第30話『のんびり馬車の旅~夕食前と夕食中~』
猛烈に話が進まない!!
僕がフェリシアから逃げるように馬車から降りてくると、
もうキャンプの準備は出来ていた。
馬車の屋根から出た布とそれを支える柱でできた日よけ、もう夕方だからいらないけど。
どうやって持ってきたのか煉瓦でできたしっかりとした釜戸。
その上に乗った鍋からは良い匂いがする。
ああ、そういえば一角兎のシチューだったっけ・・・今は食べたくないなぁ。
「おぉカオルか、もう良いのか?」
「・・・うん、なんかもう、どうでも良くなった」
「そうか」
「何であんなだったかとか聞かないんですか?」
「あのタイミングでソレ以外に理由などないじゃろう」
「あぁ、そうですね」
「本当に良いのか?馬車から悲鳴が聞こえておったが?」
「まぁアレは・・・」
「カオルー!!待ってー!!」
「まさか、馬車におったフェリシアが・・・」
「そうなんです・・・」
「カオルに襲われた」
「違います」
「そうなのかの?」
「どちらかと言うと襲われたような・・・」
「カオルー!!なんで逃げるの!?」
「あの状況で逃げない方がおかしいよ・・・
ああいうことは好きな人同士でするもんでしょ」
「私はカオルの事が好きだよ?」
「・・・あ、うん、ありがと」
「なんか反応がよそよそしい!!やめて私が悪かったから!!」
「あ、そういえばゼイスさん、えと、オロンでしたっけ?どんな街なんですか?」
「そうじゃのう・・・」
「無視しないで!!ごめんなさい本当にごめんなさい!!」
「もうしない?」
「もうしない」
「本当に?」
「本当に」
「今度したら、僕はフェリシアの事を軽蔑するよ?」
「にぁっ!?しない絶対しない!!金輪際しない!!約束する!!」
「じゃあ許すん」
「どっち!?」
「ごめん、噛んじゃった。許す」
「良かったぁ~~~!!」
そう言って抱きついて来た。
僕の胸に飛び込んできたフェリシアの頭をなでる。
「計画通り」そんな声が聞こえるが気にしない。
フェリシアの方が背が高いのに、僕の胸に顔をうずめるのはつらくないのだろうか?
「でも軽蔑された眼で見られるのもいいかも・・・」と言うのも聞こえない。
「カオルのこの無い胸もいいわね」・・・
「フェリシア、全部聞こえてる・・・」
「え、嘘!?カオルのニオイがたまらないとか、カオルの体が柔らかいとか全部!?」
「そんなこと思ってたの・・・?」
「はっ!?言っちゃた!!」
なんか壮絶だった。フェリシアが変態になってしまった。
初めて会ったときは、もっとキリッとしてたのに。どうしちゃったの?
これは僕のせい?僕はこの旅の間、安全に過ごせるだろうか。
「前のフェリシアに戻ってよ」
「分かったわ、カオルが言うならね」
「戻った!?」
えぇ~~~?そんなすぐ戻るものなの?
ご飯を食べながら、気になっていたことを聞く。
もちろん、僕のお皿の一角兎のお肉は除いている。
「そうそう、どんな街なんですか?オロンって」
「まぁ、簡単に言うと温泉街じゃな」
「いつも通るけど、あの臭いには慣れないわね」
温泉街かぁ~、楽しみだな。
こっちに来てお風呂には、毎日(ゼイスさんの家にあったので)入っていた。
だけど、温泉とお風呂は全然違う。
情緒とか効能とか色々あるけど、あの落ち着いた雰囲気が好きだ。
「料理は?料理はどんなのがありますか?」
「うん?料理が気になるのか?」
「そりゃあもう、旅においしいご飯は付き物ですから」
「なにそれ?」
「あれ?そういうの無いの?」
「旅は大変なものよ、疲れるし、長旅だと最後の方はおいしい物なんか食べれないし」
「うむ、勇者との旅で一番辛かったのは、戦闘でなく旅そのものじゃったな」
「わかった?カオル」
「うん」
「でも、私たちはそんな不自由はしないわよ」
「え?なんで?」
「まず、村から村、町から町までの距離がそこまで遠くないから。
次に、馬車がいいし、食べ物も新鮮に保管できるしから」
「二番目に二つも入ったね」
「いいじゃないそんな事、最後にカオルが可愛いから」
「ソレ、入るんだ?」
「入るわ、むしろコレが一番。ね、ゼイスさん」
「そうじゃのう、カオルを見ておると、心が安らぐしのう」
「えぇ~~~?・・・まぁいいです、それで、オロンのご飯はおいしいんですか?」
「ええ、ちょっと変わってるけどね」
「変わってる?」
「魚を生で食べたり、なんかあんまり味の無い穀物を蒸す?茹でる?
なんか調理したのが出てきたりするの」
「それは、多分・・・」
「そうじゃ、カオルが思っておる通り、カオルの世界の料理、いや、ニホン料理じゃな」
「やっぱり?じゃあ宿も畳、草のマットみたいなのがあったりする?」
「いや、それはないのう」
「そう、なんですか・・・」
「落ち込まないでカオル、草のマットなんかより
綿がいっぱい入ったマットの方が気持ちいいわよ?」
「そうだけど・・・そうじゃないんだよ」
「意味が分からないわよ?」
「むぅ、説明し辛い」
どう説明したらいいんだろう?畳の良さって。
畳の香りとか、ウチの工場の休憩所とかが畳で、
そこで一仕事終えた後に飲むお茶のおいしさとか、
そのまま座布団を枕にしてうたた寝をする気持ちよさとか、
あ、畳関係ない。