自己紹介
昼休み、俺はキキョウさんに言われたとおり、食堂に級友三人を誘った。
三人には食堂に着くまで学院長室で起きた出来事とキキョウさんのことを簡単に説明した。
説明が終わる頃には俺達は食堂に着き、俺はキキョウさんの姿を探した。
「あ、いた」
食堂にあるテーブル一つ一つを見回していると、その一つに座るキキョウさんを見つけて、俺はキキョウさんに元に向かい声をかけた。
「キキョウさん!」
「あ! トールちゃ…君」
俺の顔を見てあやうく「ちゃん」付けで呼びそうになったのを、あわてて訂正をするキキョウさん。
どうやらまだ慣れていないらしい。
「あー、まぁいきなりは難しいですよね」
「はい…。なにしろ長年そう呼んでいましたから、癖が抜けなくて…」
「…まぁ、気長にいきましょう」
「はい…。ところで、そちらの皆さんがトール『ちゃん』のお友達ですか?」
また、「ちゃん」と呼んでいたが、それを注意をすると話が進まなくて面倒だったのでスルーすることにした。
「そうそう、学院で知り合った俺の友達」
「そうですか。では、私に挨拶をさせてください」
そう言って、キキョウさんはテーブルの備え付けの椅子から立ち上がった。
そして、
「私の名はキキョウといいます。今年度よりこの学院に入学した新入生です。年はあなた方よりも少し上ですがどうか気にしないでください。これからどうぞよろしくお願いします」
「「「………。」」」
「? あの、どうかしましたか?」
キキョウさんはいつも相手に聞き取りやすいように、幾分かゆっくりとした口調でしゃべる。
そして、それは自分のおしゃべりに夢中になる同年代の少女達より確実に大人びていて、俺はその姿に「中身を知らなきゃなぁ…」と言う感想を持ち。
級友三人はキキョウさんの容姿と大人びた雰囲気にやられて言葉が出ないようだった。
なんだか、このままではキキョウさんの自己紹介だけで休み時間が終わってしまうと思い、俺が適当に三人の自己紹介をすることにした。
「あー、キキョウさん。俺からみんなを紹介するよ」
「あ、はい。お願いします」
キキョウさんの少し戸惑ったような返事を聞いて、俺はまず初めに女性陣から紹介を始めた。
「そっちの黒髪の大人しそうな女の子がニアだ」
俺がそう言うと、ニアは緊張した面持ちで「二、ニア=シュリオンって言います。よろしくお願いします」と自分で改めて自己紹介をした。
キキョウさんはそんなニアの自己紹介を微笑みながら聞き、ニアの自己紹介が終わると「こちらこそよろしくお願いしますね。ニアさん」とまたにこやかに微笑んだ。
「は、はい! こちらこそ…!」
その微笑を見て、ニアは憧れの目でキキョウさんを見始めた。
「………。」
俺はその様子を見ながら、なんだかよくない気配を感じながらも級友達の自己紹介を続けた。
「…えーっと、次はそっちの赤髪の女子。名前はサリア」
「サリア=フージリアと言います。剣術学科に所属していて、クラブも剣術部に所属しています。今後ともよろしくお願いします」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。サリアさん」
サリアはニアのように憧れの目でキキョウさんを見ることはなかったが、キキョウさんのことを只者ではないと思ったのか、ものすごく礼儀正しく挨拶をした。
「じゃぁ最後に、そこいる浅黒い肌をした男子がディースだ」
「ディース=ダリオンです。学院では弓術学科に所属してます」
「よろしくお願いします。ディースさん」
「こちらそこよろしくお願いします。キキョウさん」
ディースはそう言って、軽く頭を下げて挨拶をする。
ディースはニアやサリアほどの反応はなく、ごくごく普通に挨拶だった。どうやら、竜人族ということにもキキョウさんの美人っぷりにもあまり興味はないらしい。
こうして三人の自己紹介は終わり、俺は一安心した。
実は、一部の心無い人たちは他種族を差別する考えを持っていることがある。
だが、三人ともそんな事はないようで安心した。
そして自己紹介が終わると、その後は五人でテーブルに座りいろいろと話をした。
話の内容はキキョウさんのプライベートに関することや俺が研究室を持つことに関することで、特に俺が今後はどうするのかについては色々と聞かれた。
「これは学院長に言われたんだけど、『ミスリルの軽量化と品質改良だけじゃなくて他の事もしてみないか?』って」
「他の事?」
「折角竜人族のキキョウさんもいるんだから既存の技術の向上だけでなく、他種族との交流で新しい『モノ』も作ってみて欲しいんだそうだ」
「へー、なんかすごそうだな。でも、新しいモノって何を作るんだ?」
「まだ、決まってない。まぁ、そういう事は俺は大歓迎だから試しに色々と学院の蔵書でも漁ってみる」
「蔵書?」
「学院は最先端の技術が生まれる場所だって聞いたからな。ここ最近で開発や発見された薬品や金属を色々と調べてみたい
とずっと思ってたんだ。もしかすると、それを見れば何か思いつくかもしれない」
「…なんだか大変そうだな」
「そう思うなら助けてくれ」
「あいにくと、本を読むと目が悪くなって弓の精度が落ちる。なので、断る」
ディースはそう言って、俺の手伝いを拒否した。
理屈をこねているが、どうやらこいつは本が嫌いらしい。
まぁ、別にそこまで手伝って欲しいと思ってなかったからいいが…。
それにしても、いざ口に出して考えてみると学院の蔵書というのは実に興味がそそられる。
(…もしかすると、何か面白い物を発見できるかな?)
俺はそんなことを考えながら、食堂で四人との会話を楽しんだ。
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閑話は書き込みがないようなので、あの二つの中からどちらかを選択して近々投稿します。