24話
今朝からずっと絶えず降り続けていた雨がようやくあがった。
リーグは足元が泥で汚れるのも気にせずに馬小屋へと向かっていた。一人でどこかへ行きたい気分だったのだ。誰にも会わず、忘れて、駆けて行きたい気分だった。
誰かに見破られるのが恐ろしかったのだ。我が子の存在に素直に喜べずにいる自分を知られるのが。子供の存在がわかってすぐに、まさか他の女のことを考えてるとは誰も思わなかっただろう。素直に喜ぶものたちに言葉をかえしながら、ようやくここまで来た。
まさか馬にまで祝福の声をかけられる心配はないだろう。リーグは馬鹿馬鹿しいことを考えた自分に乾いた笑いをあげる。
本当は馬などではない。
無性に、会いたかった。
しかし彼女のあの淡い唇から祝福の声がもれるのかと思うと足が急に動かなくなってしまう。
―――馬鹿馬鹿しい。
今さら彼女にあって、そしてなんと言うのだ。なんと言われたら自分は納得できるというのか、すべてはもう遅い。遅かったのだ。
当たり前の現実がようやくリーグは理解できた。自分はなんて愚かであったのだろう。
リーグは自分のなかで今にも息絶えそうな初恋が苦しくて、じっと目を閉じたまま曇天の空に顔を向けた。
今朝から降り続いていた雨はようやくあがったらしい。
自失していた時間は思ったより短かったらしい。イレアナは隣で無言で上着を着ようとしている男を見つめた。
ポールはじっと自分を見つめてい?イレアナにようやく気がついたらしく、自分を責めるようにして頭を抱えてイレアナから目をそらした。ポールは乾いた唇を震わせながらやっと言葉を紡いだ。
「………すまない。本当に、本当に―――すまなかった」
数刻前に見せた乱暴な態度とは違い、己のしでかしたことに動揺を隠しきれていない様子のポールにイレアナはなんと声をかけたらいいか解らずにただ視線を向けることしかできない。
イレアナは己のその静かな視線が言葉で詰るより如実に相手を責めているように見えることに気がついていなかった。
イレアナはあまりの衝撃に、まだじぶんが傷ついているということに気がつくことができずにいた。嵐のようにすべてを奪い去ってしまったポールの狂暴な一面に頭が整理しきれていなかった。
なにも言えずに、ただ目の前を見つめることしかできないイレアナにポールは震えながら一度も目を合わせずに謝り続けた。
それから少ししてポールの「そろそろお家の方が帰ってくるのでは………」という言葉に、イレアナはようやく乱れた胸元をおさえながら身体をおこした。捲りあげられたために変な皺がついてしまったスカートをなおしていると、ポールの思っていた以上にふとかった指先が伸びてくる。その指先はイレアナの髪に触れる直前で止まると力なく下ろされた。
「髪が、乱れてる」
イレアナはその言葉に黙ったままぐしゃぐしゃに絡まった髪に触れる。湿っぽい夜の臭いがする自分の髪に、太陽の匂いがすると無邪気に微笑んでくれた人のことを思い出すと、そこでようやくイレアナの瞳からポロリと涙が一粒零れ落ちた。