いやです
「絶対、いやです」
トールはそう言って、学院長に竜人族の少女を研究室のメンバーにすることを断ろうとした。
だが、それに対して学院長は眉を顰めた。
「ふむ、相手が竜人族ということで少し偏見があるのかい? だったらそれは間違いだよ。『彼女達』は」
「かなりキテます」
トールは説得しようとする学院長の言葉を途中で遮り、「本人達」が聞けば激怒しそうなことを真顔で言った。
「…いや。君、それはちょっと」
そして、それを聞いた学院長は少し躊躇いがちにトールに注意しようとした。
しかし、
「あの人達は、マジでヤバイです」
トールはそれを無視するようにまた言葉を遮った。
ここまでくると学院長も違和感を持ち、ある可能性について考えつく。
学院長は興味心から、思い切って聞いてみた。
「…君は、もしかして『彼女達』と面識でもあるのかい?」
「…養父の仕事の関係で少しだけ面識があります」
学院長の言葉にトールは少し言いづらそうに答えた。
「なんだい、だったら問題なんてないね。面識があるなら彼女達との接し方も、他の生徒達よりもずっと知っているはずだ」
「…『だから』、いやなんですよ」
「む、その知り合いとはまさか仲が悪いのかい?」
「…微妙です」
「ふむ…、それは残念だ。あのような美しい人たちと仲が悪いとは…」
「………。」
学院長のその言葉に苦笑いしかでないトール。
だが、そんなトールを気にした様子もなく学院長は話を続けた。
「特に、今回の交流でやってきたキキョウ君はとても美しい少女なのに…」
「………………………え?」
学院長の台詞の中にとんでもない単語が聞こえ、トールは耳を疑った。
「が、学院長?」
「おや? どうしたんだいトール君?」
「…あ、あの、今、『キキョウ』って言いました?」
「? 言ったが、それがどうしたんだい?」
「………………やば」
トールは顔を横に向けて冷や汗を流した。
…なんと言うか、トールのよく知っている名前だった。
「ん? トール君? 顔色がなにやら…、それに、その汗は?」
「な、なんでもないです。そ、それよりも、その人に俺の名前とか教えてないですよね! ねぇっ!」
「…君の名前は言ってないが、研究室の責任者について素性は少し話をしたかな?」
トールのなんだか切羽の詰まった声に押されながら、学院長は何かを思い出すようにそう言った。
その言葉を聞いたトールはさらに焦りだした。
「どんな感じにですか!」
「簡単に、『ドワーフの養父に育てられた将来有望な男子生徒だ』と言う説明をしたが…、それがどうかしたのかい?」
「うわぁ…、ばれた…、絶対にばれた」
学院長の言葉を聞き、トールは絶望した。
顔を手で覆って、…なんだか今にも泣き出しそうだった。
「トール君?」
「………すいません。ちょっと、いきなりの話で少し混乱しているんで返事は後日でいいですか?」
学院長の自分を気遣うような声に、トールは少し考えるように眉を顰めた後、そう言ってこの場から退室しようとした。
「ふむ、どうやら具合が悪いようだね。まぁ、こちらもまだ手続きなど色々とすることがある事だし、いいでしょう。では、また明日にでも─」
学院長はトールの様子が普通ではないことに気がつき、この場は無理に引き止めずに退室を許可しようとした。
だが…、
『ガチャリ』
学院長室の扉が許可も無く開けられ、そこから柔らかそうな亜麻色の髪を持った少女が現れた。
少女は部屋の中にいた2人の内の片方を見て、嬉しそうにこう言った。
「あら! 懐かしい感覚がしたので来てみれば、トールちゃんじゃないですか!」
─この少女が現れた事でトールは退室をすることが出来なくなり、しばらくの間地獄を味わう事になる。
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