王道転校生ですが?なにか問題でも?
キラメク初夏の日差しに照らされ、その建造物は燦然と輝いていた。
森に囲まれた白亜の城とも思えるような大きな建物である。
此処までの道のりでほぼ常に視界に入っており、その敷地の広大さに眩暈を覚えた。
「でっけぇ・・・。」
茫然とつぶやく俺の前には頑として金属製の門がそびえ立っている。
高く頑丈そうなその門は閉ざされており、侵入者を頑なに拒む。
しかしながら、俺は今日からこの建物の関係者であるわけで、拒まれる理由など一切ない。
というわけで俺はおもむろに手を伸ばし・・・。
門の横のインターホンを押すのであった。
「いや~助かりました、ここまで来るのにこんなに歩くとは・・・。」
荷物を置きながら勧めてもらったパイプいすに腰掛け、ようやっと人心地といったところである。
「え!?君、駅から歩いて来たのかい!?」
インターホンを押した後、出てきてもらった守衛さんに事情を説明し連絡を入れてもらった。
苦笑いをしながらここまでの経緯をもらせば、ひどく驚いている様子だ。
さもありなん。
「はい、体力には自信があったので、バスで10分なら歩けるなぁ、と思ったんですけど・・・・。」
とんでもない山道だった。坂道、トンネル、曲がり道・・・・。
車と徒歩では全くの別物だったのだ・・・。
「なるほど・・・徒歩じゃきつかったでしょ?」
守衛さんは当然その道の険しさをご存じだったようで、苦笑している。
「まさか、こんな山道とは・・・地図をもう少し確認しておくべきでしたね。」
苦笑いで返す俺に守衛さんは優しく微笑み、コップをそっと渡してくれた。
「おつかれさま・・・。今事務に連絡入れたら、お迎えがこっちに来てるみたいだから!それまで此処で少し休んでるといいよ。ハイ、麦茶。」
険しい山道を進んできた俺にはまさに甘露の雫である。両手で受け取り、満面の笑顔で答えた。
「うわぁ、何から何まですみません。ありがとうございます!」
まぁ、伝わるかどうかは微妙な線だが・・・・。俺の“今の姿”では。
守衛さんと少し話しているうちに、迎えの人が来てくれたらしい。
控えめなノックと一緒に涼やかな声が聞こえた。
「失礼します。今日入寮の生徒を迎えに参りました。」
守衛さんが立ち上がり扉を開くと同時に俺も立ち上がる。
迎えに来てくれた人を座って出迎えるのもどうかと思ったので。
「よかった、こちらが今日入寮の・・・・。」
守衛さんが招き入れた人物はとてつもない美形の兄ちゃんだった。
柔らそうな茶色の髪をサラリと横に流した清潔感のある前髪に長すぎない襟足。
穏和そうな眼差しに、やわらかく口角の上がった口元。
まさに「微笑みの貴公子」!!
「こんにちは。ようこそ、「高御座学園」へ。僕は生徒会副会長の桐生 正信です。君が友永君かな?」
花の顔から発せられる美声にしばし呆然としながらも慌てて返事を返す。
「は、はい!今日入寮の友永 明良です!よろしくお願いします!」
すっげぇ・・・超イケメンや。ハイスペック過ぎて自分が恥ずかしい。
只でさえ今は“こんな格好”なのに。
「そんなに緊張しないで?これからは同じ学校に通う仲間になるわけだし、仲良くしようよ。」
さわやかに微笑むバックに花が見える。すげぇ、美形効果や!
しかしまぁ、目元の緩ませ方、口角の上げ方、顔の角度、声色からなにまでが完璧な微笑みですこと。
まさに完璧微笑!!
「いえいえ、副会長ってことは先輩ですよね?後輩として、節度を持って接したいと思いますです、はい。」
完璧微笑に完全にのまれながら及び腰にお返事すると、なにやら苦笑されてしまった。
「やっぱり、随分と真面目なんだね・・・。じゃあ僕も君の一年先輩として、しっかり案内しないと。普通なら入寮の挨拶は寮監がするはずなんだけど、君の場合はなぜか理事長に呼ばれているみたいなので、とりあえず理事長室に案内するね?」
きたよ、理事長。あぁ~、なに言われるんだろうなぁ・・・・。
さわやか副会長に先を促され、守衛室を後にする。
お世話になった守衛さんに頭をさげて先に進む俺の頭には、売られていく子牛の歌が流れているのであった。