第26話『のんびり馬車の旅~魔法コンロ~』
さて、王都への旅が始まって、初めての食事だ。
王都へは、三つの村を中継して行くことになる。
始めの村までは、この馬車で四日程かるらしい。
何もなければ、という言葉が冠に着くが。
何はともあれ、食事だ。
きょうの食事当番は僕だ。
前々からしてみようと思っていたことをしよう。
「カオル、何してるの?薪は?」
「魔法があるんだし、どうせなら魔法でできないかなー?って思ってね」
「ほう、魔法を使って料理か」
「うん」
火に関する<魔法陣>を思い浮かべる。
魔法に関してだが、僕は魔力が少ないことが分かった。
魔法の練習をしていて<詠唱魔法>四発撃っただけで、
倒れてしまったからだ。
それにより、直接現象を起こす<詠唱魔法>が僕は余り使えないことになる。
しかし、<詠唱魔法>で頭の中の<魔法陣>を<展開>することで、
魔力の消費を少なく魔法を使える。
<展開>の魔法は<詠唱魔法>ではあるが、
頭の中のイメージを光にして表すだけなので、
魔力の消費がとても少ないのだ。
これは、僕だけに当てはまる事ではなく、魔力が少ない人全般に対する救いになる。
魔力が少ない人は、それだけでいじめを受けたり、
仕事の幅が少なくなったりするそうだ。
「<展開>」
「カオル、何を考えてたの?」
「へ?」
「ほう、<魔法陣>とカオルの魔力に関することと、
カオルが発見した<展開>の魔法の使い方についてか」
「うわ!?全部出てきた!?」
「へぇ~、カオル、いろいろ考えてたのね」
「見ないで~、恥ずかしいから見ないで~」
「ほっほっほっ、まぁこういう事もあるじゃろう」
「うぅ~」
気を取り直して、火に関する<魔法陣>を思い浮かべる。
その<魔法陣>に<弱火>、<中火>、<強火>、<継続>、<切替>
などの文字を追加していく、その時に火のイメージを文字に乗せる。
そして・・・
「<展開>」
「今度はちゃんと出来たみたいね」
「ふぅ、よかった~」
「ほう、見せてご覧なさいカオル」
「どうです?」
ゼイスさんに出来た<魔法陣>を見せる。
「ほう、火の<魔法陣>に色々文字を追加したのか」
「はい、多分それでコンロ・・・日本のっていうか、元の世界の料理道具で、
火の大きさを調整出来る道具があるんですけど、
ソレみたいなことができると思います」
「いいのう、カオルの世界には便利なものがあるんじゃのう、羨ましいわい」
「まぁ、便利になった分、人も怠けますけどね」
「便利になりすぎるのもダメってことね」
「そうだね」
「では、起動させてみなさい」
「はい・・・<起動>」
<魔法陣>が僕の声に応じて、<起動>する。
<魔法陣>より少し浮いた位置に炎が現れる。
小さな炎、いわゆる<弱火>だ。
「ふむ?炎が少し浮いた位置に現れるのは何故じゃ?」
「この<魔法陣>を触ることで火力を調整できるようにしました。
なので、<魔法陣>から直接炎が出ていると触れないからです」
「ほう、触ってみてもいいかの?」
「はい」
ゼイスさんが、<魔法陣>を触る。
すると炎が<弱火>から<中火>に変わる。
「もう一度触ってみてください」
「分かった」
今度は、<中火>から<強火>変わる。
「もう一度触ると、また<弱火>になります。
そして、<消火>と唱えると、火が消えます。
また点けたいときは<着火>と唱えればつきます」
「いいわね、コレ凄いじゃないカオル!!」
「へへぇ~」
誉められるのは、純粋に嬉しい。
ちなみに、普通<魔法陣魔法>は発動し、現象が起きたら<魔法陣>は消え、
もう一度使えないのだが、<継続>や<維持>などの文字を<魔法陣>に
組み込むことで、<魔法陣>が消えずにもう一度使えることができる。
これもまた、僕が発見したことだ。
このような事は勇者だったサトーさんが見つけててもいいような事だが、
サトーさんは勇者だけあって魔力も多く、主に使うのは<詠唱魔法>だったそうだ。
きっと、魔法をバンバン撃ってカッコよく戦っていたんだろう。
「偉い子のカオルには、ご褒美にぎゅーっとしてあげましょう、ほら、おいで!」
「行かないよ!!」
「よし、ならばわしが行こう」
「イヤ!!ゼイスさんは来ないで!!変態!!」
「な!!変態!?・・・い、いや、ちょっとした冗談じゃよ」
「冗談でも、変態は変態です!!」
「ゼイスさん、フェリシアも年頃の女の子なんだよ、そういうのをちゃんと考えて?」
「昔はフェリシアも素直に受け入れてくれたんだがのう」
「子供は成長するものです」
「そんなこと言っても、この中で一番ちっちゃいのはカオルだけどね」
「ゼイスさん!!フェリシアが僕に酷いことを言うよ!!
僕が一番、気にしていることを言うんだ!!」
「フェリシアよ、人にはそれぞれ個性というものがあっての・・・」
「何ですか?変態」
「カオルよ!!フェリシアがわしに酷いことを言うんじゃ!!
助けてくれ!!このままではわし、立ち直れないかもしれん!!」
「ゼイスさん!!」
「カオル!!」
ゼイスさんが腕を広げる。
ソレが意味することは・・・すなわち、熱い抱擁。
「いや、ちょっと・・・ごめんなさい」
「カオル!!さぁ!!」
「そういわれても・・・なんか、イヤです」
ゼイスさんの心が折れる音がした。