『力』
『力』が欲しかった。
『力』がなければ生きていけないとわかっていたから。
これから一人で生きていくための『力』が欲しかった。
それで死んだ両親が生き返るわけでも、壊れた生活が戻るわけでもないとわかってはいたが、それでも『力』が欲しかった。
理不尽に抗う『力』
逆らうための『力』
抵抗するための『力』
――生きるための『力』
――その『力』が、欲しかった。
夢も希望もなく。
父も母も亡く。
一人で生きる力も無い。
何も無い俺には『力』という『神』が必要だった。
頼るものが何も無い世界で、何を信じればいいのかわからない不安定な心。
その心を安定させるには、自分の中に存在して、確かな何かを与えてくれる『神』がどうしても必要だった。
自分の中にいる自分が信じられる『神』
信じて奉仕することで応えてくれる『神』
それが必要だった。
幸運にも、俺はその『神』に会うことが出来た。
そして、『神』から『力』を与えられた。
与えられた『力』は、気高く、尊く、なによりも美しい『力』だった。
――空っぽだった俺に、その時中身が入った。
その時から、俺を生かしているのはこの腕に宿る『力』だ。
空っぽの自分を埋めているこの『力』は、俺の心臓でもある。
『力』は俺の『命』そのもの。
他に替えがきかない大切なものだ。
何も無い俺が手に入れた、たった一つの宝物。
この『力』を失いたくはない。
自分の中には他に確かな『力』などない。
だから、失うことは出来ない。奪われるわけにはいかない。
与えられたこの『力』を悪用すれば、俺は『力』を、『神』を、すべて裏切ることになる。
それだけは出来ない。
自分に生きる力を与えてくれたこの『力』を、俺は裏切りたくはない。
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