第40話『温泉の街 オロン』
遅くなってすみません。毎回言っているような気が・・・
「うわぁ!!」
「・・・やっぱり臭いわね」
「久しぶりの温泉じゃ、まったりするかのう」
僕達は今、『温泉の街』、オロンの防壁の門の前の馬車や観光客の行列のただ中に居る。
「それにしても、凄い行列だね」
「ここは何時もこんなもんよ」
「そうなの?」
「そうじゃ、この街は昔、百年前までは小さな村じゃったんじゃが、村を通りかかった時に勇者サトーが『いい加減に、風呂に入りたい!!チクショー!!掘ってやる!!温泉出るまで掘ってやる!!』と、言って、気が狂ったように穴を掘り始めたんじゃ」
「それで、温泉が出たんだ」
「結果的には、じゃが」
「?」
「掘り始めたのは良いモノの、なかなか出なかったのじゃ、ソレで途中から自棄になって『裏側に突き抜けるまで掘ってやる!!』と、言って、深く深く掘って行ったのじゃ、そしてその狂気に囚われた様な勇者サトーの姿を一目見ようと観光客が集まって来たのが、この街の発展の礎じゃ」
「なんか嫌な発展のしかた!!」
「そうじゃろう、それに温泉が出たのも地底の神がむやみに穴を掘りまくる勇者に呆れて、勇者の掘っていた穴に温泉を繋げたから、だったからのう」
「カッコ悪!!」
「しかも二か月もかかったんじゃ、そのおかげで『泥んこ勇者』とか『スコップ勇者』とか『穴掘り勇者』とか言われておったのう」
「ホント、何やってんの!?」
オロンの街には、門が東西南北に一つずつある。その内の北門の前に僕たちは居る。
周りを見回した僕は、もう一つ列があることに気付いた。
「あっちの列は?」
クルトン(まだ僕はコレを名前だと認めていない)を抱いているフェリシアに聞いた。クルトンは撫でられて気持ちよさそうにしている。
「キュイ~」
「ふふ、柔らかい・・・アレの事?」
「次抱かしてね・・・・そう、アレ」
「アッチは人用の門に並んでいる人たちよ」
「人用?門って一つだけじゃないの?」
「人用と馬車用、合わせて一つとして数えるの、あっちの行列はその人用の門に続く行列よ」
「人用と馬車用ってどう違うの?」
「昔は、通る時の税率の違いとかあったらしいけど、今は個人の所得によって税率が変わるから、そういうのは無くなったわ」
「つまり?」
「大きさだけ、でも、荷物審査はするわよ?違法なものが持ち込まれていないか?とか、これは盗品じゃないか?とかね」
「そうなんだ・・・あっ!!」
「どうしたの」
「どうしよう!?」
「落ち着いて、何が、『どうしよう』なの?」
「クルトン!!魔物でしょ?」
「キュ?」
そう、クルトンは魔物なのだ。クルトンは可愛くて、もふもふで、大人しい。だが、本来魔物は人に害を与える、そういう存在なのだ。そんな危険(クルトンは除く)なものが、街に入れるとも思えない。
「そういえば、そうだったわね」
「そう!!だから、どうしたらいいんだろう!?」
「どうしたんじゃ?」
「なんか、クルトンが魔物で、魔物は入れないかもしれない!!」
「そうじゃのう」
「です!!」
「今ので分かったんだ、ゼイスさん」
「アレが使えるかもしれんのう」
「アレってなんですか!?」
「<契約>じゃ」
「それは、使い魔契約とか、そういうの?」
「・・・ホント、カオルってそういう事だけ勘が良いわね」
「そうじゃのう、と言っても<契約>していることにするだけじゃから、別に心配する必要もないわい」
「そんな事で通れるの?」
「なーに、心配するな、ちゃんと通れるわい」
「えぇーーーー?」
結果から言うと、通れてしまった。
「それは?」
「使い魔じゃ」
「嘘を吐くな」
「使い魔じゃ」
「何だお前は?」
「ほう、儂を知らないのかのう?」
「知らんな」
「そうか、残念じゃのう・・・のう?隊長殿」
