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26話

熱い抱擁の後でリーグはすぐにイレアナがなにかをかくしていることに気がついた。イレアナが胸に抱え込んでいた洋服に気がついたリーグは、それを隠そうとするイレアナを見て伸ばしかけた右手をぎゅっと握り締めておとした。

あの後から今まで彼はなにも言おうとしないのだが、その沈黙が言葉よりも何よりも語っていた。

彼が、きづいてしまったことをーーー。

イレアナは黙ったままリーグの横顔に視線を少し向け、その固い表情に怯えたようにして瞳を固く閉じた。

たった一回のことで自分はどのように変わってしまったのだろうか………。

イレアナが唇を噛み締めながら重い沈黙に堪えているとようやくリーグが口を開いた。

「ここで待っていてくれ」

そう言い残すとすぐに走り去っていってしまう。

イレアナはその言いつけを守ってその場から一歩も動かずにぼんやり立ち尽くしているとリーグはすぐに馬に乗って戻ってきてくれた。

彼は厳しい顔つきのままイレアナを馬上にあげるとすぐに馬を走らせた。

目的地もなにも話さないのでイレアナは訪ねようとした口を閉じた。

ここではないどこかへ連れていってくれるというなら、そこがどこだろうとかまわない。

イレアナはその考えを自暴自棄なものだとは思わなかった。

薄暗い森の中をリーグは静かに馬を走らせる。

前に座らされたイレアナは振動に揺られながら後頭部に当たるリーグの胸の暖かさと鼓動を子守唄に微睡んでいた。

雨雲はすっかり東の空の彼方へと消えてしまい、木々の切れ目からは満月に近い月が顔を覗かせ始めていた。



少し走り続けてからイレアナはようやく気がついた。目的地は森の中の小川だったのだ。

この小川はイレアナとリーグのが幼いときから冒険だといって何度か来たことがある思い出のある場所だった。

イレアナは幼い日のほほえましい思い出と同時にこの小川に二人で最後に訪れた日のことを鈍痛とともに思い出した。

それはまだ片目を失っていなかった頃の話だ。

馬に一人で乗れることが楽しくてしかたがなかったリーグが一緒に馬に乗ろうと声をかけたのが悲劇の始まりだった。

まだ子供だったリーグにはじめての二人乗りは早すぎたのだ。

あっという間のことだった。

イレアナの小さい体がするりとリーグの腕の中から抜け落ちるとほぼ同時に顔の半分が打たれたような衝撃が走り気を失ってしまった。

そして次にするどい痛みと熱さに飛び起きた時イレアナの狭まった視界に入ってきたのは泣いているリーグの顔だった。

あの時以来、つぶれた瞳に光がうつることはなくなった。

イレアナが光を失った日のことを思い出していることに気がついたのか、それとも彼も同じく思い出したのかはわからないが、リーグは後ろからしっかりとイレアナの身体を抱き締め直した。


「もう二度と離さないから…」


ずっと黙りこんだままだったリーグの悲壮な決意に満ちた一言にイレアナは馬の揺れに紛れながら小さく頷き返すことしかできなかった。









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