬢
エンダリス皇国の雑貨屋で働くハンナは幼馴染のセレンと家同士の約束で婚約している。
お互い貴族の地位にはあるがセレンと違いハンナの家は没落貴族の子爵令嬢。方やセレン・ヴァン・エルメリヒは伯爵家三男とはいえ皇室直属の騎士であり皇妃アルメリアの近衛兵を務めている別名天使の騎士団の一員だ。
ハンナはそのお互いの境遇の差に劣等感を持っている。自分などセレンには不釣り合いだし、第一もう二年は会っていない。
「だーかーらー、ハンナもお城勤めすればいいのにぃ。」
雑貨屋の娘でこれまた幼馴染のリラが言う。セレンさん人気あるんだよ?心配じゃないの、あ!婚約してるから強気なの⁉︎でも二年も顔も出さない男よ。
「あ・た・し・だったら、お断り。」
そうはっきり言い切る、 リラの店は主に布地を取り扱い小物なども作っている。元々は顧客であった子爵令嬢のハンナはその器用な手先とセンスを買われて雇われた。
「んー、だって天使の騎士団でしょう。忙しいのよ、あれ?あの人幾つになるんだっけ、私とリラが17だからー。24?え、もっと?」
「・・・27よ、しっかりしなさいよ。あんたさー、親の決めた縁談だかなんだか知らないけども、この店のお客さんの中にも息子に是非って人もいるし自分じゃわかんないだろうけど結構人気あるのよ。どうせ没落貴族、さっさと小金持ちの旦那でも見つけたら?」
うっ、セレンもうそんな歳なんだ。女の一人や二人居ても不思議じゃないよね・・・。
「って、聞いてる?」
「う、うん。セレンが10歳も違うのにビックリした。」
はぁ〜、だからもう・・・深いため息をつき頭を押さえる幼馴染にどうしたのかな、と思いつつ店頭で仕事を進める。布地を取り扱うのは楽しい、異国から見知らぬ生地が来たり自分の作品が売れたり。ハンナは現状にそう不満はなかった。
セレンにしたって、忘れていなければいつか迎えに来るだろうしその日のための蓄えもいる。また、忘れられているのなら傾いた実家を立て直すのにやはり蓄えは必要だ。おっとりして少し天然系ではあるが、これでも一応将来については考えているのだった。
そんな真面目に働くハンナをほぼ毎日見つめる影があることには気づかず、今日も仕事に精を出すハンナであった。