第72話『(魔)神の使い』
さて、どうにか荒くれ者たちを倒した、正確には親玉を倒した私ではあるが、これからどうするのかなど、聞いてもいなかったし、全く考えても居なかった。なので、
「ありがとうございました。では、元の世界にお返ししますね」
などと言われてしまっては、ちょっと困る訳だ。私としては、もうちょっとここに留まり、この少女たちと友好を深めるなどして、こちらからのアクションを起こすための足掛かりとしたい訳だ。
[ちょっと待ってくれ]
「何ですか?」
[私はきっちり働いたんだ。何か報酬をもらえないのか?]
「魔力はもう対価として捧げたはずですが・・・」
(魔力?そんなものを私は受け取っているのか?)
(えぇと、確か・・・あ、分かりました。この人たちが使う<召喚術>と言うのは、魔力を対価に召喚獣を喚び出すというもので、使った魔力に応じた者が自動的に喚び出されるシステムのようです。そこに、私が無理やり割り込んだわけですから、当然今のような質問になる訳です)
(なるほど・・・でも、結局は召喚獣の方が偉いのだろう?だったら無理も通せるのでは?)
(そうですね・・・でも、召喚者に従わない召喚獣は魔物として判断されることもあるようです)
(そういう事は先に言ってもらえないかね?)
(すいません)
(だったらどうする?『私、報酬ちゃんと受け取ってませんよ、どうするんですか作戦』はもうつかえないぞ)
(すいません、もうちょっと粘ってみてください。ダメだったらまた今度で良いんで)
(うむ、分かった)
[アレは私がこっちに来る時に使ってしまったんでな、戦いは別料金だ]
「なっ!?でも、私、もう魔力が・・・」
[いやなに、そう難しく考えてもらわなくてもいい、もっと別の物でもいいんだ。例えば・・・そう、食事とかね]
同じ釜の飯を食う仲、という言葉があるように、食事の力は人間関係にまで及ぶものだ。私は、彼らと食事を共にすることで友好関係を深めようと思ったのだが、中々それが難しい。私は、私を召喚した少女にパンを一つ分け与えられそれを消化していた訳だが、少女の仲間は少女一人を私の傍に置いて、若干、心持離れた位置で食事をしている。
[食事のときはいつもこんな感じなのか?]
「いえ、いつもは皆で食べてますよ」
[なら今日はどうして?]
「誠に申し上げにくいんですが・・・あなたがスライムだからだと思います」
[うん?確かにそうだが?]
「その・・・あなたの食事の仕方が、みんなのトラウマに」
[・・・ん?・・・あぁ!そういう事だったのか!!これは失礼]
今までパンをゆっくりと溶かしていたのだが、その溶けていく様が私のスケルトンボディを通して丸見えだったのだ。そして、恐らくだが彼ら冒険者は、一度舐めてかかったスライムに痛い目に遭わされるか、スライムの食事風景を見たかでトラウマになっているのだろう。それを私がジャストミートに刺激してしまったと、そういう訳だ。そういう事ならと体液の酸性の強度を増し、パンを一瞬で溶かす。
[これでいいかね?]
「ええ、ありがとうございます。みんなー、スライムさん食事終わったよー」
「本当ですか?本当に終わりましたか?」
「ってか何でスライムなんだ?」
「・・・あの魔力の注ぎ込み方だったら、魔鳥も呼び出せたはず。・・・あのスライムは、只者ではない」
「でも、スライムだろ?」
「いや、もしかしたらスライムではないのかも」
「・・・アレはスライム、それは確か」
「そう、ですか」
「何にせよ面白そうじゃねえか」
問題は解消したらしく、最も私が原因だったのだが、皆が集まってくる。神経質そうなキャラを抱かせる質問をする黄緑色の髪に長身の男、いかな時でもポジティブでありそうな受け答えをするガタイの良い赤髪の男、訥々と事実だけを語る紫髪の小柄な女、それに私を召喚した金髪の少女、という仲間らしい。彼等は皆、十代後半から二十代前半ぐらいの年齢だろう。ここは友好的に自己紹介でもしよう。
[やぁ、君たち。こんにちは、私は洲羅ないとだ。よろしく]
「スラナイト・・・スライムのナイトっていう事か・・・?」
[いやいや、洲羅家のナイトという事だ]
「洲羅家・・・?お前、誰かに仕えているのか?・・・ていうか、そもそも神獣界にはそういうものがあるのか?」
[神獣界?いや、私はそんな所の住人ではないよ]
「おいおい、嘘だろ?俺は学校で言われたことくらい覚えてるぜ?合法の<召喚術>は神獣界と契約していて、神獣界としか繋いではいけないって、どういう事だよ」
「私、確かに神獣界から喚んだ筈なのに・・・もしかして、失敗した?」
「・・・もしそうなら大問題」
「嫌だよそんな!!そんなことがあったら、私どうなるか・・・!?」
[ふむ・・・?召喚に失敗したら、何かあるのか?]
「神獣界以外の所の生物を向こうの許可もなく連れ去る訳ですから、誘拐と同じで、重大な犯罪として扱われます。下手したら、世界同士の戦争になりかねない訳ですから、死刑になることだってあります」
「嫌あああぁぁぁぁ!!」
[そうか・・・それなら大丈夫だ。私は理由があってここに来たのだが、その出口として<召喚>を使ったのだからな。自分から来た場合は問題ないだろう]
「ぁぁぁ・・・え?自分から?」
[うむ]
「良かったあああぁぁぁ・・・」
「・・・自分からこの世界に来るような理由とは・・・どういう?」
[そうだな、君たちには言っておこうか、これから手伝って貰いたいのでな。・・・単刀直入に言おう、この世界に戦争が起きようとしている]
「・・・は?」
「・・・え?」
「何ですって?」
「・・・戦争と、このスライムは言った」
「いやいやいやいや、それはちゃんと読んでたから!!そういう意味じゃなくて!!いや、そもそもお前はなんなんだよ!?」
[神の使いだ・・・一応]
「「「「えええええええぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~・・・・・・!!!!????」」」」
正確には『魔神』の使いだが。そこはいいだろう、別に。『神』も『魔神』も同じ『神』だ。
今回言っていた<召喚術>の法によって、ヒフミ達を<召喚>した者たちは完全に犯罪者だということが分かります。しかし、召喚した人たちがお偉いさんだったので、機関はなかなか動けなかったという、裏設定(笑)。