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大人達。

短いです。

「……だから、悪いですけど。神官長様の忠告は聞くことが出来ません。……本当、すみません」


 トールはそう言ってから、「スッ」と立ち上がった。


 「……こんな俺の事なんてもう興味なんてないでしょうし、俺はこれで失礼します。」


 そのまま学院長とマルク神官長に背を向けて早足で部屋の扉の前まで向かった。


 そして、二人の大人達に向かい深く腰を折ってから「失礼しました」と言って扉を開けて部屋を出て行ってしまった。


 『バタンッ』


 「「………。」」


 二人の大人達はどちらもそれを止めようとはしなかった。


 ……あとに残ったのはまるで取り残されたように座る大人だけ。


 「くはっ!」


 だが、その大人の片方が突然吹いた。


 そして、自らの膝を手のひらで「パンパン」と叩きながら、笑って言う。


 「良い! 実に良い! アレが若さだ! 若い頃を思い出しますね!」


 「そうですね」


 楽しそうに笑いながら喋っているのは学院長で、それに「ニッコリ」としながら答えているのはマルク神官長だ。


 どちらも無礼な態度で退室したトールに怒っている様子はない。


 それどころか、何故だかとても楽しそうだった。


 「いやー、あんな生徒は実に久しぶりですよ。あんなに頑固で、融通の利かない生徒は」


 「ついでに、『育てたら面白そうだ』という言葉も入れたらどうです?」


 「くくっ、そうですね。全く、その通りです」


 「ふふ」


 堪えきれないといった様子の学院長とそれを少し羨ましそうに見て微笑むマルク神官長。


 二人は隣り合わせの席で笑いながら、トールについて会話を進める。


 「やはり、イレギュラーな若者を見るとそれを育ててみたくなってしまいますよね?」


 「はい。特に、『予想が出来ない』という所が堪らないですね」


 「全くその通り!」


 「……ですが、やはり気がかりな所もありますね」


 「ん?」


 そこまで笑みを浮かべて話していたマルク神官長だったが、今は少し顔がこわばっていた。


 「……トール君の夢に対する気持ちのことです。……正直、かなり危ういのではと不安になりまして……」


 ひたむきに夢を追いかけるはいい事だとも思うが、トールの夢は少し特殊で……マルク神官長はそこの所を心配していたのだ。


 だが、そんな心配を吹き飛ばす言葉が隣の席に座る学院長の口から出た。


 「──大丈夫です。私達、『教師』がいますから」


 その時の学院長の顔に浮かんでいたのは――深い、とても深い笑みだった。


 両手の指を組んでマルク神官長に微笑む学院長の顔は、まるで『親』の顔だ。

 

 深い愛情のこもった暖かい瞳。

 

 その瞳の先がどこにあるのかわかったマルク神官長は目をつぶって微笑んだ。


 「……なるほど、そうでしたね」


 納得した様子のマルク神官長だったが……次の瞬間。


 顔を手の平で覆って、思わずつぶやいた。


 「あぁ、それにしても、『教師』という職が本気で羨ましい」

 

 「……」


 学院長は友人の突然の告白に驚いたが、その胸の内を考え、少し困ったように笑った後……


 友人のために秘蔵の一本を出すために席から立ち上がった。

 

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