ゲーム
ユリアから受け取った封蝋付きの手紙を見せることでトールは王城の中に入ることが出来た。
近衛の人間に会うということで、トールはお城の中にある部屋の一つに案内され、そこでしばらくの間ユリアが来るのを待つトール。
「どうぞ」
「あ、どうも」
豪華な部屋の中でトールはメイドの女性から紅茶を入れて貰い、トールは危なっかしい手つきでカップを持って喉を潤す。
紅茶を飲みながら、トールは「どうして自分は呼ばれたのか?」ということを考えた。
(手紙には『誰か』が俺に興味があると書いてあったけど……)
王城にいる人間など殆ど面識はない。
あるのはユリアとその同僚のリース、それにあの気弱な姫だけ。
三人のうちの誰かならばユリアはきっと手紙にその名前を書いたはず。しかし、それがないとなれば三人の誰かではない。
つまり、トールとは面識のない人間となる。
そして、手紙の文面からはユリアよりも『上』の人間が自分に興味があるような事が書かれていた。
これは……
「……嫌な予感がするなぁ」
トールは一度思考を止め、カップに残った紅茶の残りを見つけた。
よく考えれば、あの手紙の文面からは何か面倒事の気配があったような気がする。
それもかなりとびっきりの奴が。
「……これは、話だけ聞いて逃げる方がいいか?」
トールが紅茶の残りを見つめながらそう考えていると――何やら部屋の声が聞こえ始めた。
「お待ちを……!」
「断る。私は今すぐ会って話をしたい」
「ですが、彼もフレイア様と突然面会となればきっと困惑してしまうはずです。ですから――」
「嫌だ。断る」
「フレイア様!」
声はトールのいる応接室の近くまで聞こえ、そしてその前で一度止んだ。
そして――
「失礼する」
応接室の扉が開くことで、その声は再び聞くことが出来た。
「ん?」
「何だ?」と思いながら、トールが扉の方を向くと、そこにはトールと同い年ぐらいの金髪の短い髪の少女と、その後ろにはユリアの姿。
先ほどまで部屋の外で聞こえたのはこの二人だったようだ。
――これで一つの疑問を消すことができたが、代わりにトールの頭の中に疑問が二つ生まれた。
一つは部屋に入ってきた少女が何者なのかと云う事と、何故その少女が手に持っている「ブツ」について。
少女の手には「大きな酒瓶」があった。
だが、この二つの疑問が解消される前にトールが座るソファーとテーブルを挟んだ反対側にあるソファーにその少女が『ドカッ!』と座った。
『ドン!!』
と、二人の間にあるテーブルにとても大きな酒瓶を叩きつけたのだ。……よく見ればすでにメイドの女性がグラスを二つテーブルに用意している。
「?」
何をしているんだとトールが思っていると、少女が――
「飲め。ちなみに、断る事は許さん」
「………」
トールの頭の中に疑問の代わりに、嫌な予感がいくつも生まれた。
「……ユリアさん。これは一体どうなってるんですか?」
「……申し訳ありません、トール殿。実は……」
トールがユリアに現状の説明を求め、それにユリアが答えを返そうとする。
しかし、
「その説明は飲んだ後に話す」
――それを、部屋にいるこの強気な少女が止めた。
「……あー」
トールはそれにどうすればいいのか分からず視線をあちこちに飛ばすが――誰も助け舟を出してはくれない。
メイドはもちろんだが、ユリアは何故かこの強気な少女の言葉に逆らえないようで、先ほどの一言で黙ったままだ。
代わりに、強気な口調の少女がメイドが用意したグラスに持ってきた酒瓶の中身を注ぎ――それをトールに差し出してきた。
そして、少女は――
「飲み干せ。そうすれば、私は質問に答えてやる」
「……あー、なるほど。そういう事」
少女のこの言葉でトールはこれが一つの『ゲーム』だと理解した。
どうしてこうなっているのかはわからないが、今の言葉でどうすればこの状況の謎が解消されるのかは分かった。
「だったら、遠慮せずにいただきます」
「あぁ、ぐっといけ」
トールは少女の言葉に後押しされるようにグラスに注がれた独特の匂いのする液体を「ぐっ」と一息で飲み干した。
グラス一杯程度の酒など、酒飲みのドワーフと暮らしていたトールにとって飲んだ内には入らない。
顔を赤くする様子も無く、グラスをテーブルの上に置く。
トールはそこで、少女に問いかけた。
「『貴方の名前は?』」
少女はその問いに、にこやかな笑みと声で答えた。
「フレイアだ。いいぞ。このゲームの遊び方が分かってる。では、次は私だ」
そう言ってフレイアと名乗った少女は自分のグラスに酒を注ぎ、飲み干す。
そして、先ほどトールが口にした言葉とほぼ同じ事をトールに向けて問いかけた。
「君の名は?」
「トール」
それにトールは簡潔に一言で答えた。
「………」
「………」
ここで二人は一度無言になり、お互いが『ルール』を理解したと確認する。
「「………」」
次に、二人が同じように口の開いた酒瓶を見る
そして――
『ガッ!!』
二人は、ほぼ同時にテーブルの上にある酒瓶を手に掴んだ。
テーブルに身を乗り出しながら、互いに壮絶な笑みを浮かべる。
「……ここは順番どおり俺じゃないか?」
まず、トールが酒瓶を自分の方に寄せようと「ぐぐっ」と力を込める。
「そんなルールは知らない」
それにフレイアも同じように瓶を持つ手に力を入れて、瓶を自分の方に持ってこようとする。
トールは相当に力が強いが、対象が壊れやすい瓶物だとどうしても力が込めにくい。
その為、女であるフレイアとほぼ同じような力しか出せない。
『ぐぐっ!!』
なので二人してテーブルの上で酒の入った瓶を取り合うといった、大変見苦しい図がここに出来上がった。
「つーか、何でアンタこんな意味のわかんねぇ事してんだよ! 普通に聞けばいいだろ!」
「素面だと聞きにくい事を聞くためだ! ついでに私が飲みたいからだ!」
「正直だなオイ!」
「うるさい。いいからその手をさっさと離せ」
……酒が入った所為だろうか、二人とも相手に気遣うことを止め、やかましく口論を始めた。
――結局、このまま二人はメイドが新しい酒瓶を持ってくるまで延々と口論を続けた。
続きはすぐに上げます。