番外『私立五百旗頭高校学校新聞5498号より抜粋』
新しい連載小説を書き始めました。よければそちらも読んでみてください。
さて、今週より始まります連載、『突撃!!あの人にインタビュー!!』。毎週、我が学校の有名人に突撃インタビューをします!!第一回目の今回は本来なら部長がする筈でしたが、部長に外せない仕事が入ったため、第一回目にもかかわらず部長に代わりまして私、二年D組の望月縁が取材することになりました。
さて、記念すべき第一回目のお相手は世界的に有名な『冥探偵』の助手、一一二三さんに突撃インタビューをしたいと思います。
一さんは我が私立五百旗頭高校の3年A組に所属しています。A組と言えば、皆さんご存じの通り、我が校でもトップクラスの能力を持った人たちが集まるクラスです。そんなクラスに突入しなくてはならないとは・・・ただでさえ上級生のクラスだというのに、緊張します。で、では、行ってみましょう!!
遠慮がちにドアを開けた私の目にまず飛び込んできたのは驚きの光景、私たちの教室と大して変わりは無いという事です。Aクラスは規格外ばかりが集まるクラス、彼らが引き起こすバトルはグラウンドにクレーターを作るほどのものもあります。そんな彼らの教室は、机と椅子が整然と並び床は綺麗に磨き上げられ、まるでワックスがけの直後のよう、むしろ私たちの教室よりも数段綺麗です。そんな教室の真ん中に一人、黒髪黒目のこれといった特徴のない生徒が一人、昼休みだというのに一人だけいました。
あ、あの~。
「はい?」
一一二三さんですか?私、学校新聞の取材を依頼した、『新聞部』から来たのですが・・・
「あぁ、待ってましたよ。どうぞ、どこでも好きなとこに座って下さい。って言っても、僕のものでもないですけどね」
私は、促せられるまま適当な椅子に座りました。一さんは私の前を陣取るように、机に座りました。その為、嫌でも見下ろされる形になります。
他の皆さんはどこに?
「出てってもらいました。プライベートな話をするかもしれないのに、話を聞かれるのは嫌でしょう?」
それなら私たちが移動すればいいだけの話では?
「面倒じゃないですか、いちいち移動するなんて」
簡単に言い切っていますが多数の人間を移動させるのは、並の人間にはかなり難しい事です。それもAクラスの規格外たちなら、なおさらです。それを、可能とするほどの力を持っているのかもしれません。あの世界的に有名な『冥探偵』の助手ならば、それもあり得ます。
・・・それも、そうですね。では、早速インタビューを始めさせていただきたいと思います。まずは・・・オーソドックスに自己紹介から。
「名前は一一二三、漢数字の一でニノシタ、本当はニノマエと読むらしいですけど、それに一、二、三でヒフミ。三年A組、出席番号は21番、O型のRHマイナス、所属委員は無し、帰宅部」
簡潔に述べる彼からは、かなり事務的で冷静な人間性を感じます。
では、趣味・・・とかはありますか?
「これと言った趣味は・・・あ、紅茶が好きです。特にロイヤルミルクティー」
好物は、ロイヤルミルクティー・・・と。はい。じゃあ次、この高校に入った理由は?
「多額の奨学金が出るのと、あと、何日不在になったとしても退学にはならないからですね」
何日も不在・・・と言うとやはり?
「そうですね。仕事柄、不在になることが多いので」
はぁ~凄いですね~。最近は仕事が見つからなくて困っている人も、働かない人も居るのに・・・
「いや、そんなに言われても困るんですが・・・あと、この学校に入っていると何かと得なことがあるんですよ」
そうなんですかー。あ、もしかして探偵仲間がこの学校に居たり?
「私は『冥探偵』の助手であって、探偵でも何でもないんですが・・・まぁそうですね。そういう人たちと情報交換が簡単に出来る。と言うのは大きいです」
この学校も大きいですからね。いったい何人探偵が居る事やら・・・。
「どうでしょうねぇ?」
そう言って一さんは少し笑いました。初めの雰囲気からすると、この人はあまり笑わない人だと思っていましたが、そういう訳ではないようです。私はその事に少し安心して、次の質問をすることにしました。
じゃあ、皆さんが気になっている質問から。テレビドラマや小説で語られる話は、全部本当なんですか?
「もちろん名前や地名も変えて言っちゃいけない事は省いていたり、演出とかその他諸々の事情があったり、事件関係者の事も会ったりしますが・・・」
しますが・・・?
「概ね、本当の話ですよ」
・・・なんと!それは、ここで言っちゃってもいいんですか?
「・・・あなたはそれを聞きに来たんじゃ?」
それは、そうですけど・・・。
「じゃあそういう事でいいじゃないですか」
・・・分かりました。・・・じゃあ、今まで多くの事件にかかわって来たようですが、ズバリ、一番印象に残る事件は?
