第71話『スライム のまえに あらくれもの があらわれた!!』
念のため言っておきます。うちのスライムは強くないです。
闇を抜けると、そこは戦場だった。
まぁこれはいい、私は召喚獣としてこの世界に来ているのだ。何か理由があって、と言うか戦わせるために呼んだのだろう。しかし、しかしだ。これは一体どういう事だろう、目の前に美少女と言っても過言ではない少女が立っているではないか。何がおかしいのかって?無論、全てだ。話が出来過ぎている。ついでに言うと、黒井真央も美少女に分類されるであろう者だ。コレのどこが、おかしくないと言えるのか。これじゃまるで、私が『主人公』の様ではないか。
(あぁ、言っておきますけど。私は容姿なんて好きに変えれますからね?都合がいいのでこんな顔にしてるだけですよ?)
(む、その声は真央君か?)
(はい、それに召喚者が可愛い女の子っていうのも良くある話です。召喚獣は有る程度の知能や美感を持っているものが多いので、誰からも愛されるような可愛い女の子は、召喚術者として結構有利なんです)
(そうなのか・・・よかった。内心『主人公』になるのではないかと焦ったよ)
(そうでしょうか?・・・割といけると思いますけど?最近はそういうのも多いみたいですし)
(ははは・・・無理を言うな、私はこれでも自分の分くらい理解しているつもりだ)
「あの・・・よろしいですか?」
[ん?なんだい?]
「えっと、これは・・・話、通じてるのかな?なんか出てるけど」
[おっと、済まない。これでどうかね?]
いや、ちょっと待て。すんなりと出したがこれはおかしい、ここは日本では無い筈だ。よって、ここの言葉は日本語ではないと言える。しかし、私は頭(頭は無いが)で、目の前に居る少女の言っている事を理解した。日本語でないとなると、私が理解できるのは『前』の世界の言葉だけになる。しかし、そんな偶然があるはずもない。
「・・・えっと・・・分かります」
訂正しよう。そんな偶然もあった。ここは『前』に私が住んでいた世界か、それに準ずる世界のようだ。
(という事は、意外と何所かで会ってたのかもしれんな?)
(そうですね)
(こうなったら私も俄然やる気が湧いてきたぞ、まるっきり無関係な話ではなくなったからな)
(私にとっては喜ばしい限りです)
[それで?どうすればいい?]
「え、あ、はい。あの人たちを倒して欲しいんですけど・・・」
[・・・ふむ]
いや、さっきから見えていたのだが。この少女の後ろでは、今現在この少女がその戦いに参加しているとは思えないような血生臭い戦いが展開されている。この少女とその仲間が使っていたと思われる馬車の残骸をバックに、剣や盾で装備を固めた者達が、これまたお約束のような荒くれ者風の恰好をした者達相手に必死の攻防を続けている。この少女の仲間であろう者たちは、数こそ少ないものの個々の能力は高いのか、今でも数人の荒くれ者たちを屠っている。対して、荒くれ者たちは数で押す戦法らしく、相手の攻撃も省みず特攻している。その顔には恐れと焦燥が浮かんでいる。恐らく、そうでもしないと命は無いのだろう。後ろの方で、荒くれ者たちの親玉であろう者が、逃げる者を斬りつけているのが見える。
[もう一度聞くが、どうすればいい?]
「え、倒してもらえればいいんですけど・・・」
[それは、無力化さえすればいいという事だな?]
「え、えぇ」
[なら話は早い]
「え?」
どう戦うか決めた私は馬車の残骸に触手を掛ける。それを弓のように引き絞る。そして、限界までエネルギーを溜め込み、それを一気に開放する。バカン!!と、それこそ大砲のような音を出しながら私の体は射出される。その名も『スラバズーカ』(別名『スラロケット』『スラミサイル』『スラパチンコ』、気分によって変える)。ついでに体を高速回転させる。久しぶりにしたが、この速度はなかなか病み付きになる速度だ。普段は当たったら危ないのでこんなことは出来ないが、当てるためならこの速度も出していい。
「ガッ!?」
そして、目当てである荒くれ者たちの親玉であろう者の顔面にブチ当たる。おおよそ、バスケットボールを野球のピッチングマシーンで打ち出した時と同じぐらいの衝撃だと思ってくれればいい、まぁそんな状況は無いだろうが。それほどの衝撃を受けて常人なら立っていられるはずもな・・・く・・・ん?
「いってぇなぁ、オイ?スライムさんよお」
立っている・・・だと?こいつ、化け物か!?
「スライムごと気が俺様に立てついムゴゴアァァァ・・・!!」
ふぅ・・・ビックリした。結局、触手で口と鼻を塞いで落とすことになるとは。それからは早いものだった。親玉が倒されたと知った荒くれ者たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
(洲羅さんって意外と酷い事するんですね)
(どこがだ?)
(セリフを最後まで言わせてあげないなんて、それに山賊A、B、Cのセリフは出る事すらなかった)
(私に何を求めているんだ君は・・・私は『主人公』じゃないんだ。そんな余裕はないさ)
(余裕はあったように見えますけど?)
(だったらあれだ。効率的じゃないからだ。あれほど無駄な時間は無いからな)
(ま、それもそうですね)
『主人公』だったなら、ここは相手を全滅させるなり、戦いながら逃げたりするのだろう。だが、私にはそのような力は無いし、出来る気もしないので、一番効果的な方法で戦ったわけだが・・・。いやはや、私にもっと力があればと思う毎日である。
人間、口と鼻ふさげば終わりですからね。スライムマジ怖い。
うちのスライムは大体こんな感じで戦っていきます。打撃、触手、プラス窒息、みたいな。