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 「私は18だ」

 「一つ上か、ちなみに俺は17歳だ」

 「知ってる」

 「……あっそ」


 「鳥。美味い」

 「好きな肉の種類じゃない。好きな動物を答えろ」

 「だったら、猫。ふわふわしてて触ると気持ちいい」


 

 「なんで俺はここに呼ばれたんだ?」

 「噂を聞いて私が興味を持ったからだ。無礼だったとは思うが、こうして一緒に酒を飲んでいるんだ。水に流せ」

 「そうする。別に気にしてないし」

 「なら、どんどん飲め。無礼講だ」


 「恋人は?」

 「なし。そっちは?」

 「ピッチが早いな。こちらもなしだ」



 二人はグラスに注いだ酒を飲み干しては相手に質問をし、それを質問された側は答えるといった事を互いに繰り返していた。


 二人とも酒に強く、どんどん瓶を空にしていく。


 しかし、限界は必ず来るもので、二人のうちの片方の飲む速さが一気に落ちた。


 「……強すぎ。何コイツ、馬鹿だろ」


 「相手にならないな」


 「……くそぅ」

 

 トールの体はすでに許容量限界で、もう一滴も酒は口にしたくないと体が悲鳴を上げている。


 ちなみに、フレイアの方は少し顔が赤くなっているだけで殆ど素面と変わらず、余力がかなり残っているようだった。


 「では、これを最後の質問としよう」


 「……もう何でも聞けよ」


 フレイアの言葉にトールはなげやりに答えた。


 (瞼が重い。体も熱い。ついでに眠い)


 早くこの遊びを終わらせて寮にある自分の部屋に向かいたいトールだった。


 ――しかし、幸いにも次のフレイアの言葉でトールの眠気は消えた。



 「君の求めているモノは何だ?」

 








 「……あぁ、そうだな」


 フレイアが放ったその問いに、トールは笑みを浮かべた。


 もしかすると、アルコールの影響かもしれない。


 トールはこの時、実にいい気分だった。


 酒の波に揺られるように、トールは目を瞑ってゆっくりと語り始めた。



 「『心』……。そう、心を込めた剣を俺は打ちたいんだ」



 トールのその言葉に、トールの噂をあらかじめ聞いていたフレイアは少し拍子抜けをした。


 話を聞く限りではもっと突拍子もない物を作ろうと考えているのと思っていたのだ。


 「求めるモノは何か?」と尋ねたのに、これは実にありきたりな答えだった。


 しかし、この時のフレイアはまだトールの言葉の意味を正しく理解していなかった。


 トールの言葉はまだ続いていた。


 「――剣に、俺は俺自身の全てを込めたい」


 目を瞑り、顔を伏せ、


 「――意思、感情、思想。人が『心』、もしくは『魂』と呼ぶモノ。――――自分を『自分』として形成するモノ、その全て」


 自分の中にある『何か』を引き出そうかとするように、トールは自分の胸に爪を立てる。


 「自分の体の中にある、全部を――」


 閉じていた瞼をゆっくりと持ち上げる。


 「曝け出し、完全な生身となって――そして、その全てを剣に叩きつけ、焼き付け、刻み付けたい」


 白目まで真っ赤に染まった瞳が爛々と光る。


 胸に突き立てた爪が、服の上から皮膚を抉りながら拳をつくる。


 ――まるで、『何か』を握りしめようとするかの様に、トールの心臓の上に力強い握り拳が生まれた。


 そして、トールは目の前にいる少女に、自分の『求めるモノ』を答えた。


 「――そうだ。俺は、俺自身の『心』を剣に込めたいんだ」



 





 ――こうして


 トールはフレイアに自分自身の『求めるモノ』を正直に、ありのままに話した。


 酔っている所為もあるのだろう。


 酒の力はトールの胸の中にあった大切な『何か』を引き出した。

 

 『夢』


 『魂』


 『心』


 人にそう呼ばれ続けるモノ――それが確かに見えた。


 そして、それを全て聞いたフレイアは


 「君の気持ちが少しだけだが、わかった。話してくれてどうもありがとう」


 「え?」


 と、とても深い笑みを浮かべた。


 さらに、


 「こんな遊びに付き合ってくれて本当にありがとう。そして、私の『家族』を助けてくれて本当に感謝している。――ユリア、例の物を」


 「はい」

 

 少し謎めいた言葉を言いながら、部屋の中にいたユリアに何か合図を出した。


 すると、ユリアは懐から小さな布袋を取り出した。


 「前回と今回の礼。こうした形でしか気持ちが表現できない私を許して欲しい。そして、出来れば君の事を少しでも疑っていた事も……」


 「何を言っているのか意味が……」


 「……もう少し時間が経てばわかる。もう意識を保つのも辛いだろう。大分強い酒だったからな。そのまま寝てしまえ」 


 フレイアの言葉にトールは反論しようとするが、急激に強い眠気がやってきた。


 おそらく、限界までアルコールを体に入れたのに、興奮して話してしまった所為だろう。


 「でも、寮に……」


 「大丈夫だ。馬車で送らせる。……だから、もう目を閉じてしまえ」

 

 「……なら、頼む。……正直、もう起きてるのか、寝てるのか……。あーくそ、何か変な事を熱く語った気がする。殆ど知らない奴に向かって恥ずかしいな……」


 「ここにいる奴は誰一人笑わない。だから、もう――」


 「……そっか。……な…ら、いいや。……眠らせて、も…らう」


 「あぁ、任せろ」


 「……そう…言えば、やっぱ…アンタって……アイツの、……あの『ちびっ子』の」

 

 そこまで言うと、トールは意識を完全に飛ばした。


 ガクッと首が折れ、体から力が抜け落ちる。


 それを見て、フレイアがソファーから立ち上がり、ユリアから小さな布袋を受け取ってトールの懐に静かに入れた。


 そして、


 「……そうだ。私はアイツの姉だよ。妹が世話になったな。トール」


 そう言ってフレイアは、この国の第二姫は、妹の恩人に礼をいった。



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