第48話『幽霊退治~準備~』
なし崩し的に暇を(半強制的に)もらったので、準備と共に『用事』を済ましてしまおうと思う。
いったん部屋に戻り、運よく持って来ていた自分のバッグを開く。中に入っているのは、『仕事』で使っている様々な道具、道具一つ一つについて語っていたらキリがないので、ここで言及する事は無いが、大雑把に言うなら潜入道具ともいえる。
その中から、今回必要であろうもの以外を取り出し、これまた鞄の中に入っていた鞄(予備の鞄、たまに使う、今回がその『たまに』)に入れ、クローゼットの中へしまう。
後の準備は、着替えるだけなのでソレは後回しにして、『用事』を済ますために部屋を出る。
そして、着いたのが『最強』さんの部屋、ノックをする。
「すまない、ちょっと待ってくれ、今開ける」
と言って、扉を開けたのだが、明らかにおかしいことがある。女性が二人、『最強』さんの左右に引っ付いている。向かって左、神官服を着た少女。多分、神官服でいいだろう、普通には近寄りがたい神々しい空気が醸し出されている。向かって右、紺のローブを着た妙齢の女性。フードを目深に被っていて、顔は判然としない。いや、顔の下半分は見える。そこから見えるのは、雪の様に白い肌、紫色の唇(これは口紅かもしれないが)。雪の様ではあるが、そこには太陽の光の様な暖かな温もりが感じられる。
「『最強』さん、その方たちは?」
「いや、その、なんだ、旅の仲間と言うか、何と言うか・・・」
「そうですか、『最強』さんに伝えたい事があるのですが」
「ね~ヒカリ~?この子は~?」
「あら、カワイイ子が来たわね、お姉さんが可愛がってあげようかな?」
「何だ?ここでは言えないことか?すまないがお前たち、離れてくれないか?」
「いえ、お忙しいなら後で結構です」
「勘違いしないでくれ、そういう事じゃないんだ」
「キミ~名前なんていうの~?」
「あら、私たちはスルー?それもまたいいわ」
田中君が言っていたのも頷ける。この人たちは濃い、特濃だ。下手すると消されかねない。
「ええい!!離れろぉ!!」
取り乱す『最強』さんなぞ、初めて見た。記念に一枚撮っておこう。
「はーい、笑ってー」
ピピッパシャッ!
「な!!ちょっ!!今撮ったのか!?」
「良く撮れました」
「『そうですが、何か?』みたいな顔をするんじゃない!!」
「では」
「ではって行こうとするな!!時間はある!!あるから行くな!!この!!離れろ!!」
「ねー見せてー、今撮ったのー」
「はい」
「あら、綺麗に撮れてるわね。お姉さん嬉しいわ。これは見たことない魔道具ね、最新型かしら?」
「馴染むな!!いや、馴染んでもいいが!!とにかく、離れろ!!」
叫ぶ『最強』さん、笑って散って行く女性二人。扉を閉じ、乱れた服を正す『最強』さん。
「それで、話と言うのはなんだ?」
「さすがですね、リカバリー良すぎでしょう」
「うむ、で、なんだ?」
「そんなに睨まないで下さいよ。・・・いやね、この世界の『魔王』さんがお茶会を開くそうで、そこに『勇者』になった『最強』さんを招待したいそうです」
「そうか、分かった。街を出たら連絡する、という事でいいのか?」
「そうですね」
「うむ、では」
「待ってください、まだ用事は終わってません」
「何だ?」
「血を」
「は?」
「血をくれませんか?」
「はぁ?君はドラキュラだったか?」
「ドラキュラは違います。正確にはヴァンパイアです」
「なんと!!どうして今まで言わなかった」
「いいえ、ヴァンパイアでもないです。普通に血が要るんです」
「普通に血のいる状況ってなんだ!!」
「ちょっと幽霊退治しに行くので」
「それは普通でもなければ、ちょっとでもないだろう!!」
「私の中では普通です」
「ならいいか、ってんなわけないだろ!!普段どんな生活してるんだカズ君!?」
「良いノリツッコミです。が、それは秘密です。とにかく血を」
「ん、ああ血か、うむ・・・」
「これで指先でもちょっと刺して付けてください」
「これは、セラミックの包丁?何故?」
「幽霊退治の道具です」
「そうか、今風だな」
「です」
「ほら、これでいいか?」
「いやもう、十分すぎる位ですよ。ありがとうございました。では」
「あ、そうだ。私達、二日後に出発するからそのつもりでいてくれ」
「なんでそんな大事な事別れ際に言うんですか!?」
「ふふ、ちょっとした仕返しだよ。ではな」
「僕、この幽霊退治が終わったら結婚するんだという事で、また今度」
「最後におもむろに死亡フラグを立てて行こうとするな!!」
「何があるか分かりませんからね、これが最期かもしれません」
「誰が上手い事言えと!!」
「改めて、ではでは」
「止めろその笑顔!!」
その場から颯爽と離れ去る。うん、勝ったな。完全に勝ちだ。何に勝ったかは分からないが。よし!!小さくガッツポーズを決めつつ部屋に戻る。
「さて、と」
これで、準備は大体整った訳だ。うん、後は塩ぐらいか。塩はすぐ手に入るだろう。後でいいや。長くなるかもしれないから今のうちに眠っておこう。幽霊はしぶといからな。まぁ、自分も似た様なモノだし、人、いや霊か、の事は言えないが。退治するとは言ったものの、自分は専門職でもないし、出来れば説得したいところだが。状況から見るに、害があるであろう奴だ。自分が出張らないといけない事になるだろう。はぁ、憂鬱だ。こんな思いは、『冥探偵』と居る時だけで十分だと言うのに。あぁ、面倒臭い、全部壊してしまおうか。嘘だ、無理、ゼッタイ。
次回、ついにヒフミ君の戦闘が始まるかも?