第54話『ギルドカード(1)』
パソコンを新しく買いました。
「カオルのギルドカードってどんなのかしらね?」
「ギルドカードってそんなに皆違うものなの?」
「色がそれぞれ違うのよ。そうね、例えば冒険者だったら七色あるわ。茶、緑、青、赤、白、黒、金っていう感じにね。一目見るだけで、その冒険者の度合いが分かるの」
「ふーん、その色ってどうするの?塗り替えるの?」
「ギルドカードってあんなにに薄くて小さいけど、一応魔法の品なのよ。色ぐらい魔法で変えられるわ」
それもそうか。魔法は僕が聞く限り何でもありのような気がする。
「じゃあ、偽装もできるんじゃ?」
「ソレが出来ないようになっているからこそのギルドカードなの。それに、ギルドカードの情報はすべて国によって管理されているわ、だからそんな事をしたら、牢獄直行よ」
「へー」
意外としっかりしてるんだ。国営のクレジットカードみたいなものか。いや、そんなのはないけど。
「で、僕の色っていうのは?」
「そう、初めにギルドカードを作った時に一番初めに設定されている色があるの。まぁ、すぐに変えれるんだけどね。その色はその人を表す色と言われているの。色の相性が良ければ、その人とはうまくやっていけるとも言われているの」
なんか、占いみたいだ。占いを信じていない僕にとっては胡散臭く感じる。
「その顔は信じていない顔ね。そのギルドカードのおかげで結婚を決めた人だっているのよ?」
「でもやっぱり、物は物だよ」
物と付き合っている者として、流石に譲れない。物に感情はない、だから人が気持ちを込めなければいいモノは作れない。人があってこそ、物があるのだから。
「・・・夢がないのね」
「酷い!!僕だって夢ぐらいあるよ」
「そんな物に頼らなくても、心を伝えられるモノを作ること。それが僕の夢」
「よく分からないわ」
「いいよ、分からなくても」
僕にだって、まだ分かっていないんだから。でも、この魔法という奇跡に満ち溢れた世界でなら、それも見つかるかもしれない。
「番号札6番でお待ちの方~カードが出来上がりましたので、一階三」番カウンターまでお越しください」
「あ、これだね」
「取り行こっか」
「そういえば、学力のこと聞かなくていいの?」
「そうね、ついでに聞きましょう」
「三番カウンター、ここだね。すいませーん、カードを受け取りに来ましたー」
すると、直ぐに職員さんが奥から走ってきた。息が少し上がっている。さっきの受付のお姉さんだ。
「番号札を見せてください」
すぐに気を整えて普通に対応するのはすごいと思う。若干、尊敬の意を込めながら番号札を渡す。
「はい、これです」
「・・・ひゃ、はい、確かに。こちらがギルドカードになります」
噛んだ。不思議だ、この人はもっとクールっぽいイメージだったのに。まぁ、人間噛むことぐらいあるか。
それで、問題のギルドカードの色。いくら占いを信じていないからと言って、言われたら気になるのが人間の性。僕のギルドカードは薄桃色だった。まただ、またこんな『カワイイ』色なのか・・・。
「カワイイ色ね、カオル」
「カワイイ色ですね。薄桃色は、優しく愛にあふれた人だと言われています」
言われた。受付のお姉さんにも言われた。『カワイイ』と。
「あの、色を変えるにはどうすれば?」
うん、すぐに変えたよ。藍色に。なんでそんな色にしたかって?赤とか青とか黒とかは冒険者用、っていうように。決められた色のカードを持たなければいけない職種もあるみたいで、目立つ色の殆どがそれに使われているのだ。だから藍色。うん、もっとほかの色でもよさそうだと思うよね。僕も思ったよ、でも、後に残っている色の殆どが僕の嫌いな『カワイイ』色ばかりだったんだ。だから藍色。言い訳に聞こえるって?うん、実は藍色が好きだよ、僕は。だから藍色。いいじゃん藍色!!ジーパンの色だよ!!ちなみに僕は十二本ほど持っている。季節毎に三本ローテーション、うん、どうでもいいね!!
そんな、だれも興味を示さないような思考は置いておこう。僕のギルドカードの内容は、こんなものだった。
名前 櫻井薫
種族 人間族
職業 学生
所属 私立五百旗頭高校3‐A
称号 『誰もが認める美少女』【魅惑の花】
レベル 23
HP1862/1862
MP10/10
力 26
魔力 11
体力 17
知力 72
器用 42
敏捷 23
学力 170
魅力 8739
スキル 『体術』『棒術』『盾術』『魔法』『古代魔法』【魅惑の花】
・・・どういう事だろう。名前は漢字表記だし、ちゃんとうちの『高校』所属になってるし、称号があるけど『美少女』だし、【魅惑の花】ってなんか他と字面が違うし、同じのがスキルのところにあるし、なんかステータスが多いし、数字もおかしい。
そうだ、きっと壊れているんだ!ピンク色だったのもそのせいだ!
「すいません」
受付のお姉さんに声をかける。
「もらっていきなりで悪いんですが、コレ壊れてませんか?」
「・・・ちょっと、見せてもらっても宜しいですか?」
「はい」
きっと壊れているに違いない、あ、この世界にはクーリングオフ的な制度はあるのだろうか?壊れてたりしたら、返品できたりするのかな?
「・・・見させていただきましたが、その様な所は全く見受けられません。まったくの正常です」
「そうですか・・・」
ということは、あの異常な数値は正常だという事になる。あ、そういえばギルドカード受付の人に情報を見られているんじゃ?
「あの、見ました?中身」
「大丈夫ですよ、私たちギルドはギルドカードの情報はその人が何かしたときか、本人の立ち会いのない限り一切見ることはございません。というよりも、ギルドカードの初期設定として本人以外見られない仕様になっておりますのでご安心を」
ほー、ということは迂闊に犯罪を犯せない訳ね。よく考えてるなー。そんなことを考えているとフェリシアが声を上げた。
「あ、ついでだからこれも故障してないか見て頂戴」
「はい、いいですよ」
「はい」
「・・・これも異常は見受けられませんね」
「私、学生なんだけど・・・学力のパラメーターって100が限界よね?」
「一応、そうなっております」
「一応?」
「はい、普段学力のパラメーターは定期的に行われるテストの平均値が数値化されたものです」
「それは知ってるわ」
「が、しかし時に天才は現れるのです。私たちの常識では考えられないようなことを考え付き、不可能を可能にするような天才が。その様な天才は、私たちの物差しでは測ることが出来ない。それを解消するために、採用されたのが『限界突破』」
「『限界突破』?」
「はい、有る条件を満たすことで『限界突破』されたパラメーターに切り替わります。例えば、新発見をしただとか、何か有用なものを発明しただとかがその条件に含まれます。切り替わったパラメーターは既存の限界より解かれ、さらに上を指し示すようになります」
「ふーん。ありがとう助かったわ」
「あ、待って下さい。まだあります。『限界突破』したパラメーターですが、いつでも通常に測った場合に切り替えられますからね」
「うん、分かったわ」
なるほど、『限界突破』か。きっと『最強』さんは全パラメーターが『限界突破』していることだろう。あの受付のお姉さんも好い人だと思う、あんな質問をして何も聞いてこないなんて。僕だったら好奇心に押しつぶされて、根掘り葉掘り聞きだそうとする。僕はそんな、ありがたい気持ちを込めて、
「ありがとう」
と言って、受付を後にした。
この日、カオルの熱狂的信者がまた一人増えていたのは別のお話。