第84話『友人』
結局、かなり遅くなってしまいました。すいません。
なんなんだこの人は!?パブロさんと言い争っていたかと思うと、突然私に抱き着いてきた。え?私にケンカ売ってんですか?『あの事故』のせいで成長する事のない体になってしまった私にケンカを売ってるんですか?くそぅ、だから外国人は嫌いなんだ。そもそも、日本人と骨格から違うなんておかしいよ。ずるいよ。
そんな理不尽の塊に押し潰されそうになっている私は、パブロさんに助けを求めた。だがパブロさんは手を挙げ首を振るばかり、ア、アメリカン!!
「むーーーっ!!むーーーーっ!!」
「κ¶с∂Шやめろ、Αо“уянт」
「φγ?€ИЮΤ“?」
「はぁ・・・はぁ・・・」
やっと解放された・・・死ぬかと思った・・・。私の体は殆どが機械だ。言い換えれば幾らかは生身であるという事になる。その生身の場所と言うのが左腕、胴の左肺の部分及び心臓、それに首と頭である。確かに、頭にはコンピューターが、目には網膜ディスプレイが埋め込まれているが、おおよそ生身と言っていいだろう。バトルモードならば、その辺りも完璧にカバーされるのだが、今はモードを解除している。こう長々と説明してまで何が言いたいのかと言うと、要は口と鼻を塞がれてかなり苦しかったという事だ。それこそ、死ぬかと思う位に。わりと本気で。
「パブロ、何?」
日本語はご法度なのでこちらの言葉で言おうと思うのだが、圧倒的に理解が足りない。よって片言の、それも単語単語を繋ぎ合わせた言葉になる。文法なんて高尚なものは無い。
「何?‰Å¨Χ°Юルシア」
「何?」
「ルシア」
パブロさんは女の人を指さしながらそういう。ふむ、ルシアさんか・・・ルシア、ルシア・・・。その女の人の名前、ルシアと言う言葉の前の単語は初めて聞く言葉だったので、脳内に(コンピューターによって自動的に、かつ強制的に)保存し、心の中で反芻し意味を問う。
「‰Å¨Χ°Ю、何?」
「何?」と言う言葉は万能だ。こうして手探りの会話をしていると、まるで開拓者の様な気分を味わえる。未知の言葉と言う名の巨大なジャングルを切り開いていくような感覚だ。そこで「何?」と言う言葉はナイフのような役割を果たす。うっそうと茂る草木を刈るもよし、危険な獣から身を護るもよし、もちろん料理にだって使える。と、まぁ小難しい事を考えて若干の逃避をしてみる。
何故に逃避?そんな事は分かり切った事だ。知らない土地、知らない人間、よく分からない言語、そして今の私は身寄り無し。どう考えても、マジで不幸になる五秒前だ。下手したら二秒ぐらいになってるかもしれない。パブロさんは、確かにご飯・・・私はアレをご飯とは認めないけど、ご飯を食べさせてくれた。でもそれだって、ただの気まぐれかもしれない。そもそも、あのダンジョンで会った時点で見捨てられててもおかしくは無い筈だ。なら何故見捨てなかったのか?それは、助ける事によって利益が見受けられたからなのだろう、と私は思う訳だ。ほーら、だんだん不安になってくるぅ~。あぅあ~。
「あれ?なんか警戒されちゃった?」
「いや当たり前だろう。突然抱き着かれたら」
「えぇ~?ただの挨拶よ、挨拶~」
やっぱコイツに相談したのは間違いだったか?数少ないこの街の知り合いの中で、更に数の少ない女の知り合い。女の事は女に聞くのが一番だと思い連れて来たのだが、その判断が正しかったのか、今の状況を見る限り微妙だ。というか性格変わってないかコイツ?
「パブロ、何?」
「何?」
そりゃ聞きたくもなるわな。
「こいつは友人のルシアだ」
「何?」
ん?あぁ「友人」と言う単語が分からなかったのか。
「ルシア・・・」
ユウコは少しの間黙り込む、小さく口が動いている事から名前を覚えようとしているのが分かる。そして、ふと思い出したように問いかけてくる。
「友人何?」
友人とはなんなのか・・・か、難しいな。こういう面倒なことは丸投げするに限る。
「と、いう事だ。こいつを預かってくれないか?友人のルシアさん?」
「え?うん、いいわよ?この娘、可愛いし」
「・・・・」
やっぱり不安だ。時々様子を見に行く事にしよう。