第31話『のんびり馬車の旅~基本ゼイスさんは空気~』
時は流れ今は夜中である。
僕とフェリシアは、所謂寝ずの番と言うのをしている。
寝ずの番をするのは初めてなので、フェリシアもいる。
ゼイスさんとの交代までは、まだ二時間もある。ゼイスさんは今のうちに寝ている。
「星が綺麗」
「そぉ?」
「うん」
見上げる空には満天の星空と満月。
こんな景色は、日本ではなかなか見れなかった。(見たことが無い訳ではない)
「日本ではね、電気、科学の力で街に光が溢れてたからね、星が見えなかったんだよ」
「いいじゃない、ソレも綺麗なんじゃないの?」
「綺麗っちゃ綺麗なんだけどね、そこにずっと住んでると飽きちゃうよ」
「贅沢な悩みね、こっちなんか夜なんか暗くて勉強できないわよ」
「ごめん」
「まぁ、カオルが古代語を教えてくれて、
<魔法陣魔法>の新しい使い方を見つけてくれたから、
これからは夜でも勉強できるけどね」
「そうだ、こっちには街灯とかある?」
「主要な町にはあるわよ」
「ソレはどうやって光ってるの?」
「勇者の魔法」
「え?」
「正確には勇者の魔法の欠片」
「うん?」
「簡単に言うと勇者が莫大な魔力を込めて<発光>の魔法を使ったのを切り分けたの」
「魔法を切り分ける?魔法って切れるの?」
「普通は切れないわね・・・」
「じゃあ、普通じゃなかったら切れるの?魔剣か何か?」
「・・・そうよ、っていうか良く分かったわね」
「僕の友達に、そういうのが居るから」
「魔剣を使えるって、どんな友達よ」
「どんなって、そう言われても・・・・・・幼馴染としか言いようが無いなぁ」
「・・・・・・おさっ!?えぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
「そんな驚かなくても、こっちじゃ魔剣なんかそれなりに在るんじゃないの?」
「在るわよっ!!在るけどっ!!
魔剣って其々が意思を持っていて、選ばれた者しか使うことができないし、
そもそも魔剣に触ること自体が無いに等しいし!!」
「あぁ~~~そうだ、魔剣って危ないでしょ、使用者の登録とかしてる?」
「私のテンションは無視!?・・・そうね、魔剣は殆ど登録されているわ」
「殆どってことは、何本か登録されてないってこと?」
「そうね、遺物としてどちらの大陸も躍起になって探してるわ」
「その中に喋るのってある?」
「ん~~~~~・・・・・あ、あるわ!!」
「黒くて柄に宝石が埋まってる?」
「そうね、っていやいやいやいや!!いくらなんでもソレは無いでしょ!!
確かに、見つかってないけど、カオルの世界にあるわけないでしょ」
「僕がここに居るのにそれを言うかなぁ?」
「う~~~~、ソレを言われると反論できないわね」
よし、これで僕が元の世界に帰る希望がまた増えた。
あの喋る魔剣がこの世界の物かは分からないけど、
アレがこの世界の物だったとしたら、この世界から魔法を使わないでも、
元の世界に戻る方法があるのかもしれない。
あくまで、かも、だけど。
とまぁ、何だかんだ話していると、フェリシアが急に黙った。
「どうしたの?」
「魔物よ」
「どこ?」
「そこ」
ナニかが僕に飛びかかってきた。
「わきゃ!?」
「カオル!!」
フェリシアがアタフタと魔力を練り上げている。
「<火・・・」
「待って!!フェリシア、それだと僕も・・・!!」
「球>!!」
「<展開>!!」
僕は咄嗟に<魔法陣>を<展開>した。
僕に、正確には僕の抱えている魔物に向かってくる火球は、
僕にぶつかる前に消え失せた。
「あぁ、カオル!!ってあれ?」
「危なかったぁ~~~、死ぬかと思ったぁ~~~」
「今、何が?ってそれよりも魔物!!」
「この子の事?」
「ソレよ!!早く離しなさいカオル!!魔物よ危ないのよ!!」
「そう?」
僕の手には今、小ぶりなメロンぐらいの大きさの兎がいる。
角が一本生えているから、やっぱり普通の兎ではなく、魔物だ。
それも、今日の午後にフェリシアが倒した一角兎の生き残りだろう。
晩ご飯のシチューになった一角兎は、僕の腰ぐらいの大きさがあったので、
この子はまだまだ子供なんだろう。
なによりも、カワイイ!!もっふもふ、もっふもふだ。
ソレはもう、触っているだけで心が洗われるような、
さわり心地はまさに、天使の産毛とでもいえると思う。
もう逆に、産毛まみれの天使だ。・・・うん、ソレは嫌だ。
もうこの子を離したくない!!
「大丈夫、この子は危なくないよ」
「何故そんなこと言えるのよ」
「ん~?君は危ない事する?」
「キュイ?」
「ほら」
「何がほらよ、魔物に人間の言葉が通じる訳ないじゃない、
危ないから、カオルその子を離して、お願い」
「イヤ」
「離して」
「どうしても、ダメ?」
「うっ・・・仕方ないわね」
「やったー」
「キュー」
「でも!!」
「にゅ?」
「キュ?」
「カオルが怪我するような事があったら、その時は・・・分かったわね」
「分かった!!よし!君の名前は今日からキュー太郎にしよう」
「キュー!!」
「待って!!いくらなんでもキュー太郎は無いわカオル」
「いーじゃん、可愛いじゃんキュー太郎」
「キュウ!!」
「あなたはソレでいいの?」
「キュ?」
「分かってないみたいね、カオル、この子の名前は私が決める」
「ええー」
「ええー、じゃない!
・・・そうね、キュ、キュ、く、くる・・・・・・クルトンにしましょう!!」
「待って!!それじゃパンを堅く揚げたやつみたいになっちゃうよ」
「いいじゃない、クルトン、可愛いわ」
「それに心なしか美味しそうだよ!!」
「はい、クルトンに決定―!!ワー、パチパチパチー!!」
「僕の拒否権は無いの!?」
「キュイ!!」
「そこで鳴くんだ!!」
「クルトンー、今日から私があなたのママでちゅからねぇ~」
「フェリシアの初めの態度は何所に!?」
クルトンが仲間になった。