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14話


「リーグ様……」

宿から窓の外を見つめるリーグに、アウラは話しかける。

二人とも風呂はすませてもう寝るだけだ。

アウラは中々寝室に移動しようとしない夫の背に目を向ける。暗く熱い瞳で自分一人で、冷たい寝台に行くのはもう嫌だと訴える。

アウラの決心を秘めた声に、暗い外を見つめていたリーグの肩が揺れる。

「先に、寝るといい―――」

いつものように帰ってきたリーグの冷たい言葉に、アウラは身体を震わせながらそっと一歩踏み出す。はしたないことをすることに対しての恥ずかしさで、頬はもちろん体全体が染まる。娘らしい嫌悪感もあったが、それを上回る濁流のような想いがアウラの内で渦巻いていた。

アウラは一歩踏み出したと同時に、駆けるようにしてリーグの背中に抱きつく。

「どうして……………」

「…………」

「抱いてくれないの……?」

アウラの唇が震えた。すると震えは唇だけではなく、身体全体に拡がる。

なんてことを、言ってしまったのだろう。

口からもれた言葉にアウラは一気に後悔してしまったが。でも、こうしてリーグの広い背に額をつけるとどうでもよくなってしまう。

私は、この人に抱きしめてもらいたいのだ。

私は、この人を知りたいのだ。

言葉を交わすよりももっと深く、熱く、溶けるほどに彼を深くまで知りたい。そして私自身のことも知ってもらいたい、この体に刻みこんでもらいたいと。

アウラはその想いのままに、更にリーグの背にしがみつく。

先ほど風呂上がりにリーグが好きだといったラベンダー色の香水を身につけた。風呂あがりと、興奮ゆえに、匂い立つようにして自分の身体から香るラベンダーの匂いに、アウラはそっと目を伏せながら深く息を吸う。

その濃厚な青臭さまでも感じられるようなラベンダーの香りで胸がいっぱいになっていると、前に立つリーグがやっと動いてくれた。

アウラが背から顔をあげ両手を外すと、リーグがこちらを振り向いて視線を向ける。

また、お酒をのんでいたのね。

振りかえったリーグの赤い目元をみてアウラは思った。

リーグは自分のうちで激しく暴れる何かを抑えるように、数度肩を大きく上下させた。アウラはその大きく揺れる肩をみて、目の前にいるリーグが大きな獣のように見えた。アウラがおびえたように身体を後ろに引くと、追うようにリーグの腕がアウラの肩を掴む。そしていきなり唇を奪ってきた。

アウラは突然のことに、悲鳴をあげる暇もなくそのまま口づけをうける。激しい口づけに翻弄されて、間近に迫った伏せられたリーグのまつ毛を見つめる。

女のアウラより長い、まつ毛に煌めくものが見えた。

アウラは引き裂くようにして自分の夜着の紐を解くリーグに、震える声でやっとの思いで頼み込む。

「ここでは、いやです……」

情けないほど震える声に、リーグは黙ったままアウラを抱きあげる。アウラはリーグの首に顔を埋めながら、寝室へ続くドアを見つめるリーグに思いのほかたくましい首筋に頬を摺り寄せるのだった。




アウラにとってそれは幸福な夜だった。

多少乱暴に扱われたような気がするが、忙しなくアウラの身体をたどるリーグの指先と唇は、ただ、ただ熱く。

熱にうかされるように、激しく求められると、痛みだけではない涙がこぼれ落ちた。

アウラは自分の髪に顔を埋めるリーグの、肩にそっと手を回す。

とたんに、ぴくりと揺れた肩にアウラは静かに口を開く。

「名前を、呼んで下さい」

行為の最中、一度も名前を呼ばれることがなかった。聞いただけで身震いするような、熱いお互いの吐息を感じながら、アウラはぜいぜいとあえぐように言葉を紡ぐ。

「…………アウラ」

リーグはそっとアウラの名を囁くと、そのまま耳に唇を押しつけてくる。

「……すまない」

リーグに囁かれた言葉に、アウラの身体はぞくりと震えた。先ほどまで痛みとほんの少しの快楽に体を震わせていたアウラは不安に身を大きく震わせる。

それは何に対しての謝罪なのか、アウラはわかりたくなくて首を横にふるう。

横にふったとたん、自分の身体から溢れだすむせかえるほどのラベンダーの香りに、アウラは泣きだしそうになる自分を必死で抑え込みながら、リーグの胸に頬を押し付けた。




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