第37話『穴二つ』
以上、回想終わり。
うん、何の事だか分からん。自分でも分からん。いやはや、自分の記憶ですら曖昧で信用が出来ないとは。
「と言う訳で、あなたの雇い主は分かっているんです」
「何が『と言う訳』のなのか理解出来ないが、確かに俺の雇い主はソイツだ。だが、どうするんだ?ソイツから金なんか搾り取れないと思うぜ?俺は契約書とか書いてないからな」
「口約束、か」
確認を取るように質問したのは『最強』さんだ。
「ああ、それよりも聞くが、お前は何時までソコに居るんだ?」
自分を襲ってきた男がそう言うのも最もな事だ。何故なら、かれこれ三十分程あの(天井に立っている)状態なのだ。
「うむ、降りるタイミングを完全に見失ってしまってな、降りてもいいか?カズ君、私は放置プレイなどと言う特殊な趣味は無いが、カズ君がどうしてもと言うなら、私は甘んじてこの状況を楽しみ、愉しみたいと思うぞ」
「降りてきてください」
「そうか・・・」
「何でちょっと残念そうなんですか」
「よっ!!」
ズゴッという、抜けた掛け声とは裏腹に凶悪な音がしたかと思うと、音も無く自分の隣に降り立つ『最強』さん。
ズゴッ?
「あぁっ!!天井が!!」
そう、開いているのだ。穴が。そりゃあもう、クッキリ、ハッキリと、二つ。
という事は『最強』さんは、天上に立っていたのではなく、刺さっていたのである。
「どうするんすかアレ!!パラパラ粉落ちてくるし!!っていうか天井って石なのにどうやって刺さってたの!?」
「それはだな、砕かないように慎重に素早く突いてだ」
「なんて力技!!っていうかそんな事出来るの!?」
「私に掛かればこんな事、文字通り朝飯前だ」
「確かに朝食前だけど!!」
今は深夜である。こんなに騒いで人が来ないのが不思議だ。
「それは私が<防音>しておいたからな、心配するな」
「アレ?今何も言ってないのに・・・心読まれた、コワイ」
「そんな事、身体に書いているぞ」
「顔じゃないの!?」
「話を戻しましょう」
本当に。
気を取り直し、尋問を再開する。自分を襲った男は、逃げられないと分かったらしく、観念した様子で大人しく座っている。
「僕を狙った犯人、もとい依頼人は、この名前も知らない大臣の息子、ですよね?」
「ああ」
「それで、あなたは金さえ積めば何でもする何でも屋、という事でいいですか?」
「ああ、庭の草抜きから戦略の立案まで何でもござれだ」
「じゃあ、金は有りますんで今回の依頼は無かった事にして下さい」
「いやいやいやいや、その金は何所にあるんだよ、無いことには話になんないぜ、ちなみに言うがな、今回の依頼、前金で金貨一枚だぜ?しかも成功したら更に二枚追加、そんな大金どうやって払うんだよ?」
金貨一枚だと!?自分ごときに?金貨一枚って言ったら大体百万位だから、成功したら三百万!?ヤバッ、どんな金銭感覚してるんだ、大臣の息子。
「なんだ、それだけか、良いだろう、払うぞ、何枚欲しい?」
「今後の事を考えると、最低でも六枚は欲しい所だな、お前らみたいな「よし、二枚プラスで八枚だ」のがそんな大金払えるんだ、スゲー!!八枚!?こんな大金初めて見た!!」
人がまだ話していると言うのに『最強』さんはさっさとお金を払ってしまっていた。
「それは置いておいてだな、これでカズ君も目を付けられる事になってしまったわけだ」
「そうですね」
「よっ大将!!おやっさんに何処まででも付いていきます!!!」
「というか、回想を回想するとほとんどの原因がカズ君にあるな」
「いやぁ、そんな事は無いんじゃないかなぁ~?と思う事も無きにしもあらずですが」
「そこはハッキリしてくれよ」
「無視ッスか!?俺の事無視ッスか!!くぅ~!でも、俺、頑張るッス!!」
「ただ、ハッキリしたことが一つ有ります」
「なんだ?」
「腕立てしちゃうッスよ!!よっ!!ほっ!!はっ!!」
「この胸が不自然にドキドキする感じ、これが、恋」
「それはただの心不全だ、それにお前はアレだろう『冥探偵』一筋だろう」
「やっぱり?じゃあ、フラフィーさんを前にするとものすごくドキドキするのは?」
「腹筋もしちゃうッス!!ふっ!!ふっ!!ふっ!!」
「フラフィーってあのメイドさんか・・・あの人の前に居てドキドキするだけなのはカズ君もさすがだな」
「そんなに凄いんですか?」
「ああ、戦ってみないと分からないが、多分、私といい勝負だぞ?」
「うわっ!!じゃあ、もしかして」
「ああ、この城で一番強いなメイドさん、いや『冥土』さんか」
「なにその怖いあだ名!?」
「さすがにずっと無視はツライッスよ・・・・・・光賀さん、ニノシタ君」
「どうした?『田中』」
「っていうか居たんだ『田中』君」
自分を襲った男。
改めて『田中』登場である。