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 入学式の終わった次の日からは、新入生は授業のガイダンスや健康診断が始まり、二年生以上の学年の生徒達は新学期の授業が始まる。


 これには二年生より上の上生徒は不満をこぼすのだが、一年と二年だけは別だった。


 一年生はこれから始まる学院での生活に期待を膨らませ、二年生はそれぞれ自分の選んだ『学科』の授業を受けたくてうずうずしてる。


 例年通りだと今頃一年生は自分の所属するクラスでこれからともに過ごす級友たちと親交を深め、二年生は去年の終わりに決めた自分たちが所属する『学科』について期待と不安を隠せずにいるはずだ。


 しかし、今年は若干雰囲気が違った。


 二年のあるクラスではある噂話で持ちきりであった。


 その噂話とは『二年に編入してくる謎の男子生徒』についてだった。


 通常学院では必ずどの学部の生徒でも一般教養を一年学んでから、二年に進級するはずなのだが、その謎の男子生徒は何故か一年生を飛ばして二年生に編入するらしい。


 そしてその学生は今日からこのクラスで一緒に授業を学ぶらしい。


 そのことを朝のHRホームルームでクラスの担当教師から言われて、クラスの生徒達は騒然となった。

 

 だが、クラスの生徒達がざわめく中でマイペースに談笑しているグループがいる。


「それで部員は何人ぐらい入りそう?」


 気の弱そうな黒髪の女生徒が赤髪の女生徒に話しかけている。


「多分五、六十人ぐらい入るだろうが、残るのはその五分の一ぐらいじゃないか?」


 頬杖をつきながら赤髪の少女は答える。


「つーかお前らよくこの騒ぎのなかでそんな暢気に話ができるな」


 それに浅黒い肌をした男子生徒がため息をついて二人の女生徒の方を見た。


「私にはあまり関係ないしな」

「……私も噂とかあんまり」

「……俺は女は噂好きだと今まで思っていたが、お前ら見て少し考えが変わったよ」


 雑談を周りで騒いでるクラスメートを無視して三人は続けた。


 三人ともこの学院では一年の頃から一緒のクラスのくされ縁である。


 ――長いストレートの黒髪が特徴のおとなしい感じのする女生徒は、ニア=シュリオン。一般学科の学生で二年では美術学科を選択している。


 赤髪のポニーテールの少女は、サリア=フージリア。


 彼女は武術学部の生徒で選択学科は剣術学科。


 そして、浅黒い肌の男子生徒はディース=ダリオン。


 サイアと同じ武術学部の生徒だが彼は弓術学科を選択している。


 性格も性別も違う三人だが、なぜか気が合いよく固まって話すことが多い。


 そんな三人はあまり「噂の男子生徒」にはあまり興味がないのか、のんびりと雑談を続けている。


 教師の話では「噂の男子生徒」は少し遅れてくるらしく、それまでクラスでは「噂の男子生徒」について色々と憶測が飛び交っていた。



 それを聞いていたサリアが、ふと思いついたようにニアに話をふった。


「なぁ、ニアは下級生や同級生の知り合いは多いか?」


 それにニアが頭に疑問符を浮かべながら答える。


「うーん。同級生ならそこそこ知り合いはいるけど……下級生はちょっと。どうしてそんなこと聞くの?」


 ニアの疑問にサリアが腕を組んで答えた。


「うむ。実は昨日の新入生勧誘の模擬戦でとんでもない奴がいてな。そいつの素性を調べているんだ」


「とんでもない人?」


「あぁ、私はあんなデタラメな人間を初めて見た」


「……デタラメ」


「ニアもあの現場にいれば多分同じ事を思ったはずだぞ」


「おいおい。一体そいつは何をしたんだサリア?」


 二人の話をそれまで聞いていたディースが、会話に参加した。


 どうやら「噂の男子生徒」より面白い話だと思ったようだ。


「あぁ、実は私はそいつと模擬戦をしたんだが……」


「ちょっと待て。それってあの風船つけてするアレか?」


「そうだ」


「今年はサリアもアレに参加することになったのか」


「……部長に『女性部員確保』と言われ、強制参加させられた」


「それはご苦労様」


「サリア女の子に人気あるからね」


 苦笑いのディースと笑顔のニアを見て、話がどうにもずれそうだと思ったサリアは一度咳払し――話を再開した。



「私は模擬戦で私と戦った男子生徒を探しているんだ」


「へー、めずらしいなサリアが人探しか」


「『あれ』を見て奴に興味を持たない人間がいたら私が見てみたいよ」


「おいおい。そいつは本当に何したんだよ?」


「私もすごい興味がある。だってめったに人に興味を持たないサリアがこんなに興味を持つなんて」


「うむ、実は――」


 前置きをしながら、サリアは二人に昨日見た光景を話し始めた。



 




「……信じられねぇな。そいつは本当に人間か? つーかそんな奴とやってよく無傷だったな」


「ホント怪我がなくてよかったよ~」


「全くだ。下手をすれば今頃私は病院のベッドの上だ」


 話を聞き終わった二人は、まず驚きそしてサリアが無傷だったことを喜ぶ。


 だが、突然ディースがサリアに疑問をぶつけた。


「それでそいつの特徴は?」


「ん?」


「いや、だから特徴だよ。特徴。人を探しているんだろ? だったら特徴を言えよ。俺もそいつに興味がわいた。面白そうだから一緒に探してやる」


「それは助かるな。しかし残念だが実は名前を……」


 サリアが何かを告げる前にニアが机から身を乗り出す。


「あっ! ちょっと待って私も人を探しててできればその人も一緒に探してくれる?」


「ニアもか?」


「うん。ちょっと助けてもらった人がいて、お礼が言いたいの」


「ふーん。まぁいいや。ついでに探しておくよ。じゃぁ、二人ともそいつらの特徴を言えよ」


 ディースがポケットから手帳を取り出してメモを取る準備を始めた。


「では、ニアから話せ」


「いいよ私は後で、サリアが先にいいなよ」


「いや、ニアが」


「サリアが」


「……お前らホントに仲良しだな」


 どちらが先に話の人物の特徴を話すか、譲り合いを始めた二人に脱力するディース。


 ディースが二人のやり取りに呆れていると――教室のドアが開いた。


 先頭には教員――そしてその後ろには一人の男子生徒が教室に入ってきた。


 それを見た教室にいた生徒達は、彼が「噂の男子生徒」だと気がつき隣の生徒と囁きあう。


 担当教師がそんな生徒達の様子を見て、教卓を手でバシバシ叩いて静かにさせる。


 そして、静かになった教室の中で男子生徒について説明する。


 名前はトール=グラノア。


 一般学部の生徒だが学科はまだ決まっておらず、しばらくは色々な学科を体験授業するというのでなるべく助けてやるようにと担任教師から説明を受ける。


 担当教師が男子生徒についてまだ説明をしている間、サリアとニアは男子生徒を見て驚いていた。


「あいつは」

「あの人……」


つぶやくような二人の声を聞いたディースはまさかと思いながら



「アレがもしかしてお前らの探し人?」と聞く。


 それにうなずく二人を見て、唖然とするディース。


 話の当人は、マイペースに教室の天井や教卓の机をキョロキョロ眺めていた。


感想をたくさんいただきありがとうございます。


これからも頑張ります。

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