第閑話『4.社長と女性記者は名乗りを上げる』
なんて言うのかな?こう、閑話のネタばっかポポポポーンと出る感じ?とっても困る。
「・・・ああ・・・頼む・・・では、また後で」
携帯で五十里と連絡を取り合い、とりあえず迎えに来てもらうということで話し終え社長は携帯を閉じた。
「社長」
「なんだ?」
「さっきの警官の彼に対する対応、あれは演技なんですか?それとも、本当に?」
「2点」
「は?」
「君の質問に対する評価だ。演技なのか否か、本当か否か。そんな事、その行為をしている時にしか分からない。後から聞いても、どうとでも答えられるからだ。次に、そもそもその質問は失礼だ。私ならともかく、本気の人間に、演技ですか?などという質問は絶対に、何か理由がない限りしてはいけない。今後の関係にすら響いてくる質問だ。人間、特に私たちのような情報を扱う人間にとって、人との関係ほど重要なものはないからな。三つ目、それが本物か偽物か、それ位は見分けられるようになれ。以上の点から百点満点より計98点のマイナスで、その結果が2点だ」
「2点?」
「2点だ」
「2点!」
「あぁ」
「2点!?」
「しつこいぞ」
「・・・すいません。でも、さっきの質問には答えてもらえませんか?」
「いいだろう、アレは本気だ」
「・・・本気」
「いや、あれも(・)本気だ。私はいつだって本気だからな」
「それは・・・寝ている時もですか?」
「あぁ、その通り」
「・・・・・・」
この男はどこまでが本気なのだろか・・・?まさか・・・本当に?いやいや、そんなはずは・・・無いはずだ。
社長の答えに何も確証が得られないまま、十分の時が過ぎた。
女性記者が悶々としている中、一台の車が二人の前に止まった。その車は銀色の普通車でそこそこ人気のあるものだった。女性記者も、この車には愛着がある。前の仕事の時にこの車には何度も助けてもらったことがあるからだ。
「いい車でしょ?」
そう話しかけてくる男、社長の友人の五十里だろうか?その男は日本人らしい黒髪、童顔の顔に眼鏡をかけ、似合わないスーツを着た男だった。女性記者は、その男の問いかけに大いに共感した。
「そうですね。スピードも出ますし、頑丈ですしね」
「あ、日本語お上手ですね」
「あ、いや、仕事柄こうもなりますよ」
「お仕事は何を?」
はて?この男は五十里ではないのか?社長の友人なら、社長が出版社の社長をしていることを当然知っているだろう。そしてその部下ともなれば、記者かカメラマンしかないだろうに。それに、社長の友人ならば、友人である社長のもとに真っ先に向かうはずだ。
「記者をしています」
「あぁ、記者さんでしたか!!この街には取材に?」
「そうですが・・・あの・・・あなたは?」
「あ!すいません、申し遅れました。私は小林 玲この『街』で『安内人』をしている者です」
案内人?この『街』は無駄なことをしているのではないだろうか?
「私はスティーブン・ジョーンズだ。よろしく頼む」
社長が自己紹介をし、小林と握手をしている。
「ケイ・ミールです」
女性記者も自己紹介をし、握手をする。
それにしても、この『街』来た時から気になっている事がある。それを小林に聞く。
「そうですね。それも話さなければいけませんし、とりあえず出発しましょうか」
人のいない道を制限速度の十キロオーバーで走る車の中で、女性記者もといケイは運転席に座る小林に改めて先の質問をした。
「どこから話しましょうかねぇ・・・とりあえず、この『街』の成り立ちから話しましょうか」
そんなモノどこも似たようなものだろう。街自慢が始まるのかとケイは少しウンザリした。
「いやいや、そんじょそこらの街と、うちの『街』は話が違うんですよ」
まさか、口に出ていたのか?いや、そんなはずはない。なら顔か?顔を見ればもしかしたら分かるかも知れないが、私も社長も後部座席に座っている。ルームミラーを使えば顔は見えるかもしれないが、今は夜、暗くて顔もよく見えないだろう。
「あ、驚きました?私も仕事柄その人の息遣いとかで、何を考えているのか大体分かるんですよ」
なんと、この童顔の男は見かけによらず意外と優秀らしい。このような男が只の案内人などとは、この『街』の評価を上方修正する必要がある。
「えー・・・無言で返されると話しづらいんですが・・・まぁいいです。と、話を戻しましょう。この街は室町時代末期、えーと、西暦1570年位の時にできました。誰が建てたとかそういうのは分かりませんが、したことは分かっています。何をしたと思います?」
「は?え、人を集めたんじゃないでしょうか?」
