17話
アウラがイレアナの所から離れて屋敷の中に戻ってくるとリーグがすぐに話しかけてきた。
「何を話していたんだい?」
穏やかだがどこかこちらを問い詰めるようなものいいに、アウラは瞳を一度伏せてからリーグを見上げる。
「ちょっとした世間話です。あの人とはまだお話したことがなかったので。………綺麗な方なのに、可哀そうね」
リーグにはまだ仕事があるだろう、そう思ってさっと脇を通り抜けようとするとリーグに右の二の腕を掴まれた。その場に引きとめるようなリーグの行動に、アウラは軽く眉間に皴を寄せる。
「……力が、強いです」
「…すまない」
きれそうなほど張りつめた空気にアウラはごくりと喉を鳴らす。
「私があの子を傷つけているとでも?」
本当にあなたは優しいのね、そうつけ足しながらリーグを見上げると、リーグは明らかに傷ついたような顔をしたので、アウラは更に辛くなって胸を抑える。
「何も、何もしていませんわ。ただ、本当にお話をしただけよ。……あの子、お嫁に行くのですってね。私も町の人間だから、ちょっとしたアドバイスを差し上げていただけです…」
あなたに非難されるようなことはしてないわ。そう瞳だけで語るとリーグはようやく納得したのかアウラの二の腕から手を外す。そして「仕事に戻る」とそっけなく言って去ってしまう。アウラは去っていくリーグの背中を見えなくなるまで見送ると、もつれそうになる足を動かしてなんとか自室へと身体を滑りこませた。壁にもたれるようにして肩をまかせ、そのままずるずるとしゃがみ込んでしまう。
ラベンダーの中でたたずむイレアナ。
美しくて、醜い、傷ついた小鳥のように震えていたイレアナ。
あれが、リーグが捨てられない存在。
アウラは肩を震わせながら、先日リーグの母上から聞いた話を思い出す。アウラが庭の女の存在を気にしていることに気がついて、それに気をつかったのか教えてくれたのだ。二人の間で起こった過去の悲劇を。過去に縛られて、その罪悪感ゆえにイレアナの存在を気にせずにはいられないリーグ。アウラはあえぐように胸を揺らしながら、上下する胸に両手をあてる。
大丈夫。もう少しで、リーグの罪はこの場所から消えうせるのだ。
「………ううっ」
むせかえるようなラベンダーの香りを思い出して、アウラは身を捩りながら口元を抑えた。