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好奇心


「竜の血を使った、魔術を無効化する魔剣……。確かに、こんな剣を作れる人間ならミスリルの無薬品加工も出来るでしょうね」


「だろう? 私は間違いなくこの剣を作った人間こそ『噂の鍛冶師』で間違いないと思っているよ」


「……えぇ、私もそう思いますよ。これを書いた本人は、間違いなく『噂の鍛冶師』です」


「そうだろう、そうだろう」


 緊張した面持ちで資料を見ながら呟いたマルク神官長の言葉に、神官長も自分と同じ考えを持ったと学院長は喜んだ。



「ですがそうなると、──先ほどあなたが言った言葉はどういう意味だったのですか?」


 だが、マルク神官長はどこか納得がいかないと言う顔で学院長の顔を睨んだ。


「ん?」


 マルク神官長のその言葉に学院長は一度喜びの感情を収めた。


「『もう誰も作れない』という言葉ですよ。あなたの言い方だとこの魔剣を作った『噂の鍛冶師』ももう作れないと言う事になりますが。一体どういう事ですか? 確か、この資料を読み終えれば教えてくださるという話でしたが……」


「あぁ、そういえばまだ説明をしていなかったね」


 神官長の言葉で学院長は自分が先ほど言った言葉を思い出した。


 資料に目を通す事を躊躇う神官長に向かって、その資料を指して『もう誰も作る事が出来ない』と言ったことを。


 マルク神官長はあの時はあまり興味がなさそうは様子できょとんとしていたが、今はその話を聞きたくてうずうずしているのだろう。


「えぇ、出来れば今すぐにでもその説明をして欲しいのですが」


 マルク神官長は好奇心に目を輝かせながら、真剣な表情で学院長の顔を見つめる。


そんな視線を受け、学院長はゆっくりとその事について説明を始めた。


「わかった。では、説明しよう」








 ※※※



「──簡単に言えば、素材を手に入れることが出来ないからさ。まず、魔剣の材料である竜の血や鱗などの素材はすべてが入手困難。まともな長さの剣を作ろうとすれば、酒樽一杯の血と大量の鱗が必要になってくる。そして、これほどの素材を一度に全て手に入れようとすれば、何体かの竜を殺さない限り不可能。しかし、鍛冶に失敗したり納得のいくものが出来なければ、もう一度一から素材を調達しなければならない。──だから、誰にも作れない」


「ですが、学院でも竜を飼育していたでしょう? あれから素材を少しづつ入手すれば……」


「出来ないね」


 マルク神官長の質問に対する学院長の答えは否定だった。

 

 その理由は──。


「血はなんとかなるかも知れないが、鱗が問題だ。アレは滅多なことでは剥がれることはないし、無理に剥がそうとすれば暴れだして怪我人が出る」


「あぁ、なるほど。……でもそうなると『噂の鍛冶師』はどうやってこの魔剣の素材を手に入れたのですか? まさか、竜を殺したとか……」


 竜の危険性を聞かされ納得するが、そうなると『噂の鍛冶師』がどうやって素材を集めたのかが気になった神官長は首をひねって質問した。


「いや、彼は竜人族と昔から顔なじみらしく、そのコネで素材を殆どタダで手に入れたみたいだ」


「……おそろしい人物ですね」


「全くだね」


 学院長と神官長は互いに頬を引きつらせ苦笑いをする。


 しかし、その時マルク神官長が何かに気がついたように顎に親指を当て首を少し傾けた。


「でも、そうなるとやはり少しおかしいですね……。つまり、『噂の鍛冶師』は素材は手に入るのでしょう? だったら何故この魔剣を『もう作れない』のですか?」


 マルク神官長が学院長の話にそう聞くと、学院長は苦笑いから顔を急に引き締め、真剣な顔をして答えた。


「その魔剣を危険だと判断したからさ」


「えっ?」


「彼は魔剣を悪用される可能性を考えて製作を止めたんだ」


「……つまり、自分の作った剣が怖くなって製作することを止めたと?」


 神官長の顔には信じられないという表情が浮かんでいた。


 今までの話の中に出てきた鍛冶師の印象では、そこまで繊細な人間だと思わなかったからだ。


 しかし、よく考えてみればまだ学生。


 自分の行動が起こす損失に敏感になってしまうのも仕方がないのだろうと、自分を納得させる神官長だったが、学院長の次の言葉で考えを改める。

 


「いや、違うね。彼の中にある『何か』が魔剣をこれ以上作ることを拒否したんだ」


「…………」



 学院長の言葉の中に含まれた意味をマルク神官長は考えた。



 『噂の鍛冶師』の中にある「何か」とは何なのか?


 道徳や倫理などを指しているのか?


 それともそれ以外の何かの事なのか?


 学院長が「彼」と呼ぶ、『噂の鍛冶師』の事を何一つ知らないマルク神官長は考えた。


 しかし、あまりにも『噂の鍛冶師』に対しての情報が少なく、考えはすぐに行き詰った。


「……………。」


 だが、一つだけ確信したことはあった。


 それは、『噂の鍛冶師』は人を傷つけることを嫌っている、という事だ。


 でなければ、これほどの剣を量産も改良もしない。まして、製作を止めることなどありえない。


 おそらく、『噂の鍛冶師』は過去に何かがあり、それが理由で人を傷つけるような事を嫌っているのだろう。


 それにもかかわらず『噂の鍛冶師』が何故鍛冶師などという職を選択しているのかわからないが、これで学院長が何故「もう誰にも作れない」と言ったのかはわかった。



 素材を手に入れることが出来る唯一の人間が拒否しているから


 そして、その理由が本人にとって譲る事の出来ないものだからだ。


「………。」

 

 それを理解した時、マルク神官長の中に今まで以上に『噂の鍛冶師』について知りたいと思った。


 話をしたい。


 言葉を交わし、何を考えているのか、何を考えてきたのかを知りたい


 マルク神官長は『噂の鍛冶師』に対して、今まで以上に、そして抑えられないほどの好奇心を持った。

評価ポイントを入れてくれた方、お気に入り登録をしてくれた方々、ありがとうございます。

これからも頑張ります。

そして、感想など待っています。

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