「印象に・・・○○市の連続殺人事件じゃないですかね」
○○市と言うと・・・数少ないあなたが単独で事件に挑んだ話ですか。
「えぇ、あれが私の初解決ですからね」
解決・・・?ちょっと待って下さい、あの事件はまだ解決していないのでは?犯人も捕まっていませんし。
「・・・あ、すいません。今のは無しで」
せっかく見つけたスクープの種、逃すわけにはいけません。私は、作戦名『ガンガン行こうぜ』を発動することにしました。
無しにはできません。どういう事ですか?あの事件は既に解決しているんですか?事の顛末はどうなったんですか?犯人は捕まったんですか?
「いやいや、ノーコメント。ノーコメントです。いくら解決したからと言って、事件の事を軽々しく話す訳にはいけません」
なら何で、事件を題材にしたドラマや小説があるんですか?
「そ、それは・・・ドラマとか小説の事件は、かなり古いし、許可もあるし、かなり軽いものだからですし・・・」
事件に今も昔もありません!!それに私たち記者にとって大切なことは、真実を皆さんに伝える事、連続殺人の解決なんて事を伝えない訳にはいけません!!だから、ぜひ、事件の話を聞かせて下さい!!
「・・・」
・・・
私の思いが伝わったのか、考え込む一さん。そして私を、探る様な目で見つめます。私は、その瞳から目を離すことが出来ませんでした。私は、今までこんな目をした人物を二人しか見たことがありません。一人は私たち『新聞部』の部長、そしてもう一人が一さんです。
その今まで多くの事を見続けてきた目は、有無を言わせぬ迫力があります。他の人間に言わせれば、死んだ魚のような眼だとか、物事全てに絶望している眼だとか、言うようですが、それは間違いだと、私は断言できます。
お願いします。
私は頭を下げました。それはもう深々と、気持ちの上では地面にめり込むほど。私の中でこの人はもう、ただの取材相手ではありませんでした。尊敬すべき人物として、そして、掴むべき情報を持った宝物になっていました。
・・・・・
「・・・・・・いいでしょう。では、最初に聞きますが、あなたは今から語る真実に耐えられますか?その事実に耐えることが出来ますか?」
はい、もちろん。そこに真実があるのなら、私は何をも恐れません。
「・・・いいでしょう」
不敵に笑った一さんから語られる、衝撃の事実の数々に私は何度も打ちのめされそうになりましたが、それでも私は真実を掴むことが出来ました。まことに申し訳ありませんが、その真実はあまりにも衝撃的過ぎてここでは語れません。ですが、この事実だけは書いておきましょう。犯人はもういない、と。これだけ書いておけば、皆さんは安心できるでしょう。
長くなりましたが、次の質問・・・っと、予鈴が鳴りましたね。では、これぐらいにしておきたいと思います。今日はありがとうございました。
「いえいえ、私も楽しかったですよ」
さて、『突撃!!あの人にインタビュー!!』第一回目が終わりましたが、皆さん面白かったですか?次回からは、本来これを書くはずだった部長がこのコーナーを務めます。では、お楽しみに~。
~インタビュー後3-A教室にて~
「あれ?師匠、どうしてここに?」
「インタビューを受けてた」
「は!?インタビューってもしかして、新聞部の!?」
「そうだが?いや~面白いね彼らも、全く私の変装に気付かない。私、まだまだ高校生としてやっていけるかな?」
「いや、無理でしょ。そもそもあんた高校行ったこと無いでしょ」
「そうだった。でも、ここの高校だったら、私も入れるんだろ?」
「まぁ、多分入れると思いますけど・・・って、さっき僕の変装をしてインタビューを受けたって、それはつまり僕としてインタビューを受けたってことですか!?」
「そうだよ?」
「何さらっと言ってるんですか!!それに教室の周りに変な結界を張らないでください!!今から授業始まるんですから!!」
「いや、まぁ結界はもう解除した。うん、正直済まなかった」
「じゃあもう帰って下さい、今から僕は授業が有るんで」
「事件だ。というか本当は分かってるんだろ?」
「正直、ね。一応、お約束ですよ。お約束」
「じゃあ、行きますか」
「今度はなんです?」
「ああ、こんな招待状が来てな・・・山の上の別荘にご招待だ」
「つまり、事件が起きるってことですね。犯人はもう決まったも同然ですね」
「多分、その館の当主だ。まあそうじゃないにしても、すぐにわかるだろう・・・」
・・・そしてその教室には誰も居なくなった。まぁ、数分後には生徒が戻ってくるのだが。
『冥探偵』ついに登場。いたずらのつもりが、相手が気付かずそのままインタビューを受け切ってしまいました。
ヒフミと違ってこの人の目は死んでません。新聞部の子はことごとく騙されていた形になります。(笑)