繋がり
ニケは姉の忘れ形見が無事にこうして生きているのを知らなかった事を心底後悔していた。
戦後、姉とその夫の墓が見つかったと知らされた時、倒れているべきではなかった。
まだ生きている可能性があった二人の子供の行方を捜すに向かうべきだった。
夫に説得され、屋敷の人間など使っている場合ではなかった。
(……あの時、私は自分の足でこの子を捜しに向かうべきだった……)
そうしなかった結果が、これだ。
両親の話を聞かされ、俯くトールを見てもニケには言葉をかけることが出来ない。
いや、その資格がない。
(私がこの子を助け出さなければいけなかったのに……)
目の前にいるトールと言う名の青年は、戦時中に両親を亡くし、多くの苦労を重ねて来ただろう。
大いに苦しんだ事だろう。
絶望を味わい、苦しみ、打ちのめされたのだろう。
(それなのに……私は……)
二人の死を知り、その子供もすでに死んでいると勝手に思ってしまった。
子供の捜索をたった一年で打ち切ってしまった。
そして──
(……私は助けを求めていた筈のこの子を見捨ててしまった)
助ける立場にいて、手を伸ばす事が出来たはずなのに、手を伸ばすのを途中で諦めてしまった。
同じ絶望の穴底にいたはずなのに、自分だけがその穴底から出てしまった。
すぐ傍で助けを呼んでいたはずなのに、彼は必死に手を伸ばしてはずなのに。
自分はその全てに気付かなかった。
そんな自分が彼に慰めの言葉を言うなどあっていいわけがない。
自分が彼を、絶望の穴底のさらに奥底に突き落とした。
(あぁ、でも、それでも……)
ニケは罪悪感に胸が締め付けられながら成長したトールの姿を見た。
姉と一緒の髪と瞳の色に、服の上からでもわかる鍛えられた体。
十代にもかかわらず、顔つきや彼が放つ雰囲気には少年らしい弱弱しさがない。
その姿は少年ではなく「青年」と呼ぶに相応しい。
ニケはトールのその姿に罪悪感よりも嬉しさがこみ上げた。
よくぞここまで育ってくれた、と。
生きていてくれた、と。
姉達の忘れ形見を一体誰が育ててくれたのかはわからない。
だが、こうして育っていてくれた事がニケは嬉しかった。
ただ生きていてくれた事が堪らなく嬉しかった。
──だがニケはそんな成長したトールを見ると、どうしても思ってしまう。
自分が見捨てた事を話したくはない、と。
全てを話してしまえば、トールは二度と自分達の前に現る事がないのではないかと考えてしまう。
それが怖い。
とても怖い。
堪らなく怖い。
──ニケはトールとの繋がりを失うのを恐れ、真実を話す決心が出来なかった。