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絆。

「トール兄ちゃん! 次はお馬さん作って!」

「僕には兵隊さん! あっ、やっぱり騎士様がいい! カッコイイ奴!」

「あー、わかったわかった。床の修理が終わったら余った木材で作ってやるから。それまでは外で遊んでな」


「「はーい!!」」


 トールは今、街外れにある孤児院で奉仕活動――院の清掃活動や補修活動の他にも空いた時間に院の子供たちの世話を行っていた。


「子供は元気だよなぁ」


 そんな子供たちをやれやれと思いながら、大工道具を片手に修理箇所へと向かうトール。


 学院長に暴力を振るった罰としてこの孤児院にやって来たトールではあったが、持ち前の手先の器用さを発揮し、すぐに院に馴染んでしまった。 


 今ではトールの作る木彫りのおもちゃは子供たちに大人気である。


 材料は近くの林から拾った木の枝や大工仕事で余った木材のため、費用もかからない上にトールの腕を持ってすれば木の破片すら立派なおもちゃとなる。


 トールとしても自分の作ったおもちゃを受け取って喜ぶ子供を見るのはとても嬉しかった。


 正直、王都に来てから色々と面倒な事があったので子供とこうして戯れるのは精神的に癒された。


 ――だがもうすぐそれも終わりだろう。


 あと一週間もしないうちに罰則は終わり、学院に復帰する事になる。


 何よりもトールの叔母と叔父の事がある。


 あの二人があれっきりでトールの事を諦めるとは思えない。


 ……きっと近いうちに接触してくる。


 殆ど確信と言っていいほどの予感がトールにはあった。


 そしてその時に何を話すことになるのか――トールはすでにその覚悟を決めていた。












 トールの孤児院での奉仕活動最終日の夕方――トールは院の子供達に別れを惜しまれていた。


「また来てね。絶対にまた来てね!」

「次はいつ来れるの?」

「もっと遊ぼうよー!」


 トールは子供たちに囲まれながら、ぐずる子供一人一人の頭を撫でてやる。


「暇が出来たら必ずまた来るからな」

「本当に!」

「絶対だからね!」

「あぁ、約束だ」


 最後に子供達と口約束を交わすと、トールは孤児院の院長と向かい合った。


「院長、それでは色々とお世話になりました。」

「いえ、こちらもあちこちと院の修理をしてもらって大変助かりました。……罰則でここに来た生徒さんにこんな事を言うのは可笑しな話ですが、またいつでも来てください」

「……はい。それではこれで失礼します」


 口元に微かな笑みを浮かべ、院長たちに別れの挨拶をすますトール。


 そのまま院の外へと足を向けた時――


「ん?」


 まるでこの時を狙ったかの様に遠くから馬の蹄と車輪の音がトールの耳に届いた。


 












「――私達と家族になるつもりはないかい?」


 あの車輪の音の正体は目の前にいる貴族の――トールの叔父ブレッドと叔母ニケが乗った馬車であった。

 

 彼らはトールに対して『これで宿舎まで送ろう』と誘ってきた。


 トールはざわめく背後の子供と院長を振り返った後、無言で頷くと馬車に乗り込んだ。


 そして馬車が走り出してからしばらくたった後、突然そう切り出して来た。


 余計な前置きや言葉を使わないのはそれが彼らの覚悟の現れだからだろう。


「…………」


 トールはそんな大人二人を見て思った。


 ――いい人達だ、と。


 こうして対面しているとわかるが、この二人からはただ自分を心配する気持ちだけが伝わってくる。


 きっとこの誘いに乗り、二人の家族になることはとても素晴しい事だと思う。最初はぎこちないかもしれないが、いつかは本物の家族の様に笑い合える未来もあるかも知れない。


 だがトールは絶対にその選択をしない。出来ない。


「…………」


 トールは首を横に振るう。


 その瞬間にニケの息を飲む声とブレッドの無言の眼差しがトールの胸に突き刺さった。 


 そのまましばらく沈黙が続いた後、ブレッドはトールに尋ねた。


「……理由を聞かせてもらえるだろうか?」

「…………」

 

 その問いかけにトールは目を閉じ、脳裏に養父であるドワーフの姿を思い描いた。


 ――トールは思う。


 あの人がこの場に居たら、どんな言葉を自分にかけたのだろうかと。


 大声で笑いながら自分を二人の所に送り出すのだろうか? 


 それとも自分との別れを拒んでくれるのだろうか?


 あの大酒飲みでガサツで髭もじゃの――自分以上に鍛冶馬鹿のドワーフは一体どんな顔をするのだろうか?


 ――あの人は自分を引き止めてくれるだろうか?


「…………」


 トールは遠い地にいる養父に幾つもの想いを馳せた。


 そして彼は閉じていた目蓋を開き、拳を握り締めながらゆっくりと言葉を溢し出し始めた。


「俺には父親だと思っている家族がいます」


 それはニケとブレッドに対する明確な拒絶の言葉であり、同時にトールが今日の日までずっと胸の奥で溜め込んでいた想いでもあった。


 鉛のように重かった空気に熱が入り始める。


「その人は両親が死んだ時、俺を一番近くで支えてくれた人です。俺はあの人の事をもう一人の父親だと思っています」


「「…………」」


「……当然俺たちには血の繋がりはありません。でも、血のつながりの無い関係だとしても俺はあの人を本物の親の様に思っています」


 ――ニケとブレッドの二人はトールの言葉に口を挟めなかった。

 

 トールは今、自身の感情を丸裸にし、その想いの全てをニケとブレッドの二人に伝えようとしていた。


 それを遮る事など二人に出来なかった。


「俺はあの人が好きです。俺はこの先もずっとあの人の息子でありたい。あの人とずっと家族でいたいんです。……だから、すみません」


 その言葉の端々からはトールの『親』に対する深い尊敬と愛情を感じた。


 ――大切で大切で、これからも傍に居続けたいと願う気持ち。


 こちらが嫉妬してしまうほどの愛。


 ここに来てようやくニケとブレッドの二人は気づく事が出来た。


 トールの話す『もう一人の父親』とトールは既に家族なのだと。


 自分達の知らない間に築いた深い絆があるのだと。


 そして自分たちはもう二度とトールから『ソレ』を取り上げてはいけないのだと。


「――俺は貴方たちの息子にはなれません」


 自分たち二人はただ遠くから見守る事しか出来ないのだと――今にも泣き出しそうなトールの横顔を見て、二人はようやく気づく事が出来た。


 

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