「隊長?・・・あぁ、隊長、このお爺さんがこの魔物を使い魔だと言って門を通ろうとするんですよ・・・隊長?」
「も、ももっ、申し訳ありませんでしたーーーー!!」
「隊長!?」
「ほらお前も頭を下げろ、バカァ!!・・・・・・この方がどんなお方か分からんのか馬鹿物ぉ!!」
「ほっほっほっ、いいんじゃよ別に儂も無理を言ったことだし」
「そんなっ!?」
「後ろもつかえている事じゃし、もう通っても良いかの?」
「どうぞどうぞ!!」
「いや、すまんのう」
「いえいえいえいえ!!楽しんで行ってください!!」
とまぁ、こんな感じだった。ゼイスさんスゴすぎる、さすが勇者パーティーに居た魔法使いだけあるな。
今はそれは置いといて・・・
「入ったはいいけどこれからどうするの?」
「そうじゃのう、とりあえず宿をとるかのう」
「じゃあ、宿をとったら街を見て回ろう、カオル!!」
「うん、楽しみ!!」
広場の近く(地図を門のところで貰っていたので分かった)に差し掛かった時それは起こった。いや、正確には聞こえた、と言った方が正しいだろう。
それは、くぐもった爆発音。僕にとっては、三か月半ぶりに聞く音。
「なに?花火?」
フェリシアが言う。
「違うようじゃのう」
ゼイスさんの言うとおりだ。次に続くのは悲鳴、何か大きなものが落ちる音。
これはやっぱり・・・
そして、その広場が見える場所に着く。広場の真ん中には噴水がある。
僕の視線の先には、僕の予想通りの人物が、数人の武装した男と対峙している、その周りには大量に人が倒れている、そしてそれを物陰に隠れ遠巻きに見ている野次馬達。
「カオル大丈夫よ、私がちゃんと守るからね」
「え、いや、そうじゃないんだよ」
「・・・?」
「・・・おーい!!」
「え、ちょっと何してんのカオル!!あんなの絶対危ない奴に決まってるじゃない!!」
ざわり、と空気が動くのを感じた。大勢の人の視線がこちらに突き刺さる。
「・・・・・・しまった」
「ほら見なさい!!こういう事になるのよ、もう!!降りないといけないじゃない!!」
「分かった、降りる」
馬車の扉を開け、馬車から降りる。フェリシアも慌てて降りてくる。
「え、ちょっ、ちょっと待ってよ!!」
「大丈夫だよ、それに魔法もあるんだし」
「本当に?何か危ないことがあったら、すぐに逃げるからね」
「うん」
僕は喧噪の真ん中に居る人物のもとへと歩き出す。フェリシアは少しビクビクしている。
「大丈夫?フェリシア」
「大丈夫な訳ないじゃない!!こんなに大勢の人に見られる事なんて滅多にないんだから!!」
「そうなの?僕はよくあるんだけどなぁ、何でだと思う?」
「それはカオルが・・・!!もういいわよ、教えてあげない」
「フェリシアのいじわる!!」
そんなこんなで、目的の人物(どれだけ引っ張るんだ、とさすがに自分も思ってきた)のところに着いた。
「久しぶり~~」
「おう、久しぶりだな、カオル・・・っていうか何でここに居る?」
「それはこっちのセリフだよ」
「俺か?俺は光賀と一と一緒に<召喚>されたからだ、カオルは?」
「僕は、車にはねられて気が付いたら、ここに居たって感じ、正確に言うならこの子に拾われてベッドに居た、だけどね」
「そうか・・・」
そんな会話を遮って、誰かが雄叫びを上げた。その『誰か』は当然僕達ではない、そもそも、遮ったのは僕達の方なのだから。
「ぅおおおおああああああっ!!」
「一瞬、待っててくれ、すぐに終わらせる」
「うん」
言うが早いか、すぐさま爆発音が鳴り響く。まさに一瞬、その一瞬で起こる様々な出来事、人が飛び、剣が飛び、地面が捲れ、穴が開く。まさに爆発。
「ちょっとカオル」
「ん、何?」
「あいつは一体なんなのよ!?」
「僕のクラスメイト兼師匠」
「はあっ!?」
「言ってなかったっけ?僕に護身術を教えてくれた内の一人だよ」
「な、名前は?」
「影山 影鷹、凄く強いでしょ?」