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神官

トールは学院長と先日作った剣について話し合っていた。


「──そういうわけで、この剣はこれ以上作ることは出来ません」


「確かに、これはちょっとばかり危険だね」


「はい。ですので、竜人族との合同開発作品はまたの機会に」


「……いいだろう。まぁ、実を言ってしまえば私もこれを量産することは反対だ。悪用されることもそうだが、折角出来てきた竜人族との友好関係がなくなってしまうのはよくない」


「材料が竜に関係する品ばかりですからね……」


「そういうことだね」


 学院長と話し合った結果、話はトールが望んだ結果に落ち着いた。


 剣の能力はすさまじいが、その反面、剣の危険性と材料に使う竜の素材を使うことの意味を学院長は考えてくれた。


 そのおかげでトールの学院長への「報告」は無事に終わった。


 研究室を持つ人間にとって、この「報告」とは色々な意味がある。


 この場合の「報告」とは研究室をもった人間は何かしらの発明品等を作った場合に、その製品の説明を学院長にする事で


あり、トールはまさにそれが終わった所だった。


 これは本来ならば研究に使うはずの研究費を私的な理由で使う不届きな輩が出ないようにするために措置であり、他にも発明品の有能性を説明することで研究費を追加してもらうなど研究室を持つ人間にとってとても重要なものだった。


 これをおろそかにすると研究費の横領を疑われるばかりではなく、自分がやっている研究の有効性に気づいてもらえない等の不利が出てくる。


 その為、研究室持ちの人間は定期的な報告を学院長に行っている。


 トールはその第一回目の報告を無事終え、次の研究では何を作るのかについて、少し学院長と話をした。



「それで、次はどんなものを作るつもりだい?」


「今回はずいぶん物騒なものを作ってしまったので、次回は少し人のためになるようなものを作りたいと思っています」


「防具とかかい?」


「いえ、とりあえずは武具から少し離れたものを作ってみようと思っています」


「出来れば面白いものを頼む。最近は驚くような発明品の報告が無くて退屈なんだ」


「……まぁ、頑張ります」


「頑張りたまえ。君には期待している」


「はい」


(……そろそろ帰るかな、他にする話もないし……)


 トールはこのまま会話を続けても次の製作物の明確な姿は見えてこないと思い、そろそろ話を切り上げようと学院長に退室の声をかけようとした。



 だが――。



 『コンッコンッ』



 学院長室の扉をノックする音が聞こえ、学院長とトールは二人で扉の方を見る。



「来客かな?」


「あ、じゃあ、俺帰ります。材料費の報告や研究成果の報告も済みましたし」


「すまないなトール君」


「いえいえ」


 トールは内心ちょうど良かったと思いながら、布に包んだ剣を小脇に抱え、次の来客のために机の上を整理する。


『コンッ…コンッ…』


 扉の外から先ほどよりも控えめなノックの音が聞こえる。


「少し待っていてくれ!」


 ノックを聞いた学院長が扉の外にいる人に声をかける。


 トールはその間に、報告書などの束をまとめて学院長にすべて渡す。


「これが報告書全部です」


「うむ、確かに受け取った。何かあれば声をかけるが、先ほど目を通した時は特に問題がなかったから大丈夫だろう。これからも研究を頑張ってくれ」


「はい。それでは失礼します」


 報告に必要だった書類をすべて渡し、素早く挨拶を終え、トールは学院長室から出ていこうと扉を開けた。



 ──だが、扉を中途半端に開けた状態でトールの動きは止まった。


 「ん?」


 トールは扉を開けた先で意外な人間に会った。


 おそらく、先ほど扉をノックしていた来客者だろう。 


 トールにとってその来客者は今まであまり会う機会の無かった人種だ。


 トールは養父の仕事の都合上、商人や軍人、ある時は人間以外の種族にも関わったことがあるが、その「職」につく人間には殆ど縁がなかった。


 というかトール自身が「彼ら」がいる場所に行くことを極端に嫌っていた所為もあり、久しぶりに見たその職種の人間が持つ独特の雰囲気に面食らってしまったのだ。


「こんにちは」


 だが、相手はそんなトールの態度を気にした様子もなく上品な仕草で両手を胸の前で組んで頭を下げて礼をした。


 張りのある声質、そしてほどよく調整された声量。


 毎日、何人もの人間に同じ言葉を発する事で習得した実に耳に心地よい挨拶だった。


「…こんにちは」


 ソレに対して、トールは頭を下げて平凡な挨拶を返した。


「………。」


 そして、ゆっくりと頭を上げた。


 

 見えたのは、清潔な白く長い布。


 体全体を覆い隠すような白いローブ。


 両腕はローブの裾で隠れ、見えるのはほぼ手先だけ。


 足も膝まで届く生地でほぼ隠れ、歩くのにすら苦労しそうな服。


 そんな服を着た人間の職業など、ほぼ限られる。


 それは教会に所属する人間。



 『神官』



 トールの目の前にいたのは、神官だった。


 それもかなり位の高い人物。


 服の質とローブにそれに縫われた金糸の刺繍がすべて証明している。


 顔を見れば実に人のよさそうな笑みを浮かべた30代後半の男性神官。


 大抵の人間はこのような人間を見れば警戒心を緩め穏やかな気持ちになるのだろうが、トールは違った。


 

 トールは教会が信仰する『神』を信じていない。



 その理由として、トールにはすでに自分の『神』がいるからだ。


 他の神を信じることは自分の『神』に対しての冒涜に繋がると思い、トールは教会などが崇める神を信じることを自ら禁じている。


 だから、トールは教会に関係する人間とは距離を置いて接することにしている。


 彼らの信じている神の教えを、自分が聞いても意味がないと思うし、なにより彼らの話を聞いているう内に『共感し、染まってしまう』のを回避するためだ。


 その所為で故郷にいた頃は街にある教会の神官に何度か説教をされ、居心地の悪い思いをしたことが、トールは今までこの生き方を貫いてきた。

 



「……失礼、します」



 だから、この時もトールは男性神官に軽く挨拶をした後、係わり合いになることを回避するためにすぐに神官の前から消えた。




誤字脱字の報告、そして感想を待っています。



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