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僕達の異世界生活  作者: 真島 真
『かわいい』あの子と『最強』と『最恐』
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第65話『主人公』




「来て」


姫様がそういって招くのは、第三食堂に掛かる何の意味が有るのかよく分からない垂れ幕の中だった。


「姫様、ここで話すんですか」

「まぁ、この垂れ幕はそういう使い方もするけどね。ここじゃないわ」


そう言って、石の壁に手を添え、何かを探るように手を滑らせる。


「・・・お、あったあった」


姫様の手元にはよく見ないと分からない程の隙間があった。言い換えれば、よく見れば誰でも分かるほどの隙間があった。姫様がその隙間が空いている壁の部分を押す。すると、その部分がスライドし、中には真ん中に『転』と書かれた<魔法陣>があった。


「・・・手を掴んで」

「あ、はい」


言われた通り、手を掴む。


「・・・よし、誰も見てないわね・・・<起動>」


すると、<魔法陣>から光が溢れ、その光が自分たちを包み込む。こう、日に二度も光に包まれるのは、何とも言えない感じだ。しかも、光が収まった時、さっきまでいた場所か違うとなると、自分は何でこんな事になっているんだろう、とすら思うようになる。まぁ、そう言ったところで、光が収まっても真っ暗で目の前の事すら分からないのだが。


「ねぇ、明かり持ってない?」

「はぁ、またですか・・・姫様が<魔法>で光を灯せば良いでしょう」

「そりゃそうかもしれないけど、疲れるのよ・・・アレ」

「まぁいいですけどね・・・でも、これもタダじゃないんですよ?」

「そうなんだ?」

「そうですよ、ざっと金貨百枚ぐらいします」

「嘘!?コレが!?」

「嘘です」

「嘘なんかい!!」


いくらケチ臭いと言われようと、自分のスタンスはこうだ。極力、無駄遣いは省く。まぁ、必要な物まで省いてしまう事も少なくは無いし、なんだかんだ言って結局、持ち物はいつも多いけれど。基本的な『力』が弱い自分はそうやって、道具で武装するか、もっとほかの物で武装するかしか、あの世界では生き残る道が見つからなかった。いや、死んでるけど。生き返るのだって自分の『力』ではない、と言うか自力で生き返れたらそれはもう人間じゃない。なら何で生き返れるのかと言ったら、そういう『仕事』をしてるからとしか言えないが。それに、生き返れると言っても無限に生き返れる訳でもない。自分の『仕事』は、まぁ、言ってしまえば『何でも屋』だが、その幅は異様に広い猫探しから軍事指揮まで所ではない、おおよそ人でないモノすら相手にする。いや、これじゃ言い方が悪い、人でないモノすらお客にする。前から時々言っていたが、要はそういう職場で、報酬の幅も異様に広いのだ。現金はもちろん、兵器、野菜、絶滅危惧動物、果ては魂なんて物も報酬として上がるぐらいだ。まぁ、自分はその報酬でもってして生き返っている訳だ。

結論から言うと、本来自分は語られもしないような存在で、語るに落ちないような人間であるが、何の冗談か、はたまた何の偶然かは分からないが、『冥探偵』に命を救われ、『冥探偵』に付いてゆく内に、少なからず『力』を得た、マンガ的もしくはアニメ的にいうなれば、ただのモブだ。そう、自分の名前からも分かるように、自分はふざけた存在だ。ただのモブが、ここまで出張ってくること自体がそもそもおかしいのだ。だけど、その自分にスポットが当たってしまった。そうなってしまったからには出来るだけやろうとは思う。

いや、何でこんなに話が逸れているんだ自分は。そうだ、この雰囲気のせいだ。と、ごまかしつつ、微妙にツッコミの腕が上がっている姫様に問う。


「さて、何が聞きたいですか?」

「そうね・・・それじゃあ、まず、あなたは『勇者』じゃないの?」

「前から言ってる通り、『勇者』じゃありませんよ」

「それは、本当にそう言える?あなたが自覚していないだけ、とかそういうのもないの?」

「自覚も何も確認取りましたから」

「確認って・・・え、もしかして・・・神様から?」

「ん?そうですけど?」


実際には、別に何とも言われて無い、『神・最強』さんもあまり『勇者』について言及しなかったし、触れたにしても別れ際の挨拶程度だった。恐らく『勇者』というのは、人が勝手に言っているものなのだろう。と、勝手に判断したわけだ。


