第73話『安全!!スライム必勝法!!』
どうやら、『私、神の使いですから作戦』は成功したようだ、一部を除いて。
「信じられませんね、それは」
そう言ったのは、あの神経質そうな緑髪の長身の男だ。
「でもよギリアン、ぺトラが言ってたじゃねーか、このスライムは只者じゃないって」
「それはそうかもしれませんが、神の使いだと言う事の証拠にはなりません」
「む・・・」
「・・・証拠にはならないけど・・・このスライムから大きな気配を感じるのもまた確か」
「そうだよ。・・・それに失礼だよ、仮に嘘だとしても、私たちを助けてくれた人?にそんな事を言うのは」
「いや、お前、それもかなり失礼な物言いだからな?」
延々と続く口論を、最も私の発言が原因だが、赤髪の男が仲間たちの仲裁をしている、彼は意外と苦労をしているのかもしれない。
「と・に・か・く!!私はあなたが『神の使い』だという証拠が見たいのです」
(まいったな、私、神っぽいことなど到底できないぞ?)
(何かありませんか?)
(考えてはいるのだが・・・空を飛ぶ、はどうだ?)
(空を飛ぶくらいなら、他のモンスターも出来ます。人間にだって飛べるのもいますし・・・)
(却下か・・・なら逆に埋まるのはどうだ?)
(なぜ逆にしたんですか、っていうか何で埋まるんですか)
(いや、姿を消したように見せるとか・・・そういう感じだ)
(もっと他に無いんですか?)
(後はそうだな・・・不死身っぽく見せるとかか?)
(っぽく?)
「無いんですか?っていうか聞いてますか?」
[あ、あぁすまない、ちょっと物思いにふけっていた」
「それで?証拠はありますか?」
[証拠、証拠ね・・・じゃあ、えっと赤髪の・・・すまない、君、名前は?]
「ん?そういやまだ名乗ってなかったのか。俺はフェリックスだ、よろしく」
[こちらこそよろしく、フェリックス君の得意な<魔法>は何かね?]
「<炎球>だ。でも、何の関係が?」
[じゃあそれを全力で私に撃ち込んでくれ]
「は?本気で言ってるんですか?それ」
[ああ、本気だとも。そうでもしないとギリアン君は信じそうにないからね]
「貴方に名前で呼ばれる筋合いは有りません」
[それはすまない。・・・どうだ、やってくれるか?]
「別に、いいけどよ・・・」
[なら決定だ。危ないから、ちょっと離れた所に行こうか]
「本当にいいのか?」
俺は、自分が『神の使い』だと語る、と言うか描くスライムに問いかける。
[あぁ、全力で頼む]
数メートル離れた所でフルフルと震えるあの粘液上の生物は、打撃や斬撃といった攻撃は全く通用しない。ならどうやって倒すのか?倒すためのポイントはスライムと言う生物の特徴にある。その特徴と言うのは、体の殆どが水分でできている事だ。それは、人間やほかの生物にも当てはまる事だが、スライムはそれ以上である。そこから導き出される答えは至極簡単なものだ。そう、水分を奪う事だ。ここで真っ先に思いつくのが火であぶって蒸発させることだが、火を事前に準備しておくことは難しい。まぁ、松明やランプを持っているなら話は別だが。そこで、冒険者やそれを志す者は基本的に火の<魔法>を会得している事が多い。分かりやすいので火を例に挙げたが、別に水分を奪えさえすればいいので、雷による熱で蒸発させたって構わないし、空気を乾燥させて水分を奪ってもいい、ああ塩を撒くというのも手だ、かなり金はかかるが。あぁ、話が逸れた。結局の所俺は、基本である火の<魔法>、家庭でも使えるのかなり一般的なのだが、それを伸ばすことにした。いや、それ以外の才能が全くなかったと言った方が良いが。それこそ凡才な俺の<魔法>だが、長年やってきたという自負があり、自身もある。その全力を、あのスライムは撃てと言っている。一番の弱点と言ってもいい物をだ。正直、恩人?に魔法を撃つなんて真似はしたくない。しかし、ギリアンの言い分も分かる。この事は確実に、俺たちの今後の運命に関わる事なのだ。そのギリアンは、離れた所で事の行く末を見守っている。
[・・・どうした?・・・調子が悪いのか?なんなら他の誰かに代わってもらってもいいんだぞ?]
「いや、いい。・・・俺がやる」
確実に、自分の方が絶体絶命であろうというのに、俺の心配をしている。本当に奇妙だ。・・・本当に・・・面白い。だから、冒険者は止められない。知りたい。知りたい、このスライムの全てを、その内に抱える可能性を。・・・いやいや、今はそうじゃない。俺の<炎球>の<魔法>を全力で打ち込まなくては。
右手に魔力を集中させる。右手がじんわりと暖かくなってきた。そしてそれを固め、それが燃えるイメージをする。初めの炎は小さく、そしてだんだん大きく。更に、魔力と言う燃料を加え温度を上げる、どんどん、どんどん、どんどんと。初めは温度が低くオレンジ色だった炎も、温度が上がるにつれ色が変わってゆく。本来の全力なら青くすることも出来た俺だが、生憎野盗との戦闘直後という事もあって、流石に全力という訳にはいかない。しか、今出せる限りと言えば、全力のそれである。スライムに狙いを定める。どうやって、『視て』いるのかは皆目見当もつかないが、目があった気がした。息を吸い込み、止める。腕を振りかぶり、
「<炎球>!!」
と言う古代言語と共に魔力を開放する。その言葉によって、実体化した炎の球は真っ直ぐスライムに向かい、跡形もなく蒸発させた。
ここで語られたのが、この世界でのスライムの常識です。やはり、雑魚。
そして、スペックだけで言えば、ないとも他のスライムと変わりはないっていう感じです。特別なのは人間の人格があるということと、長年使って来たというアドバンテージがあること。
ことわざ・・・『馬鹿とスライムは使いよう』、意味どんなスライムでも使いようによっては便利な錆落としになるように、馬鹿でも使いようによっては役に立つこと。