第74話『スライム流身代わりの術』
夏休み、遊びすぎでなかなか書く時間がない。頑張らないと。
さて、こうなってしまったからには、どうにかしてこの場を切り抜けなくてはならない。こうして手段を考えている今も、フェリックス君は魔力を着々と練り上げている。と言ってる傍から練りあがってしまった。これはマズイ。
「<炎球!!>」
轟!!と迫りくる炎の球、そのあまりの温度の高さに色が所々変わっている。青色は確か・・・三千度ぐらいだったか?いや、それは星か。ガスバーナーの炎は1800℃位で青くなるしな。いや、そんな事より凄い温度だな。想像以上だ。これは焼き尽くされてしまうぞ。
「やっぱりね」
ジュワン、と一瞬音を立てて蒸発したスライムが居た場所を見て私は呟く。
「・・・スライムさん!!」
「やっぱりただのスライムだったんですよ。決して『神の使い』なんかじゃなく」
「・・・それにしても!!なんて酷い事をするんですか!?命の恩人に対して!!」
「そもそも、時間さえあれば私たちだけでもあの場は切り抜けられたはず。それなのにどうして魔力をかなり消費する<召喚術>なんかしたんですか?」
「・・・うっ!!」
全く、この人はいつも独断的に行動する。それで私たちがこれまでどれ程、迷惑を被って来たか・・・。思い出すだけでも頭が痛い。しかし、それを補って余りあるほど能力が高いのも確かだ。正直に言って、このパーティーの中で一番能力が高いのがこの人だ。それは、ギルドカードによって裏打ちされている。
しかし今回のはなんだ?私たちを危険に曝してまで召喚したのが、たかがスライム一匹。それが親玉とはいえたかが盗賊の一人を倒して、「私は神の使いだ。協力しろ」?おこがましいにも程がある。確かに、言葉を操るスライムは珍しいが、そんなことは鳥にだってできる。そんな言葉を信じるなど皆どうかしている。実際、蒸発して死んでしまったのだから、やはりスライムはスライムだったのだと言えるだろう。
「さ、みんな休憩は終わりにしましょう。そろそろ行かないと日が暮れてしまいます」
「・・・待って」
「何ですか?」
「・・・あれ」
「な・・・!?」
嘘だろ!?いや、確かにあれは蒸発したはずだ。私はしっかりとこの目で見たのだ。一体何がどうなっている!?
私はその場所に走って確認に行く。
「おいフェリックス!!ちゃんと焼き尽くしたのか!?」
「あぁ、ちゃんとやった!!」
「だったらこれはどういう事だ!?」
「どうって・・・なに!?」
フェリックスの<炎球>が燃やし尽くしたはずの場所、雑草一本すら生えていないはずの場所に緑色の塊があった。それは小さいが確かにあったのだ。あの、スライムが。
「おい、コレどんどん大きくなってないか?」
「そんな話は聞いたこと無いぞ、スライムの増殖は時間がかかるはずだ」
「いや!!絶対に大きくなってる!!ってうわっ!?」
「・・・っ!?」
緑が爆発した。
爆炎を受けた私の体は蒸発した。一つだけ。そう、私の体は複数あるのだ。スライムという生物は細胞のように分裂して増える特性を持っている。本能しかない普通のスライムはただ増えるだけだが、人間が性欲を理性で抑制することが出来るように、私はそれを意図的に制御する事ができる。つまり、好きな時にもう一人自分を生み出すことが出来るという事だ。より正確に言うならば、分裂することが出来る。蒸発したのはその分裂した一つだ。ただし、滅茶苦茶熱いし痛い。人間で言うなら足を焼き切られた位の熱さと痛さだ。しかし、それに私が耐えることが出来るのは・・・謎だ。人間ならばそれほどの痛みを気絶する事もなく受けきってしまう。それは人間の人格を持った者にとって非常に不可解な事である。更にいうなら、一つの人格で複数の体を扱うというのも負荷がかかりすぎて狂いそうなものだ。しかしながら私にはそれが無い。生まれ変わったことで精神形態が作り替わってしまっているのか、はたまた既に私は狂ってしまっているのか・・・。全く持って謎である。もし会えるのならば、私をこのような姿にしたものに会って問い詰めたいものだ。
さて、本来ならこれで良いのだが、ちょっとばかり仕返しがしたい。あの緑髪の男に、確かに、あの場は彼ら自身で切り抜けられただろう。しかしそれは、それなりの損害を被ることが前提だ。事実、既に彼らの乗っていた馬車は潰れていた。それなのに彼は私に感謝する事すらなく、終いには私に矛を向けてきた。いくら温厚な紳士である私と言えど、ちょっと腹が立っている。その仕返しだ。
「おい、コレどんどん大きくなってないか?」
「そんな話は聞いたこと無いぞ、スライムの増殖は時間がかかるはずだ」
「いや!!絶対に大きくなってる!!ってうわっ!?」
「・・・っ!?」
『スライムボム』、(『ボンバー』でも可)。体内に風船のように空気を溜め込み破裂する技である。最大限まで溜め込めば、周囲にちょっとした衝撃波が出るほどの技だが、今日は緑髪の男をちょっと懲らしめるだけなので目の前で風船が破裂した位に留めた。ただし弾けた私の粘液が飛び散る先は彼のみに絞っているが。
「・・・うわー、こりゃひでー」
[ふふん・・・これに懲りたら私を試そうなど、もうするんじゃないな]
「・・・くっ、仕方ありませんね」
緑色の粘液まみれになった彼を見ながら、私は大いに頷いた。緑髪に緑色の粘液、彼の服も緑色、緑だらけでイマイチ解り辛いな、と。