第52話『幽霊騒動~結局のところ自分は何もしていない~』
今回のオチ、もとい後日談。正確には後時談。
「で、結局君は『最強』さんに憑くんだ」
「はい」
「今度こそ心を入れ替えて?」
「それは言わないでください」
「冗談さ。でも、君の罪は許された訳じゃない。それはしっかりと肝に銘じておくように。肝に銘じて、働いて罪を償え」
「はい」
結局、この幽霊騒動の犯人ナタリア・サンダーランドは、向こうの世界の法律、『裁判官およびその事件に係った者たちの相談により刑は決まる』と言う法律によって、『ナタリアは誰かに憑いてその人を救う』という事になった。誰かに憑く、と言う行為は幽霊界では割とポピュラーである。ちなみに向こうの人間、いや、向こうには人外も溢れるほど居るので正確ではないが、知的生命体たちは仕事をしている。世界の管理であったり、ホルさんの様な裁判官であったりその仕事は様々だ。その仕事の中に『守護霊』になるというものがある。それが今回、ナタリアに与えられた刑罰である。そして、仕事と言うには、仕事に対する報酬が発生するが、ナタリアにはそれが与えられず、ナタリアが命を奪い、拘束してきた人々に対する賠償に充てられる。具体的な額にすると、サラリーマン三~四人が一生働いた程の額になるが、幽霊の後は長い、そのうち返せるであろう。ちなみにその判決を下したホルさんは、すぐに帰ってしまった。何も奥さんが晩御飯を作って待ってるとかで。
「あの、その・・・」
「何だ?」
「・・・ありがとうございました」
「何でそんな事を言う?」
「私に対して、こんなに真剣に接してくれたのはあなたが初めてです」
そりゃ、当り前だ。あんなに怖かったら誰でも逃げるわ。んでもって、近づいた人間を殺したりしるてんだから始末に負えない。
「あー、あーあーあー。あーうん、うんそうだね・・・」
「妙に歯切れが悪いですね・・・?」
その対応の八割がノリとカッコつけとは言えない。いや、むしろ言ってみるか?言ったら面白い事になりそうだ。まぁ、言わないが。しかし・・・。
「にしても、自分は君に恐怖しか与えていないと思うんだけど?」
「あの時あなたの感情が流れ込んできたから」
「そうか・・・」
恥ずかしい。これ程恥ずかしい事が有るだろうか、いや無い(反語)!!恥ずかしいことこの上ない。いつも『冥探偵』に『感情をコントロールできてこそ一人前』と言われているのに。
「あれ?でもそれじゃあんなに怖がることは無かったんじゃないのか?」
「感情の流れが多すぎて、処理しきれなかったから」
という事は・・・思っていた方法とは別の方法で、ダメージを与えていた訳か。ダメじゃん、自分。
「まぁ、なんだその、頑張れとだけ言っておこう」
「はい」
さて、そろそろ姫様が目覚める頃合だろうから行くとするか。
所変わってここは、姫様の部屋。
「ん、ん・・・うん」
「・・・おや、目が覚めましたか」
「・・・ここは?」
「あなたの部屋ですよ」
「私どうしちゃったの?」
「思い出したら分かりますよ」
「あんたねぇ・・・分かったわ、確か・・・あんたがやられて・・・うん、思い出したわ。・・・あの幽霊に乗っ取られてたのね、私」
「私が至らなかったばっかりに、こんな事になるなんて。本当に、申し訳ありませんでした!!」
「何よ、気持ち悪い!!それに・・・(ちょっとカッコいいと思ったのに、台無しよあれじゃ)」
「それに・・・なんですか?」
「な、何でもないわよ!!それより、お腹すいたわ。何か作って!!」
ちなみに、自分には姫様の気持ちが手に取るように分かる。それだけにそのセリフがイタイ、色んな意味で。本当に『主人公』達は、どんな神経をしているのだろうか。今は多分、幽霊に立ち向かう自分を見て、ちょっとカッコいいと思ったけど、その後やられて、姫様が支配された時にナタリアの感情や記憶などが流れ込んできたときに、自分が滅茶苦茶ビビッていたことが分かったからすごくガッカリしたとかそんな所だろう。そして、思わず口に出た言葉を聞き返されて、照れ隠しにご飯を要求したのだろう。全く、食いしん坊め。
「はいはい、何か希望はありますか?」
「ん~、何か軽いものをお願い」
「では、行ってきますね」
「行ってらっしゃい」
部屋を出る。それにしても、『行ってらっしゃい』か・・・はぁ、ヤバいなぁ。姫様が自分に好意を寄せ始めている。それにしてもどうかと思うぞ、姫様は。三ヶ月かそこら付き合っただけの得体のしれない男、それも<勇者召喚>に巻き込まれた男、しかも普段は辛辣な言葉を浴びせかける男にだぞ?それこそ、変態じゃないか。
「・・・はぁ」
「おいおいどうしたよ?また姫様にでも無茶振りされたのか?」
「あぁ、ジョンか・・・いや、そういう訳じゃないんだ」
「じゃあ、どういう訳なんだ?」
「姫様が変態になってしまった」
「はぁ?」
結果だけ聞いたらそりゃそうなるわな。うん、分かってた。ちなみにこのジョン君この城で勤めている騎士だ。年齢は19。容姿は茶髪に焦げ茶の瞳、西洋風の良く筋の通った鼻、目は普通、どっちかって言ったらキリっとしている、口は・・・普通だ。騎士と言っても下っ端なので、普段は雑用を押し付けられている。うん、普通の人だ。とても心が癒される。
「冗談だ」
「全く、そういう変な冗談はやめてくれよ」
「ごめんごめん」
「それにしてもすごいよなぁ『勇者』って、あの幽霊を倒すんだもんな」
あの幽霊、ナタリアの事だ。城は今、その幽霊を『勇者』が倒したという話題で持ちきりになっている。噂によると、その幽霊はとても強く、人の手が付けられなかったとか。今まで、名だたる豪傑、および神官たちが挑んできたが全て敗れただとか。あ、意外とすごかったのね。
「あれ?・・・そういえば何で、『勇者』は幽霊を倒そうとしたんだろうな?」
「さぁ、『勇者』だからじゃない?」
「ま、分かんねーか。『勇者』の考える事なんて、普通の人には」
ちなみに今回の幽霊騒動、自分と姫様が関わっていたことは伏せられている。まぁ、あの場に居たのは少人数だったので、それ自体は簡単に終わった。
「あ、そろそろ時間だ。じゃ俺は行くわ」
「お~う、修練頑張れよ~」
簡単に終わったのだが・・・。
「やっと、一人になったね・・・」
オチです。が、まだ続きます。