「違うんですよ。社長さんは分かります?」
「鬼だ」
「流石ですね。正解です」
「オニ?」
「日本で言うゴブリンやオーガの事ですが、その殆どが特殊な力を持った人間です」
「・・・超能力者」
「いえ、それに限った訳ではありませんが・・・まぁ、似たようなものです」
「それでその特殊能力者たちを集めたのはなぜ?」
「それは分かりません。、能力者たちで軍隊を形成し戦乱の世で有利になろうとしたか、そもそも立てた人物も能力者で疎外されやすい能力者を助けたかったのか、諸説あります」
「なるほど、それでこの『街』は他の街と違うということですか」
「概ねその通りです。時代が進むにつれ、日本は開国、諸外国との交流が増えた。それと同時にこの街にも新たな住民が増えていった。普通の人間も、そうでない人間も、そもそも人間でないモノも・・・」
「あの・・・ちょっといいですか?」
「なんですか?」
「よくこの街はここまで持ちましたね。そんな者たちが集まれば、街なんて崩壊しそうなものなのに」
「そうかもしれませんね。ですが、この街に来るのは殆どが逃げて来た者です。本来は平和に過ごしたかった人達ですからね。それに、この『街』には、更に特殊な力があるんです」
「更に?」
「私たちはその力を『ロール』と呼んでいます」
「役割?」
「えぇ、物語には必ず『主役』や『脇役』が居るでしょう?それと同じです。例えば、泥棒がいたとします。あなたならどうします?」
「無視します」
「・・・えーと、それじゃ話が進まないので、あなたは捕まえようとしたことにします。あなたならどうしますか?」
「とりあえず、手を潰して武器を持てないようにしますね」
「・・・すでに武器を持っていたら?」
「武器を取り上げて、自分の武器として相手と戦いますね」
「・・・あなたから、距離が離れていて。武器も銃だったらどうします?」
「盾になる様な物に隠れながら遠くから攻撃、石か何かで牽制をして、その場から動かないようにして、弾切れやリロードの隙を突いて一気に無力化しますね」
「・・・もう、いいです。あなたなら『主人公』になれますよ。本来ならある程度まで頑張って、途中からは無理っていう回答を予想していたんですがね・・・。で、そのような理不尽にすら打ち勝つ様なロールの持ち主の事を『主人公級』と、私たちは呼んでいるんです。その等級は多岐に亘り、説明は省きますが、『主人公級』の次は『ライバル級』、『脇役級』などがありますね。で、悪事を働いたモノには、そのモノよりも強いロールを持ったモノが当てられるわけです」
「なるほど」
「で、ここからが面白いところです。その力、ロールは私たち一般人も持っているのです。さっきちらっと、あなたなら『主人公』になれると言いましたが、あながち間違いじゃ無いんですよ?あの質問は簡易的なテストも兼ねていて、その人がどのような判断をするかで、その人のロールがどれ程の物なのかをある程度測ることが出来るんです。まぁ、性格じゃないんですがね。で、その結果あなたは『主人公』に近い思考パターン、行動ルーチンの持ち主だということが分かりました。おそらく、相当のロールをお持ちですよ」
「・・・私が『主人公』ですか。・・・あいにく、そのテストの結果は間違ってますよ」
なぜなら私はそんなモノとは真逆の存在だ。それとも何か?元傭兵のコックのような人間になれと?それは嫌だ。あの仕事以外の仕事が選べたなら、ほかの仕事が良かった。私だって、お花屋さんとかケーキ屋さんになりたかった。でも、この道に進んでしまった。戻ろうと思えば戻れるタイミングは何度かあったのに、だ。私はそんな人間だ。何かを得るために進んで人を殺す。そんな人間なのだ。そんな人間が『主人公』?馬鹿にしてるにも程がある。
「そんなことないと思いますがね。ほらあなた、美人だし」
美人、か。そんな事を言われたのは何年振りだろう?あぁ、私がまだ弱かった時だ。あの時は、仕事も今のような仕方では出来なかった。そう、思い出したくもない、あの下卑た笑いを浮かべる豚に言われたのだったか。は、あの豚に言われたのが最後の記憶だとか、私は終わっているな。
「いえいえ、私もこの街から離れづらいのでね。出会いが少ないんですよ。どうです?後で食事でも、まぁ、そうは言っても基地でなんですがね」
嫌な記憶を上書きしてくれたお礼に、食事位なら付き合ってもいいか。
「いいですよ。・・・いいですよね、社長?」
「あぁ、好きにするといい」
「本当ですか!?よっしゃあ!!帰ったら基地の奴らに自慢してやる!!」
なんか凄いよね、主に死亡フラグが。