第57話『<祝福の儀>(2)』
自分は人の視線が集まる方、即ち『勇者』が登場した所に目を向けた。そこには煌びやかな衣装を身に纏い、いかにも『勇者』な恰好をした『最強』さんが居た。その後ろに目を向けると、この国の王様であるソロモン・サトーや王子っぽい人物や、姫様っぽい、というか姫様や王妃が居る。そして、『最強』さんの前には、ごちゃらっとした装飾が付いた神官服を着た、小太りのオッサンが居た。そのオッサンが声を上げた。
「これより、『勇者コーガ・ヒカリ』の<祝福の儀>を執り行う!!」
更に強くなる『勇者』コール。正直に言って耳に痛い。
「静粛に!!<祝福の儀>は多大な精神力と集中を必要とする!!静粛に!!」
下っ端神官の言葉で、シンと静まり返る民衆。ふぅ、鼓膜が破れるかと思った。
「うむ」
と、オッサンが一言つぶやく。
「では『勇者』よ、その中に入れ」
オッサンが指し示す場所には、銅で出来た直径五メートルほどの巨大なボウルのような物があり、その中には水が張られていた。
「この中にか?」
「そうだ」
「分かった」
『最強』さんが歩を進めると、不思議なことに『最強』さんの体は水に濡れなかった。というか、水に沈まなかった。うん?どっちだ?『最強』さんの技か?それとも、あの水が不思議水なのか?
「それでいい、その水は神より与えられた水、言わば聖水である。聖水は清くない人間を拒絶する。そこで今よりお主に<浄化>を掛ける。よいな?」
「うむ」
なるほど、要するに不思議水だった訳だ。オッサンが、もにゃらむぐむぐ・・・と呪文らしきものを唱える。
「・・・この者に<浄化>を」
そう言うと、『最強』さんを中心に蛍のような光が降り注ぐ。すると、『最強』さんの体があの不思議水に沈んでゆくではないか。まったく、異世界は不思議いっぱいだぜ!!
「これで、お主は神に受け入れられる清い体になった。後は、聖水の中に頭まで沈めばよい、出来るな?」
あ~、地球にも似たような奴があったな~。やはり人間、同じような事を考えるのか。
「はい」
と、答えた『最強』さんの体が沈んでゆく。そして、
カッ
は?
「は?」
思わず声に出てしまったが、無理もないことだろう。悪い意味で慣れ親しんでしまった、『あの現象』がこんなところで起こるのだから。
「え、なに?何で?」
キョロキョロと周りを見回すが、さっきまでの、神殿の中の風景では無い。しかし、慣れ親しんだ『あの』暗闇でもない。
「かずくーん!!」
自分を呼ぶ『最強』さんの声が聞こえる。
「『最強』さーん!!どこですかー?」
「そこかー!今行くぞー!!」
返事をするや否や、ドゴン!!と床が突き破られ、『最強』さんが入ってくる。いや、階段使えよ!!
「かず君これは、どういうことだと思う?」
「さぁ?」
「私たちは帰ってきたのか?」
「さぁ?」
「ここは、私たちの教室、というか学校、
だよな?」
「さぁ?」
そんな事を聞かれても困ってしまう。確かに、帰って来たのではないか?とも、思うような風景だが、明らかにおかしい点がある。
「『最強』さん、窓の外を見てください」
「なんだ?・・・うぉ!なんだこれは!?真っ白だぞ!!」
「いや、だから分かりませんって。・・・ついでに、さっき空けた穴もなくなってます」
「む・・・本当だ。いったい何なんだろうな、ここは?」
「さぁ・・・自分たちの記憶を見せられているとかそんなんじゃないですか?」
「やけに具体的だな」
「まぁ、お約束でしょう」
「ご明察。いや~、流石はかず君だね!!」
「「!?」」
背後から突然投げかけられる声、しかし自分たちが驚いたのはそんな理由ではない。では、どんな理由で驚いたのか?問題はその『声』にあった。
「あの、『最強』さん今、なんか言いました?」
「い、いや。何も言ってないぞ?」
「うむ、確かに私は言ったぞ?」
その『声』の持ち主が、二人(・・)居るのだ。その声の持ち主は自分ではない、ということは『最強』さんの『声』が二人ぶん、つまり『最強』さんが二人いるのだ。
「えーと・・・どちら様で?」
聞くまでも無いが、一応は聞くべきだろう。
「私は『最強』と君に呼ばれていた、いや、今の段階じゃ呼ばれている、か。・・・光賀光だよ」
「・・・は?私?」
「うむ、その通り。・・・まぁ、大分変ったけどね」
そう苦笑する『最強』と、混乱する『最強』。その『最強』さんたちを見る自分は、今後起こるであろう面倒事に一人溜め息を吐いた。