第76話『気が付いたら○○でした』
暗くて、じめじめしてて、狭い。周囲を確認するために横に出した手が、しっとりと濡れている石の壁にぶつかった。
「あれ?」
ここはドコ?私は・・・うん、ちゃんと名前は憶えてる。というかさっきまでの事は全て憶えてる。さっき私は『穴』に落ちた。というより吸い込まれた。そして気づいたらここだ。
「『マンホール』の仕業?それともヒロ君?どっちでもいいや・・・・おーい!!」
とりあえず叫んでみたけどこだまが帰って来るばかりで返事は無い。二人ともこんなドッキリのような真似をするような子じゃない。二人ともすごい才能の持ち主だけど、意外と抜けているところがあるので『うっかり』という場合もあり得る。だから呼んでみたけど・・・返事が無い。
「やっぱ携帯は圏外かぁ。もう、なんなのよ」
振ったり、高く掲げたりしても変化なし。気持ちを切り替えて、携帯のライトで周りを照らす。どうやらここは細い通路のような何かで人の手が入っているみたい、階段がある(というかまさに私は今階段に立っている)。階段があるという事は、これを辿っていけば少なくとも人のいる所には行ける・・・と思う。ここが、何十年も前に捨てられた廃坑とかでない限り。
「上か、下か・・・まぁ常識的に考えて上だよね!」
私は怖さを振り払うために一人強く頷き、上に向かって階段を上り始めた。
「ふぅ、やっと着いた」
大きな空間に。階段は終わったけれど、いまだに暗い洞窟か何かの中に居る事に変わりは無い。天井はかなり高い、大体二十メートルぐらい?天井を照らす光を何か黒いものが横切った気がするけど、多分見間違いだと思う。むしろそうであって欲しい。ライトを前方に戻す。
「右か左か真っ直ぐか・・・」
それ以外に道は無い。どうやら、この会談に至る道は三つしかないみたい。それ以外は壁。しかしその壁、天井までは続いていない。
「どっかで見た。巨大迷路みたい・・・」
それが私の感想で、その言葉にふと過るものがあった。
「迷路、洞窟・・・モンスターが居れば『迷宮』の出来上がりってわけね」
もし、モンスターが出てきたら『ダンジョンメーカー』も晴れて容疑者の仲間入りを果たす。そして、ここを脱出した暁には・・・。
「・・・まぁ、なんにせよここを出るのが先ね」
とりあえず、危険かもしれないところを進むにあたって準備をしよう。
「メニュー」
そう呟くと私の目の前にウィンドウが表れる。もちろん、実際に目の前にあるのではない。私の網膜ディスプレイに表示されているだけだ。
「サーチモード、オン。バトルモード、オン。リミッター解除、出力20パーセント・・・」
単語を呟きながら各種点検を進めてゆく。
「武装メニュー、オープン」
そう呟くと目の前がウィンドウで埋め尽くされる。その中から私は二つの武装を選ぶ。
「『しびれん棒2型』、『ワルサ―PPK/S』、構築開始」
驚くほど不釣り合いな二つの単語が私の口から発せられたと同時に、私のコアに量子保存されていた二つの武装の構築が始まる。かの有名なアインシュタインが提起した特殊相対性理論、その中でも有名なE = mc2、エネルギーは質量×高速度の二乗に等しいというあれだ。物質はエネルギーに、エネルギーは物質に変換が可能という理論だ。その理論によって造られたのが核爆弾だ。私の幼馴染はその理論でもってとんでもない事を成し遂げた。物質の分解と再構築である。分解はまぁ、普通にできる。そこらの原子力発電所でもやっている事だ。しかし、再構築となると普通では不可能な位置に飛んで行ってしまう。そう、普通なら。それをやってのけてしまうあたり、流石ヒロ君だ。他はダメダメだけど、主にネーミングセンスとか。『しびれん棒』って・・・。
「構築終了っと、まぁこんなもんでいいかな?」
私は意を決め、闇の中に踏み込んだ。
「・・・あ、ライトも出しとけばよかった」
が、すぐ立ち止まった。
やっと出てきた女性主人公。ダンジョンスタートです。