第閑話『7.女性記者の憂鬱』
いつも遅くなってすいません。
閑話のほうが本編っぽいという。
出会った少女たちに護られる形で移動していた私たちはついに目的地に着いたようだ。コンクリートブロックで出来た塀にアルミで出来た門扉が付いている。また塀にはポストの投函口とインターホンが一体化したものがあり、その横にはローマ字で「NANASHINO」と書かれた極めて一般的な表札がある。そこを正面に左手、アクリル製の屋根がありそこにはワゴン車が止まっており、その横と後ろのスペースには自転車数台とキックボード、スケートボード、バイク、物置などが置かれている。
「え?民家ですか?」
「そうだな」
「そうだなって」
こんな所が目的地だとは思ってもいなかった。てっきり、基地か何かに行くものだと思っていた。しかし、私の目の前に現れたのは少し大きな(といっても日本にしてはという但し書きがつく程度の)民家だった。不安とその他諸々の感情が渦巻いている私に向かって社長が溜め息混じりに告げる。
「周りをよく見てみろ」
「周りを?」
言われて周りを見回す。おかしなところは何も見受けることが出来ない。とても静かなもので、さっきまでのパニックアクション映画のような光景がまるで無かったみたいだ。
「・・・おかしい」
「気づいたか?」
「えぇ。・・・『おかしなところが何もない』のがおかしい・・・そういう事ですよね」
「そうだ。このブロックに近づくにつれ破壊の度合いが減ってゆき、ここでゼロになっているようだな」
「そんな」
そんな事にも気付けなくなっているとは、いよいよ私も鈍ってきているのかもしれない。切れ味が鈍くなってきているのかもしれない。
ピンポーン
『合言葉を』
「無いでしょそんなの」
『ノリ悪いな相ぁ変わらず』
「そんな事より早く開けてよ。お客さんが来てるんだから」
『その心は?』
「早くシャワーが浴びたい」
『オーケー、やればできるやんか。今空ける』
ガチャリ、と重量感のあるアルミ製の門扉とはかけ離れた音を響かせ鍵が開く。
「・・・どうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
少女に招かれるようにして入った民家の庭。日本の感覚では、少し広い・・・ん?意外と広い?位(いまだに日本語の微妙なニュアンスが理解できない)の庭。芝生が植えられていて、隅には花壇(見慣れない花があるような気もする・・・人の顔!?・・・いや、まさか)がある。その横を突っ切るように作られた道を通った先にあるのが玄関。玄関にはお約束の様に傘立てが置いてある。別段、おかしい所は見受けられない・・・気がする。
とその時、私たちの到着を待っていたかのように玄関の扉が開け放たれる。
「やぁ、久しぶり。スティーブンに・・・あれ?ケイさん?どうしてここに?」
「な・・・」
「ん?ヒデオと知り合いなのか?・・・ふむ、なら紹介はいらないな」
その扉の向こうから出てきた男に私は何度かあったことがある。もちろん、日本ではない。アメリカ、いやアメリカだけではない、それこそ世界各地で出会っている。すれ違っただけなら数えるのも馬鹿らしい。なるほどどうして、これでその謎が解けたという事か。
「勘違いするなよ?こいつは本当に何の能力もない只の平凡で凡庸な一般人だからな。お前の思ってるような関係性や力なんてものは・・・こいつには一切無い」
「はは・・・相変わらず酷いな。まぁ確かにそうなんだけど」
「ならなぜ」
「ならなぜ、こいつと俺が知り合いなのか?・・・簡単な事だ。同じ大学の同期の卒業生だからな。あぁ、そういう点で言えばこいつは天才かも知れないな」
先回りするようにして答えられたその言葉。社長の卒業した大学、世界でも有数の頭脳が集まる超名門校。入ることも出る事も難しい超難関大。その卒業生。社長はその主席で卒業したと言うが、そもそも卒業できた人数が少なかったはず。
「そんなに買いかぶられても困るんだけど。確かに卒業したけど、僕とスティーブンは学科が違うし」
「・・・え?」
「勘違いされると嫌だから言うけどね、ケイさん。スティーブンが卒業した学科は超頭のいい人たちが集まる超難しい学科、それは間違いないよ。でも、僕が卒業したのはそこそこの人が集まるそこそこの学科だから」
「そう、ですか・・・」
「そういう所は変わらんな、ゲン。言っておくがお前の言う『そこそこ』は世で言う天才だからな」
「いやいやいやいや」
「まぁ、転職したくなったらいつでも言ってくれ。席はいくらでもあるからな」
「うん。するつもりは今のところないけどありがとう」
「まぁ、こういう奴だコイツは。コイツについては考えるだけ無駄だ」
「はぁ・・・」
それでは片付けられない程彼とは様々な所で会っているのだが、社長がそう言うならそうなのだろう。それにしても、普通の人物だ。何度も、それこそ無数に会っているのだが、いつもそう思う。何故この普通の人がああも異常な場所に普通にいるのか、しかも普通に何事もなく帰ってくるのか、未だに理解できない。確かに、ヒデオ・ナナシノは事件に直接的にも間接的にも関係することはない。ないのだが全くの無関係という訳でもない。『ある』か『ない』かのボーダーをいつも歩いている。それなのに、事件の中心に大きな影響を与えるのだ。私は何度か彼のことを黒幕ではないかと疑ったことがある。結局何もなかった訳だが。そう思える程に彼の、ナナシノの一挙手一投足は事件を左右する。・・・事もある。結局のところ、ナナシノがあの場にいたのは全くの偶然で、偶然あの場にいた人物たちと知り合いで、偶然私がそこに居合わせただけ。そう理解した。そう、理解するしかないのだろう。ロンドンのビッグベン消失事件然り、サンフランシスコのボーダーキラー事件然り、上海の晴れ時々渡り蟹事件然り。
「立ち話もなんだし、中に入ってゆっくり話そうか」
「そうだな。ヒデオ、聞きたいことは山程あるから覚悟しておけよ」
「ははは・・・お手柔らかに」
そう言って、社長とヒデオ・ナナシノは家の中へ入っていった。もちろん私もついて行く。ふと傘立てを見たら、仕込み傘や刀、バットなどが刺さっているのを見つけた。それを見て少し安堵してしまった私を誰か責めるだろうか。
今回の移動距離、たったの数メートル。時間にして数分の話。え、なにこれ?
七篠の父さんの名前を修正。前につけたの忘れ立てた。
データベース
七篠 偉雄
七篠 権の父。現在43歳。輸入品を仕入れる会社で働いている。一応、この街に住んでいるが、仕事上海外にいることのほうが多い。語学堪能、実に五ヶ国語を話せる。アメリカの某有名超難関大卒。スティーブンとは同期、同じサークルに所属していた。その天才的な能力は人との対話で主に発揮される。会社ではその力で数々の功績を残している。様々な事件又その主要な人物に、関わったり関わらなかったりする。超能力や魔力、スキルといった『力』は無い。それでも、超能力を使える子供を拾ったり、怪我してる人魚を手当したり。成り行きでとんでもないことをしていたりする。結果、家にいろんなモノがいつも居る状態になった。一級フラグ建築士とも言う。恋愛フラグは奥さんとの一度きり。
必殺技
『交渉術(精神&物理)』・・・精神と肉体を同時に攻める。
『論爆破』・・・相手の言葉の矛盾を爆弾の様に打ち崩す。
『救援要請』・・・携帯で知り合いに電話する。
『一級フラグ建築士』・・・常時発動型。その行動一つ一つに大幅なプラス補正がかかる。