第47話『お転婆姫の行動原理』
それにしてもなんだな、アレだ、アレ。意外とこの世界を楽しんでいる自分に驚く、って言うのはこの事なのかと思う。ここ三ヶ月、自分は大分楽をしている。むしろ、し過ぎていると言ってもいいくらいだ。何か手痛いしっぺ返しが来るのではないかと怖くなってくる。殺されそうになったじゃないかって?そんな事、あそこじゃ週9であった。と言うかあの学校そのものが死亡フラグだ。動かないだけマシだ。
姫様の部屋の扉の前に立ち、ノックを三回。
「失礼します。ニノシタでございます」
の声と共に、扉を開け中に入る。この時、朝食を載せた台車を引きながら後ろ向きに入っている。音を立てないようにゆっくりと扉を閉め、振り返る。
「なんて恰好をしておられるのですか。お姫様」
そこには、下着姿の姫様の姿が。ラッキースケベ?アレは『主人公』がすることだ。自分は『主人公』じゃない、『脇役』だ。だから、ラッキースケベなどではない。お前いつもと反応が違う?誰が自分のキャラを決めた?始めに言っていたはずだ、自分に決まった『キャラ』などない、と。
「何でいきなり入ってくるのよ!!」
「ノックはしましたが」
「ノックをしたなら、返事ぐらい待ちなさい!!」
「それは失礼いたしました。以後気を付けます」
「ホントに、しっかりしてよね!!」
「はい・・・では、朝食の方の準備を」
「え!?もうこの話題終わり!?仮にも年頃の女の子の裸を見たのに!?」
「申し訳ありませんでした」
「って言いつつ、準備してるし!!何あなた!?え、ちょ、私女の子だよ?」
「そうでございます。あなた様は、正真正銘、女の子でございます」
「そうよね・・・そう、良かった~って違うわ!!」
「なっ!?まさかっ!?そんな事が!!いや!!でも、カオルちゃ・・・」
「いや!!いやいやいや!!その違うじゃなくて!!」
「ならなんです?まさか・・・」
「それも違う!!」
「脅かさないで下さいますか、王子に向かってお姫様と言うなど無礼千万な真似を、私はしているのかと思いました」
「今でも十分無礼千万だけどね!!」
「そんな事より服を着られてはどうですか?お体に障りますよ」
「お前が、それを、言うか!!私は元から服を着ようとしていたのよ!!そこにあなたが・・・はぁ、もういいわ、さっさと準備して」
「いえ、すでに準備は終わっておりますが」
「あなた本当にいい性格してるわね」
「お褒めに預かり光栄で御座います、お姫様」
「褒めてない!!」
今日も『お転婆姫』の絶叫がこだまする。
今までボケキャラを貫いてきた自分ではあるが。『お転婆姫』をツッコミにすることで、自分のボケの質をもう一段階レベルアップすることが出来た。テッテレ~。さして意味は無いが。
「ねぇ、今朝の新聞読んだかしら?」
「はい、それはもう楽しく」
「新聞に楽しい要素なんてあるかしら?」
「いえ、言葉のあやです・・・それで、どうされました?」
「そこに『王城で変死』ってあったでしょ?」
「ありましたね」
「なんか変だと思わない?」
「変?自殺なのでは?確かに、あの人は出世街道まっしぐらではありましたが・・・」
自分たちを<召喚>するぐらいだし。だが・・・
「疲れて死にたくなるぐらい、誰にだってあるでしょう」
ストレス社会じゃ珍しいことでもない。燃え尽き症候群かもしれない。
「それもそうね。でも、あなた達が<召喚>された場所って何所か分かる?」
「私はその時、気を失っていましたので分かりかねます」
「そう。地下よ、<召喚>されたのは」
「そうでしたか。ですが、ソレと今回の変死、どう関係が?城に地下ぐらい珍しい事も無いでしょう」
「そうね、その<召喚>された部屋って言うのが、今回死んだ魔法遣いの研究室って言うのは今は置いておくわ。で、ここからが重要な話なの」
「まさかその地下室、昔は独房だったとか言わないでいただけますか?」
「その『まさか』よ、良く分かったわね」
「しかも、昔から『幽霊』騒ぎがあるなど重ねないでくださいよ?」
「しかも・・・って先に言わないでよ!!」
「ちょっと見に行くつもりでしょう?危ないですので、止めておきましょう」
「先に言われた上に釘刺された!!」
「行くのでしたら、夜まで時間を頂けないでしょうか?準備がありますので」
「行くのは決定事項なんだ?!行くけど!!」
「では、夜9時にお迎えに参ります」
そうと決まったら、準備だ。