第49話『王の食卓』
すいません、戦闘は次の回です。
どうしても、この話を入れておきたかったので。
ヒフミ君達の立ち位置の説明+新キャラ登場回です。
姫様視点です。
王城に三つある食堂の内の一つ『第一食堂』、食堂と銘打ってはいても今は王族とその関係者しか使用しないので、その名前は正しくないのかもしれない。
私、エレアノール・アビヤヌス・ソロモン・サトーは第一食堂に来ている。もちろん、食事をするために。私たち王族、いや家族には、いくつかの決まりがある。その『決まり』は、私のお爺さんである、『勇者』イチロー・サトーが定めたものだ。その中に『週に一度は必ず家族で夕食を取る事』と言うものがある。故に私は『第一食堂』に来ているのだった。
「そろそろ、あ奴らが来て三ヶ月になるが・・・どうだ?」
この週に一度の夕食会、家族の団らんのためもあるが、今の国の事を話し合うと言う側面も併せ持つ。お父様が切り出した会話は、そのことを意識させるに足る内容を含んでいた。
「そうですね、彼女はまさに『勇者』のような人物ですよ。良くも悪くも、ね」
そう語ったのはこの国の王子であり、私の兄でもあるセオフィラス・アビヤヌス・ソロモン・サトーだ。彼が語る『彼女』と言うのはもちろん、今回の<勇者召喚>で<召喚>された『勇者』二人の内の一人である、ヒカリ・コーガの事だ。
「そうか、なら普通の勧誘は出来ないという事か」
「ええ、金にも地位にも男にもなびかない。もちろんですが女にも・・・全くもって、大臣派は無駄足を踏んだという事です。私たちにとって良い事ですが」
「うむ、ソレはソレで良しとしよう。それで、彼女はこちら側に着く可能性はあるか?」
「ソレも無いでしょうね。普段の会話からそれとなくアプローチを掛けてみても、のらりくらりと躱されるだけでした」
大臣派、ヴィック・デリック・クリスチャン・ストライサンド大臣が率いる一派で議会の約半数を占める。彼ら一派は、私のお爺さんが終わらせた魔族との戦争を再び起こそうとしている。それだけは阻止せねばならない。私たちは、そのためにも彼女たちをこちら側に引き入れたい。
「彼女は、ただの『勇者』では無いという事か」
「間違いないでしょうね、彼女は恐らく自分の力、影響力も全て自覚していて、そのうえであのように振舞っているかと」
「そうか、では引き続き頼む」
「はい、じゃあエレアの方を聞こうか?」
「えっ、なっ、私!?何で私に振るのよ!?」
「あらあら、エレア?その理由は分かっているんじゃなくて?」
お母様はいつもおっとりしているのに、何故こうも妙に鋭いのだろうか。
「むぅ・・・バレてるならしかたないか。でもそんな、あいつは、そんなんじゃないわ。人のことバカにするわ無礼だわで、他にもあげればキリがないわ、この前なんか・・・」
「ん、そうだったのか?意外と楽しそうに見えたんだが」
「それはっ!セオ兄様からしたらそう見えるかもしれないけど!私にとっては、全っ然っ、ホントに全く!!楽しくなんかないわよ、そりゃあいつの作る料理はおいしいけど・・・それだけよ!それ以外は本当全然、面白い事なんて何にも、むしろ腹立つことしかないんだから!!」
「あらあら、動揺しちゃって。その反応が証拠になっちゃうわよ?」
「何の!?」
「そう照れるなエレア」
「照れてなんかない!!」
「・・・ゴホン!!エレア、本当に奴は『勇者』ではないと言い切れるか?」
「・・・それはもう、断言できるわ。あんなのが『勇者』だったら、私だって勇者よ」
「はっはっはっ!そうかそうか!それなら安心だな!」
「どうしたのあなた?突然笑い出したりして」
「いやなに、あいつらも馬鹿だと思ってな」
「あいつら?・・・それは、大臣派の事ですか?」
「そうだ。良く分かったなセオ、さすが私の息子だ。やはり天才の血を継ぐ者は天才になるのだな」
「お父様?どうか天才でない私にも分かるように教えてくれないでしょうか?」
「そう卑屈になるなリア、お前も十分天才だ。まあ、親が子に教えるのは当然の事、しっかりと教えてやろう。<勇者召喚>の仕組みを・・・」
そう言って語り始めたお父様の話を簡単にまとめると、『<勇者召喚>の<魔法陣>の中には既に『勇者』を選定する<陣>が組み込まれている』、『呼び出される『勇者』は常に一人』『もし複数に適性があった場合、適性が高い順に<召喚>される』となる。
「覚えているか?<召喚>された順番を」
「・・・そんなっ!?まさか!?」
「・・・そう、そのまさかだ。お前をバカにし、無礼な態度を取る『あいつ』こそが、ヒフミ・ニノシタこそが『勇者』に最も近い人間だ」
「嘘よ!!#$%&★△・・・!!」
そんな事が有るはずが無い!!あいつは人のことをバカにするわ、無礼だわ、バカにするわ、それに他にも上げれば・・・。あぁ!!思い出すとまた腹が立ってきた!!
「混乱して何を言っているのか分からないリアは放っておいて、父上」
「なんだ?セオ」
「その、安心、と言うのは?」
「いやなに、簡単な話だ。大臣派の心配をする必要はもう無いという事だ。リアの話によるとヒフミはヒカリに対する人質として見られてはおるようだが、あからさまな脅しは駆けて無い様だ。ある一件以降、だ。いや、これは正確ではないな、初めの一件以降か」
「一件・・・ね」
「もう良いのか?エレア」
「はいお父様、色々吹っ切れました。そもそも<召喚>された者を常識で縛るのが間違ってました。全く・・・お爺様もそうなのに」
「そう、良かった。じゃあエレアその一件について教えてくれないかな?」
「あれ?お兄様に話してなかったっけ?ウェルディーニ大臣の息子の話」
「あぁ、あの小物っぽい奴か・・・いや、聞いてないな」
「そう、私があいつと会ったときにね。そいつも居たのよ」
「ふ~ん、何故?」
「私に会いに来たとか何とかで・・・そんな事してる暇があるなら勉強でもすればいいものを・・・」
「ぶった斬るねぇ」
「で、私はそんな事面と向かって言わないけど。あいつは真正面から切り込んでいった訳」
「ははっ、そりゃ凄い・・・小物とは言え大臣の息子にそんなこと言うなんて。そんな事をしたら仕返しされるんじゃないかい?」
仕返し・・・言葉とは裏腹に重い内容を含んでいる。
「当然ね。そしたらあいつなんて言ったと思う?『え、何ですか?仕返し?そんな事ありませんでしたよ?』って言ったのよ」
「それは・・・あからさま過ぎる誤魔化し方だね」
「そう、私も怪しいと思ったの。だからあいつに暇をやって後を付けた訳・・・」
「思い切ったね」
「見つかったけど」
「やっぱり」
「付けた理由を聞かれたわ。だから『何を隠してるの?』って聞いたの。そしたら『そんなに大臣の息子との事が気になりますか』って言い返されたの」
「バレバレだったんだね」
「バレバレだったわ・・・あ!いけない!9時にあいつと約束してたんだった!!」ゴメンお兄様!この続きはまた今度話すから!」
もう8時45分じゃない!急がなきゃ!着替えないといけないし、またあいつに裸見られるのだけは絶対にイヤ!!
長くなりそうなのでカット、続きはまたいつか。