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閑話 料理 前半

今回の閑話は前半と後半で分けます。


後半は後日あげます。

「これ、美味いな」


トールは目の前にあるピーマンの肉詰めを食べてそう言った。


おそらく、すべてはここから始まった。












トールの言葉を聞いて、食堂にいたキキョウ、サリア、ニア、ディースは自分たちの食事の手を止めた。


「ん? トールはそれ食うの初めてか?」


「今日、初めて食べた」


「あぁ、ピーマンの肉詰めか。私もそれは好きだぞ。特にソースが美味い」


「うんうん。おいしいよね」


「そんなにおいしいのですか。でしたら、今度私も頼んでみます」


みんながトールの食べているものを見ながら話し始める。


しかし、そのなごやかな空気をで凍らせる人間が現れた。


その人間はトールだ。


トールは言った。




「でも、作り方は意外と簡単そうだな」



…その言葉を聞いた瞬間



まず、ディースとニアが意外そうな顔でトールを見た。


次にトールの言葉を聞いたサリアが無言で顔を俯かせた。


最後に、キキョウがトールの言葉を聞き機嫌が悪くなった。






「「「「…………………」」」」





そして、微妙な空気が流れた。



だが、そんなことに気がつかないトールは疑問を口にする。



「? どうかしたか?」


「ん、いや…。別にたいしたことじゃないんだが…」


「??」


歯切れの悪いディースに困惑するトール。


トールはディースが何を言おうとしているのか、全然わかっていない。


そんなトールを見て、先ほどの台詞が気になったディースは、思い切って聞いてみた。


「なぁ、トール。…お前って、料理出来るのか?」





「「「「…………。」」」」



その問いに対するトールの返答を、四人は緊張しながら待った。


しかし、そんな緊張などお構いなしに、トールはあっけらかんと答えた。



「出来るぞ」



トールがそう言った瞬間。



女性陣から─、



「へー、すごいね」


「…へぇ、すごいな」


「ほんと、すごいですね…」



極端な温度差のある返答が返ってきた。



ニアだけは普通に男が料理を作ることに関して珍しくて感心していた。


だが、他の二名は…。




じーーーーーっ。



「「………。」」




…ものすごく、恨みがましい目でトールを睨んでいた。




二人がこのような目で見るのには理由がある。


まず、サリアだが…。


はっきり言って、彼女は料理が出来ない。


これは別に彼女が不器用だとか味音痴だからといった理由からではない。


彼女は貴族だ。


その為、料理に関して一般人よりも縁が薄い。


なにしろ、屋敷専属の料理人がいるため自分で何かを作ることなどした事がないのだ。


そして、サリアはその事を年頃になるまで気にしたことなどなかった。


だが、実家の屋敷にいた頃には気にしなかったが、学院に通ううちに少しづつその事を気にし始めた。


周りの娘達が焼き菓子などを自分で作って学院に持ってきているのを何度も見たことがあるし、そのご相伴に与ったことが何度かある。


その度にサリアは自分の胸の中に言い知れない不安が溜まっていった。



『もしかして…女で料理が出来ないのは私だけなのでは?』



そんなことを考えてしまったサリアは家の者に内緒で料理をしてみたことがあった。


…しかし、結果は無惨だった。


サリアは自分に料理の才がないことを自覚した。


なので、サリアはトールが男で料理が出来ることを聞いて心中穏やかではなかった。




次に、キキョウ。


キキョウはサリアと違って料理がそこそこ出来る。


しかし、サリアとの一番の違いはキキョウがトールの料理の腕を知っていることだ。


一時期は同じ土地で寝食をともにしていたことがあるため、トールの料理の腕前をよく知っていた。


…実は、トールはキキョウが作る料理をすべて作れる上に、そのすべてがキキョウの料理よりも味がいいのだ。


そうなると、キキョウも普通の娘としては料理が「デキる」ほうなのだが、トールと比べると霞んでしまう。


そのことがキキョウの「女子」としてのプライドを粉々に砕いているため、キキョウは落ち込んでいるのだ。



…つまり、先ほどのトールの台詞は二人の乙女のプライドと古傷をいっぺんにえぐったことになる。


しかし、そんなことに気がついていないトールは空気を読まない。



「別に、料理なんて誰でもできるだろ?」



トールがそう言った瞬間。




ガタッ!


「………。」←サリア(料理が出来ない)


ガタッ!


「………。」←キキョウ(誰でも作れるものが、美味しく作れない)



二人の乙女が立ち上がった。



「「………」」



そして、二人は立ち上がったまま、無言で片手を天高く振り上げた。










食堂から、次の授業教室への移動中。


「…なぁ、何で俺は二人にビンタされたんだ?」


俺は顎を摩りながら、隣をあるくディースにそう聞いた。先ほど、突然立ち上がったキキョウさんとサリアに思いっきり手の平で顔をぶたれたのだ。


両方から挟み撃ちされるようにやられた為、衝撃が逃がせずにしばらく目の前がチカチカした。


「いや、あれはビンタってよりは掌底に近かった。だって、『パシンッ』じゃなくて『ガツンッ』て感じでお前の体が少し浮いたからな」


「…どっちだっていい。つーか、ホントに何で俺は二人にあんな事されなきゃならないんだよ?」


俺がディースにそう文句を言うと、ディースは「当たり前だろ?」という顔で答えを返してきた。


「それはお前、二人のプライドズタボロにしたからだ」


「は?」


俺はその答えに首をかしげた。全く心当たりがない。


「…わかんないのか。お前らしい」


「??」


ディースのあきれたような顔を見て、俺はさらに首をかしげた。


だが、ディースは俺の様子など気にした様子もなく、めんどくさそうに首の骨を「ゴキッゴキッ」と鳴らしながら俺に言った。


「あーあ。それにしても、めんどくさいことになったな」


「…そうだなぁ」


ディースの言葉を聞いて、俺をぶったあとの二人の去り際の言葉を思い出した。


俺のことをぶっ叩いた後、二人はこう言って食堂を去っていったのだ。



『その上から目線を今すぐ訂正させてやる! 後日、私たちの料理を食べて自分の底の浅さを知るがいい!』


といった、後半はどこの魔王だというような台詞を吐いて二人は去って行ったのだ。(ちなみに、ニアは二人の後を追いかけていった。)


二人の台詞から今後の未来を予測すると、どうやら俺は二人から手料理を振舞われるらしい。



女性からの『気持ちの篭った』手料理。



言葉にすれば世の男たちが羨ましがりそうなものだが、俺は全くうれしくなかった。


何故なら篭っているのは愛情などではなく、全く逆の感情だと二人の顔つきからすでにわかっているし、食べた後の反応しだいでは今以上にやばい事になる予感がする。


俺はそれを考えて、深いため息を吐いた。


「…あー、だるい」


ホント、なんでこんな事になったんだろ?


とりあえず目標として、今月は後三回は投稿できるようにがんばります。

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