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決意

「始めるか」


 俺は自分の剣を取り出し、体中のマナを思いっきり剣に送った。


 ミスリルを加工するには、調節した多くのマナが必要だ。


 そして、ミスリルを壊すにはそれを多く上回る大量のマナが必要だ。


 マナの量を調整することなく、大量に送る必要がある。


 これには多少時間はかかるが、過度のマナを流し込まれたミスリルは徐々に形が歪んで行き、最後には砕けて砂となる。


 今俺がやっているのは、その加減抜きの全力のマナの注入だ。


 あと数分も続ければ、剣は砂へと変わるだろう。


 俺は剣がすべて砂に変わるまでマナを送り続けた。





 数分後─



 徐々に剣の崩壊が始まった。


 亀裂が走り、剣が切っ先から砕ける。


 まるで砂のように、サラサラと白銀の砂が落ちた。


 ミスリルと同じ色の白銀の砂。


 キラキラと光る白銀の砂。


 俺はそれを剣を包んでいた布の上に落とし、砂がこぼれ落ちないように布でしっかり包み込んだ。


 そして、俺はその砂を包んだ布を持ってあのちびっこがいるベランダよりも高い位置にある木を探した。






 「それ」に最初気がついたのは侍女の一人だった。


 彼女は王女が泣いているのを必死に宥めながら外にいるトールの様子もずっと見ていた。


 だから、トールが木に登って何かをしているのには気がついていた。


 でも、それが何を意味をするかなんてわからなかった。


 侍女がすべてを理解したのは全部終わった後だった。









 木から小さな光が見えた。


 はじめは太陽の光が何かに反射しているのだと思ったが、違った。


 光はキラキラと白銀に輝いていた。


 そして、その光は徐々に量を増やしていた。


 はじめは小さな光だったが、光は木からどんどん溢れてくる。


 銀色の光は風に乗っていき、次第に光の帯となっていった。


 トールにはそれがミスリルの砂が風に運ばれ太陽の光に反射しているのだと分かっているが、それを知らない者が見れば実に幻想的な光景だった。



「わぁ……」



 ルシアはそれを呆然と見ていた。


 そして――





「ちびっこ見えてるかーーーーー!?」


「!?」




 ルシアは青年の声にハッと我に返った。


 声の聞こえた場所に顔を向ければ、自分がいるベランダとほぼ同じ高さの木に上っていたトールの姿が見えた。


 太い木の枝に腰掛けるような形で座り、何かの布をヒラヒラと振りながら自分に注意を引こうとしていた。


「ト、トールさん!? あ、危ないッ…」


 ルシアはそのあまりに危険な体勢に驚き、声をかけようとするが、それよりも先にトールの声がルシアの耳にはっきりと届いた。



「驚いただろっ!」


「えっ…」


 まるで、悪戯の成功した子供の様な笑顔で自分に向かって話しかけてくるトールに、ルシアは面食らった。


 ルシアはトールが王との謁見で随分と辛い思いをしたことを知っていた。


 そして、今もその辛い思いを引きずっていると感じ、その原因の一端である自分を責めていた。


 だが、傷ついていると思っていた本人が今は満面の笑顔を自分に向けている。


 その意味がわからずにルシアが呆然としていると、トールが興奮したように叫んだ。



「すごいだろっ!! これは俺が鍛冶の技術を磨くうちで考えたんだ。砕けたミスリルが風に乗って凄く綺麗だろ!?」


「は、はい! す、凄く綺麗です」


「あぁ!! すげー綺麗だよな!」


「は、はい!」


「実はな! これは俺が作った剣でやったんだ! どうだ! 俺の剣はすごいだろう!」


「は、はいっ!」


 トールの大きな声にルシアはほとんど反射的に「はい」と返事をする。


 ルシアは本当ならもっと他に色々と言いたいことがあったのだが、今は混乱してしまって言葉が上手く出てこない。


 そして、そんなルシアのことなどおかまいなしにトールは喋り続けた。


「お前! なんだか誤解してるみたいだから、これだけは言っておくけどな! 俺は謁見の間であった事なんて、全っ然! 気にしてないからな!」


「え…?」



 その言葉にルシアは耳を疑った。


 なぜなら、ルシアはトールが傷ついている姿を見ているからだ。


 それは、ベランダから花園で叫び続けたトールを見ていたからではなく。


 もっと前から、もっとも近くでトールの姿を「視て」いたからだった。


 トールの傷つく姿。


 それを一番近くで見ていたのはおそらく自分だ。


 だから、知っている。


 トールがどれだけ傷ついたのかを。


 それなのに、トールはそれを勘違いだと言う。


 それにルシアはそんなわけがないと困惑する。


「よく聞けよ!! ちびっこ!!」


 トールはさらに叫んだ。


 まるで、ルシアの悩みなど吹き飛ばすように


 力強く。


 自信強く。


 強く、強く。


 トールは、叫んだ。



「俺はな! 俺はこんな景色を作ることが出来る、凄い物を作れるんだぞ! それなのに、あんな事だけで俺が「夢」を諦めると思うのかっ! 見くびんなよ! 俺はドワーフの腕を持つ男だぞっ! いいか! 俺は絶対に「夢」を諦めない! 俺は絶対に人を『守る剣』を作ってみせるっ!!」


「あ……」



 その言葉を聞き、ルシアは理解した。


 木の上で叫ぶ青年が、ものすごく「強い」ということに。


 ─彼は、すでに「決意」しているのだ。


 もう、後戻りをしない。


 横を見ない。


 立ち止まらない。


 そんな、人生の決意をすでに決めている。


 ─これはもう、諦める諦めないの話しではない。


 彼は、すでに決めているのだ。


 貫き通す決意を。


 自分が落ち込むことなど、意味などなかった。


 彼はたとえどんな困難があろうと、立ち止まらない。


 立ち止まるわけがない。


 だって、彼は─











 ─―彼の名は、トール=グラノア。


 ドワーフの鍛冶師の腕を持つ、揺るがない決意を秘めた強い青年。


 ─―そして、泣いている少女に自分が夢を諦めない事を証明するため、折角作った自分の剣を壊してしまうような。


 不器用だけど、とても「やさしい」鍛冶師。


 彼は諦めない。


 人を「守る剣」を作るという夢を叶える為に、彼は絶対。


 ─―諦めない。


これで一部が終わった感じです。

次から新しい話を書く予定。

不満があると思います。作者が未熟で本当に申し訳ないです。

感想がありましたら、どうぞ気軽に書き込んでください。



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