「つまりは、今日、あなたは神に会ったと、そういう事ね?」

「いや、まぁ、そうなるんじゃないすか?」

「神に会うなんて、あなたって本当に『勇者』じゃないの?」

「いやいやいやいや、それだけで『勇者』と言われるんだったら、姫様だってそうですよ」

「え?」

「この前会ったじゃないですか」

「・・・この前?え?」

「あれ?おかしいな、いくら支配されてたからって、記憶は残るもんだけどな?」


自分の記憶違いか?いや、そんなはずは・・・。


「支配って、幽霊の時のあの怖い人?」

「そうそれ、あの人も言っちゃえば神様ですよ?」


あの人たちを見て、『管理人』だ『裁判人』だなんだと言っても、まず普通の人には通じないだろう。おおよそ、あの人たちもそれを自覚しながら働いている。しかも、一部の人に至っては悪乗りして神の名を騙ったりもしている。そんな人たちだが、死人を裁いたり、破滅寸前の世界の正常化を測ったり、絶滅寸前の動物の生命サンプルをデータ化して永久保存したりと、する仕事はまさに神の所業と言ってもいい。


「はぁ~・・・そういう事だったの・・・じゃあ、神を簡単に呼べるあなたって実は凄い?」

「いや、別に凄くは無いと思いますよ?神と言っても、人がそう勝手に言ってるだけだし、あの人たちは手順さえちゃんと踏めばいつでも来てくれますよ。もし、ちゃんとした理由があるなら・・・ですが」

「そう、ビックリした。・・・じゃあ、あの人、でいいのかな?」

「いいと思いますよ」

「あの人たちは私にも呼べる?」

「まぁ、呼べない事もないこともないと思うかもしれませんね」

「どっちよ、ソレ」

「まぁ、要するに『神』と言う存在は案外、簡単に会えるものだと思って下さい」

「なんか、誤魔化された気がするけど・・・まぁいいわ、そういう事にしとくわ」









「さて、と・・・って、あんた何してんのよ?」

「え?何って、出口を探してるんですけど?」

「帰ろうとするな!!話はまだ終わっとらんわ!!」

「あ、そうなんですか?お腹が空いたんですけど・・・また今度じゃダメですか?」

「それ位我慢しなさい!!」

「冗談ですよ」

「あんたって、本気で言ってそうだから怖いのよ」

「失礼ですね。そんなの、いつも半分本気に決まってるじゃないですか」

「半分本気なんだ!?」

「そうですよ。だから要件は早めに済ませてください」

「こいつ自分勝手すぎる!!・・・もう、いいわよ。分かった、要件ね・・・あなたに依頼があるの」

「ふぅん?」

「その反応、ムカつ・・・!!・・・いえ、いちいち怒ってたら話が進まないわね」


依頼、か。姫様とは一応一緒に学校に行くという契約がもう既になされているのだが、どういう事だろう?


「依頼っていうのはね。・・・この国を良くするために私たちに力を貸してってことなんだけど・・・受けてくれないかしら?」

「イヤですけど?」


まぁ、とりあえず断るのが自分だ。それに、国を良くするなんてことは自分たちで勝手にやってくれればいい。そもそも、自分はこの国の人間ではないし、面倒なことはしたくない主義だ。


「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから!!せめて、盗聴器だけでも貸してほしいのよ!!」


おおよそ、一国の姫様の口から出るとは思えないようなセリフが出てきた。


「姫様、一ついいですか?」

「何?」

「私が部外者であることを分かって言ってますか?」

「ええ」


即答か。これは、よほど切羽詰っているという事だろうか?


「部外者で、しかも私たちは一方的に迷惑を被っている、つまり、あなたたちに貸しがある。という事を分かって言っていますか?」

「分かってるわよそんな事。・・・・でも、だけど。頼れるのがあなたぐらいしかいないのよ」


今日はパーティーの日だというのに、姫様にはいつもの元気が感じられない。ツッコミも心なしかキレがなかった。

いや、ホント嫌だね。自分のキャラが定まらないっていう性質は。あっちへフラフラこっちへフラフラするものだと思っていたのに、この流れからいくと自分は『主人公』的なキャラになってしまう。それはつまり、この依頼を受けてしまうという事だ。この、絶対に面倒なことが待っている依頼を。


「『最強』さん、いや、『勇者』さんがいるじゃないですか」

「無理よ。もう既に『勇者』の周りは囲まれてる」

「何に?」

「大臣派勢力、教会、その二つよ。かろうじて、お兄様がいるけど。・・・旅は始まってしまった。『勇者』の『魔王』討伐の旅は」

「それはつまり、私に戦争を止める手伝いをしろという事ですか?」

「そうよ。・・・頼めないかしら?」


目に涙を含ませながら問う姫様。

しまった!!この人は美少女なんだった!!このままでは『主人公』になってしまう!!急いで、顔を背けなければ!!

しかし、自分の顔を背けた場所に回り込む姫様。

手を組みあの使い古されて、ベッタベタのセリフを口にする。


「私たちの国をお救い下さい『勇者』様」


と。

そして、自分は・・・


「イヤです。でも、力は貸しますよ?」


微妙に『主人公』に成ることを回避したのだった。


「ホントあんたって、空気読まないわよね」





これで、一端ヒフミ君の話はお終いです。

ここまでが、長いプロローグだとでも思って下さい。

次からは、カオルちゃんの話と閑話だったり。この世界に来たほかのクラスメイトの話が始まったりします。

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