頼まれ事
更新が遅れて申し訳ないです。
トールが「とある人物」に無理矢理酒を飲まされた後。
トールは馬車で学院の寮まで送られ、無事に自分の部屋に担ぎ込まれた。
この時「何事かっ!」と寮母や寮生達が遠巻きに見に来たが、トールを運んできた侍従達から渡された御馳走(大量の肉+高級菓子)で話は簡単に済み、翌日目が覚めたトールは寮母から説教を受けることなく無事に学院に行くことが出来た。
……だが、この翌日からトールは二日も連続で寮に帰ってくることはなかった。
「とある人物」に酒をしこたま飲まされた次の日。
(……あー、頭が痛い)
トールは教室でげっそりとしていた。
まだ前の日の酒が残っているのだ。
本音を言えば、いますぐ寮に戻ってベッドに飛び込みたい所だ。
(でも、ここでサボると次の授業の時に講師が何を言っているかわからなくなるし……)
しかしここはあとの面倒を考え、踏ん張っておこうと授業に集中するトール。
(……一応後でキキョウさんに二日酔いに効く薬をもらっておこう)
そんな少し弱気なことも考えながらトールは午前の授業をすべて受けきった。
幸い、午後はトールは講義の予定がないのでゆっくりと寮に戻って寝られるはずだ。
キキョウに薬を貰い、ゆっくりと午後は寮の自分の部屋で寝ていれば次の日は元気になっているだろうと、トールは考えていた。
──だが、この予定はちょっとした「頼み事」のため却下となった。
「いやー、凄い凄い。まさかと思ったけど、トール君は『聖字』も書けるんだね」
「……まぁ」
「知人の子供の部屋に魔よけの聖字を書ける人間が必要なんだが、中々いなくてね。まさかと思って声をかけてよかったよ」
「……そう、ですか」
馬車の中、どこか遠くを見ながらぼんやりと呟くトール。
時折、口元に手をやったり、頭を冷やすために壁に額を押し付けたりと、その行動は少しおかしい。
実は今、トールはある「頼まれ事」のために学院長と一緒に馬車に乗っているのだ。
馬車はさすがは学院長が乗る物とあって、外も中もかなりの高級品だとわかるものだった。
だが、今のトールに二日酔いと馬車の揺れは相性が最悪だったようだ。
今、トールの意識は混沌の中にいた。
「でも、どうしたんだい? そんなに顔を青くして? いつもの君らしくない」
そんなトールの様子を不思議そうに見る学院長。
「……気にしないでください」
『お願いだから自分にしゃべらせないで。本気で吐くから』と、目で必死に訴えるトール。
しかし、生憎と目の前の中年には何も通じなかったようだ。
学院長は勝手に何かを思いついたように一人で勝手に喋り始めた。
「ふむ。まぁ、今回は君の得意分野とは違うから不安もあるだろう。でも、安心しなさい。ちょっと聖字を書いて終わる簡単な仕事さ」
「そう、ですね……」
先ほどから二人の会話に出てくる「聖字」というのは、昔から魔除けや清浄の為に使われてきた聖職者などが使う特殊な文字の事であり、今回トールは学院長の知人の家でそれを書いてくれるように頼まれたのだ。まぁ、要するにアルバイトの依頼だ。
別に、ここでトールが行かなくても他の人間が後で行った事だろう。
だが今回はトールに割りのいい仕事を与え、ついでにちょっとした小遣いとコネを作ってやろうと学院長がお節介をやいたのだった。
トールは別にこれを断っても良かったのだが、すぐに終わるし、研究室に置きたい物もあると思い、これを受けてしまった。
そして話はとんとん拍子で進み、トールは馬車に詰め込まれ、今は目的に向かう馬車の中。
と、言うのが今の状況だ。
「大丈夫だ。なにしろ、『子供の部屋に強力な魔除けをしたい!』とか抜かして、私に相談してきた親バカの所に行くんだ。変に気負う必要はない。むしろ、思いっきりバカにした顔で相手を見てやりなさい」
「…………はい」
ちなみに、今学院長が話した事がこの話の発端だったりする。
ある日、学院長は仲の良い知人と話しているうちにその子供の話になり、この相談を持ちかけられたらしい。
どうやらこれからトールが会うのは相当子煩悩な人物のようだ。
普通なら、ここで子煩悩なその人柄を聞き、頬を緩ませたり呆れたりするのだろう。
(………………『親』か)
……だが、この時のトールは心の中からこの頼みを断るべきだったと後悔していた。
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