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1話


 森の奥深くに、ひっそりとたつ屋敷。

この屋敷が国王の妃を輩出したのは遠い昔のことで、今の時代ではなんの効力も持たない。名前だけが立派な貧乏貴族の元に嫁ぐことが決まった時、私の心は落ち着かないものだったが、両親が決めた結婚に否を唱えることなんて想像もつかなかった。

秋が来ると同時にあちらへ嫁ぐことが決まった私の少女時代が今年の夏と共に終る。もう去年の夏のように妹たちと避暑地ではしゃぐこともないのだなと思うと、私は鬱屈とした気持ちに襲われて顔を伏せた。

結婚が決まったことにより、神経が過敏になった私に妹たちは近寄ってこなくなった。

そんな風に自分の結婚に対して不安を覚えはじめていた私は今日、はじめて自分の夫となる人物と顔をあわせることになっていた。

夢見がちな娘らしい好奇心と期待、そして現実的な女の部分が夢を見るなと私の耳元で意地悪げに囁く。私はその囁きが、たぶん正しいことを頭の中でわかっていながらも、期待と不安で逸る胸を抑えることができずにいた。


 相手の両親に連れられてやってきた彼は、椅子から立ち上がった私をみて確かに微笑んでくれたのだ。

私のこげ茶の髪とは違い淡いミルクティー色の髪に、女の私が恥ずかしくなるほどに色が白い彼は、まるで妹に読み聞かせた絵本の中から抜け出てきた王子様のようだった。

 いい年になって自分は何を考えているのだろう、そう思ったが赤く染まった頬の熱は簡単には下がってくれない。頬を染めた若い娘に、周りの大人はにこやかにほほ笑みあう。和やかに交わされ続ける話しの内容は、私たちの結婚の日取りだった。本人たちを無視して、どんどん進められていく結婚話に何の疑問ももたずに、そういうものだと思っていた私は俯きながらチラチラと自分の旦那様になる人に視線を向けるので必死だった。

(リーグ殿、と言いましたっけ。……女の私より、肌が白いし、全体的に儚げな様子で―――)

 彼の隣に自分が立つのは、ちょっと似合わないのではないか――?

 そう思った私は、これから式までに美白効果のある美容方法を次女に捜させなければと、ちょっとした決意を固めながら彼を見続ける。私の視線に気がついたリーグは、弱ったように微笑みながら口を開いた。

「何か、ついていますか……?」

 リーグの言葉に、にこやかに話をしていた両親たちが話を止める。突然静まり返った場の雰囲気に私は更に顔を赤らめて下を向きながら「いいえ」と答えることで精一杯だった。

 はじめて私たちが出会ったとき、会話をしたのはこれだけだった。

 名前を呼び合うこともせずに、ほんのわずか交わされた一言。これの次に会う時は結婚式なのだが、それが当たり前なので私は特に疑問に思わなかった。

 なぜなら、今話せなくても結婚してからの余りあるほどの時間が私たちの間にはあるのだから――――。








ラベンダーの咲く庭で






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