手紙
結局の所、トールの作ったクラッカーは実験をする前にこれ以上の製作が中止となった。
その理由はすでに学院内で同じ内容で似たような品が存在し、学院としては同じものを複数の研究室が製作することを良しとしなかったからだ。
その為、トールが今回作った催涙クラッカーは没となり、研究室のガラス棚でずっと眠ることになった。
――このような内容をトールが昼休みの食堂で仲の良いクラスメート三人に話すと、三人は次のような言葉をトールにかけた。――ちなみにキキョウはクラスメートと先約あったので今回はいない。
「気を落とすなトール。次がある」
「そ、そうだよ。トール君」
「まっ、頑張れ」
上からサリア、ニア、ディース。
「……………」
それぞれがトールのこれからの事を励ますが、しかしトールの顔は優れない。
「どうしたトール? お前ってコレぐらいでへこむタマだったか?」
それをどうしたのかと、同性の気安さでディースが遠慮なく聞いた。
するとトールは一枚の紙を懐から取り出し、こう切り出した。
「あー、実は学院長からこんな物を渡されてな」
「ん?」
「……まぁ、見てみ」
そう言ってトールは紙をディースに渡した。
「どれどれ」
「あっ、私も見たい」
横からサリアとニアが紙に書かれている内容を見ようと身を乗り出し、三人はかなり密着した状態で紙に書かれた内容を読み始めた。
傍から見れば少女二人に挟まれたディースは羨ましい限りだが、食堂に賑やかさと近くにトールを含めた彼ら四人しかいなかった為、彼をうらやむ人間はいなかった。(多くの女難の経験があるため、トールは対象外)
その為、トールは三人が紙に書かれた内容を読み終わるまで、ただのんびりと待った。
そして三人が紙を読み終わると、
「……お前、何したんだ?」
「前から思っていたが、……お前はアホだな」
「す、すごいね」
ディースとサリアが呆れ、ニアが驚愕という反応をした。
「……もう、なんとでも言ってくれ」
そう言いながらトールはディースに渡した紙を返して貰う。
「……学院に来てから厄介ごとばっかりだ」
そして、返して貰った紙を広げてトールは内容を見た。
それは手紙のようで、今の季節や相手を気遣う言葉が文の初めにあり、その後に本文が書かれていた。
『先日、貴方に竜の血を融通しましたが、その事がある方のお耳に入ってしまいました。正式な手順を踏んで貴方の手元に届くようにしたので処罰や処分はありませんが、そのお方の性格上、とても面倒な事となっております。今は私や周りの人間が必死になって止めていますが、もう『限界』です。この手紙が届いたらすぐに王城まで来てください。お願いします。これ以上は大変な事になってしまいます ユリア』
それはサリアの姉ユリアからの手紙だった。今朝方学院長に呼ばれ、その時に渡された物だ。
そして、その手紙からは緊迫した様子が読み取れた。
なので、トールは王城に行くのを少し先延ばしにしていた。
――当然、それをこの場にいた三人に突っ込まれる。
「つーか、お前はなんでこの手紙を読んだのにまだ行ってないんだ?」
「そうだな。姉様の手紙はすぐに来いと言う様な内容だったはずだ」
「そういえば何でまだ行ってないの?」
三人の言葉を聞いたトールは足や腰の辺りを叩いて、
「前回の経験を活かして、今回は準備を整えて向かおうと思ったんだよ」
と答えた。
「それに、今日は午後からの授業はなかったからな」
そう言ってトールは椅子から立ち上がって首を回してコキコキと音を鳴らした。
「おかげで準備は万端。いつ牢屋にぶち込まれてもすぐに抜け出せるだけの用意が出来た」
「……本当にお前は何しに行くんだ?」
「俺が知るか。向こうで俺を呼んでる人に聞いてくれ」
「……まっ、頑張れよ」
「が、頑張ってね」
「頑張れ」
「応。じゃあ、行ってくる」
三人に見送られるようにしてトールは食堂を後にした。
――その後、トールの姿が見えなくなると、
「……あいつ、いつ帰ってくると思う? 一週間後ぐらいか?」
「手紙の内容から私は二週間ほどだと読んでいる」
「す、すぐに帰ってくるよ。……二、三日ぐらいで」
三人はトールがいつ帰ってくるのかを予想して話に花を咲かせた。




